オーディオ&ビジュアル評論家麻倉怜士氏が、注目機器やジャンルについて語る連載「麻倉怜士の新デジタル時評」。今回は、放送開始から半年が経過した4K8K放送の注目コンテンツについて紹介する。4K8Kコンテンツは、まだ数が少ないと言われることが多いが、その中でも珠玉と言われる10コンテンツをベスト10形式でお届けする。
IMAX上映した大判フィルムからスキャンしているため、解像感が非常に高く、しかもデジタルとは違う趣きだ。通常の35mmフィルムに比べ、ほぼ4倍の情報量があり、粒子数が多く、画質は非常に繊細だ。ビデオ的とは違うフィルムの質感が楽しめる。
IMAXの大画面で見ることを想定して制作されたただけあり、8Kとのマッチングは抜群。繊細な情報量とグラデーションの掛け算的なテクスチャーは大変素晴らしい。4K版も放送されたが、はっきり、くっきりと鮮明で、パワフルなテレビ的画質だった。一方、8K版は繊細で高精細なフィルム感のある仕上がりで、粒立ちが細やかだ。
色が非常に豊かで、あふれ出るようなフィルム感を味わえる。映画素材はフィルムから2K、4Kにする際、どうキャプチャーするかで仕上がりが格段に変わるが、4Kや8Kスキャンでは情報量が圧倒的だ。撮影時には光が足りなかったり、ノイズが出たりしていて、フィルムでは納得の行く画質に仕上がらなかった作品でも、4K化する際にエンジニアが魂を吹き込み、当時は不可能であった高画質を再現することなどがあるという。
「スティング」は、制作過程の詳細はわからないが、グレインがとてもきれい。見方によってはノイジーな感じになるが、大きさやその質感によりフィルム的味付けが得られている。グレインが多いだけでなく、光の充満の仕方や細かな質感まで表現され、情緒が感じられる画質だ。特に肌の描写がリアルだ。色のグラテーション情報がたいへん豊かで、ロバート・レッドフォードの顔には、驚く程のヒューマンな色模様がある。貧乏な詐欺師が一流の大詐欺師に成長するに従って、着るスーツが豪華になっていくテクスチャーの変遷も、4Kは実にクリアに表現している。
スティングと同様に「ニュー・シネマ・パラダイス」も、4Kで見ると肌の色味や劇場の佇まいなどが深く表現されていて素晴らしい。非常にアナログ的で、フィルム的な優しさを持つ画質に仕上がっている。ここまで質感を表現できる4Kならではの情報量の多さが際立つ。特に解像度が高いというわけでもないのに、シネマライクな味わいを持つ画質には、感動を覚えた。
特に解像度が高いというわけでもないのに、シネマライクな味わいを持つ画質には、感動を覚えた。
猫と4Kはよく合う。猫コンテンツは数多く登場しているが、それは猫こそ、高画質で見るべき被写体だから。非常にクリアで、4Kの威力は猫の毛並みに現れる。猫好きだけでなく、すべての人が癒やされるだろう。画角がほぼ固定で、ズームも最小限。大画面で見ると、大変安定している映像だ。
猫がカメラのレンズに近づいてくるシーンがある。その時は、自分の目の前に猫があらわれて、近くによってきてくれたような錯覚に陥る。
4K8K映像は癒やしの要素が多分に含まれている。人間の脳は、映像を見たり、音楽を聞いたりする際、画質の粗さや周波数帯域の狭さなどを、脳で補って、補正している。そのため長時間画質の悪い映像を見ていると補正が重なり、脳が疲れてしまう。4K8K映像は、情報量が多く、人間の瞳の情報量に近いため、自然に頭にすっと映像が入ってくる。
世界ネコ歩きは、日本はもちろん、海外で撮影したコンテンツもあり、世界の風景を猫目線で楽しめ、癒やしにも重宝する。それにしても、岩合さんは、固定カメラの前で、猫を静止させる名人だ。
民放の4K番組はコンテンツが少ないと言われているが、テレビ東京は4Kドラマが充実している。その中でも「忘却のサチコ」は好きな4Kドラマだった。人工的な強調感がまったくなく、とても円滑かつすべらか。解像感は良いが、テレビ的な鮮鋭感ではなく、映画的な滑らかな精細感を持つことが特徴。2Kドラマでは表現できなかった画調だ。主演の高畑充希さんの肌が大変美しく、なだらかなグラデーションを描く。瞳もたいへん大きく、クリアで目力も抜群。
現実的な画作りがではなく、少しシネマ調なのもドラマ的なファンタジーを感じる。高畑充希さんの前後のボケも美しい。
グルメドラマのため、さまざま料理が出てくるが、鯖の煮込みの汁のオイリーさ、肉の切り身の肉感さ、ごはんの一粒一粒など、食べ物の質感がとてもいい。フォーカスのメリハリがきき、アップも多いため、おいしそうに食べる顔のほほのふくらみや輝く黒髪が大変きれいに表現されている。
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