8Kのコンサート番組は意外と少ないが、ヴァイオリニストの諏訪内晶子さんが弾く、シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」の演奏が、NHK交響楽団のライブとして8Kで放映されている。ホームグラウンドのNHKホールならではの安定した8K映像で、粒子が非常に細かい。コントラストは上々で、映像は立体的。諏訪内晶子さんの衣装のエンジと黒とラメの鮮やかさ、黒髪のあでやかさが、8Kで素晴らしい表現力を伴っている。ヴァイオリンのボディの曲線に沿った波打つ反射も8K的な光の饗宴だ。
面白いのは、同じNHKホール中継でも8Kと2Kでは、仕上がりが大きく異なること。2Kでは輝度や色情報量が少ないため、描ききれていない部分が多い。楽器の質感や反射感、ステージの床の質感などは、8Kの独壇場。人の肌の質感も2Kはドライな感じに見えるが、8Kでは神々しく、ゴージャスな色ツヤが表現される。
このコンテンツはSDRだが、明るくて素晴らしい仕上がり。HDR(ハイブリッド・ログ・ガンマ)の嚆矢の頃の8Kライブは白側階調を表現するため、照明のあたった部分など飛ばないように、平均輝度を暗めに設定しており、この諏訪内映像のように、それ以前のSDRの方が明るい映像が楽しめた。
HDRが本領を見せたのが、2018年央にオランダのアムステルダム・コンセルトヘボウで収録したロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の8KHDR。平均輝度が高く、金管楽器の黄金の的確なピークを持つ。コントラストもしっかり。ほどよいHDRが映像の味わいに通じる。その使いこなしも上手くなってきた。
4K映像の映画であれば、すべてが良いというわけではない。4Kでも解像感が甘かったり、ノイズが多かったりと、バランスは難しい。しかし1月26日にNHK4Kで放映され65mmフィルム撮影「アラビアのロレンス」は、圧倒的に素晴らしかった。非常にディテールが多い中で、神々しいフィルム的なテクスチャーが横溢していた。軍服の素材感、光と影のグラテーション、金髪の美しい輝き、砂漠の夜明けのオレンジ色の神々しさ――。砂の一粒一粒まで解像するようなディテール感なのだが、ノイズも少なく、非常にフィルム的な質感に感動。空、砂漠、井戸――その熱さが、画面から伝わってくる。4Kのフィルム映画として最上級のクオリティであろう。「アカバの戦い」のスケール感は圧巻だ。
実は私は「アラビアのロレンス」のレストア作業に立ち会ったことがある。2012年に当時ソニー・ピクチャーズ傘下のマスタリングとレストアの専門プロダクション、カラー・ワークスを訪問した時、その作業が行われていた。8Kスキャンされ、4Kでレストア、マスタリングがされた。画像情報量があまりに多く、しかもダメージが大きいので、画面を4分割して作業し、のべ100人のエンジニアが、長期に渡って作業を行っていた。
宝塚歌劇5組全てのライブを放送しているBS8K「宝塚スペシャルシート」は、8KとHDRの魅力が満載だ。大袈裟な舞台向き表情やはっきりとした濃いめの化粧、鼻が白線、目の周りの青、赤系の頬など、人工美の極地。8Kでは、そうした作り物の世界に入っていけるような面白さがある。
大変素晴らしかったのは「8Kスーパーハイビジョン 宝塚スペシャルシート BADDY-悪党は月からやって来る-/月組公演」。舞台作品における8Kの意義が分かり、すごさがとてもよく出ていた。
舞台作品には全体像とディテールという2つのポイントがあるが、今までの2K映像はアップが中心で、全体を捉えるという見方ができなかった。そもそも引きの映像では情報が判別できず、特に宝塚のような凝った舞台での臨場感を得ることが難しかったのだ。
しかし8Kでは、主役はこんな演技をしているときに脇役はどんな演技をしていて、さらに舞台袖ではこんな動きをしているといったことが、ひと目でわかり、かつアップ時でも顔であれ衣装であれ、非常に印象的。8Kはとても舞台に向いていると感じる。
宝塚は独得のメイクをしているが、その細部まで本当によくわかる。男役なら、衣装やメイクが大胆で男らしく、キラキラしている感じは8Kで説得力があり、宝塚とはこんなに面白いのかと感心した。“ヅカファン”になってしまいそうだ。
4K/8Kの華の1つが映画だ。もともと、35mmフィルムは4K、65mmフィルムは8Kの情報量を持つとされ、映画作品の4K/8K化は、まったく理に適っている。4Kでは「アラビアのロレンス」「ナバロンの要塞」「追憶」などで、特にフィルム感が濃密な映画画質が堪能できたが、8Kでは3月に2回、8K、60p、SDR、5.1chにて放送放映された「マイ・フェア・レディ」(1964年)が、さらに圧倒的だった。
8Kの映画は「2001年宇宙の旅」と「マイ・フェア・レディ」の2つ。2001年宇宙の旅は哲学的な内容で、襟を正して、正座をして見るような緊張感がある。一方のマイ・フェア・レディは、それとは対局にある楽しいミュージカル。
本作品はレーザーディスク、DVD、BDと見て来ているが、8Kで観るオードリー・ヘップバーンは、それらとはまったく違う存在感だ。50年以上前のヘップバーンの姿はここまで高貴だったのか。それも変身物語だから面白い。粗野な花売り娘から、舞踏会で某国の王女に間違えられるほどの高貴なレディへ変身する過程の外見の変化に加え、人間性の変化、知性の変化……という内面の変化まで、8Kはリアルに活写する。
特にアスコット競馬場でのシーンは、白い衣装が多用されており、全体的に白いシーンに仕上がっている。しかし特に美しく輝く白を身にまとっているのがオードリー・ヘップバーンだ。8Kで観る美術の素晴らしさも刮目。本作『マイ・フェア・レディ』でアカデミー衣裳デザイン賞を受賞したイギリスの写真家セシル・ビートンが監修した美術の本物感を8Kで堪能。ビートンが時代考証した衣装の素晴らしさ。
8Kを観ると、映画の見方が変わる。これまで「マイ・フェア・レディ」を観る時はストーリーの面白さに引き込まれていたが、8Kではストーリーは映画を構成する要素のひとつであり、衣装やセット、照明、撮影方法などのすべてで成り立っているということを改めて強く感じさせてくれた。8Kだから表現できた特別なフィルム感に圧倒された。
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