麻倉怜士の新デジタル時評--4K8K放送の注目コンテンツベスト10 - (page 2)

6位:テレビ東京の4Kドラマ

「サイレント・ヴォイス」
(C)「サイレント・ヴォイス」製作委員会2018
BSテレ東 7月22~26日(毎日2話ずつ全10話)12時56分~「サイレント・ヴォイス」4K再放送
「サイレント・ヴォイス」 (C)「サイレント・ヴォイス」製作委員会2018 BSテレ東 7月22~26日(毎日2話ずつ全10話)12時56分~「サイレント・ヴォイス」4K再放送

 7位でも紹介したように、テレビ東京は4Kドラマコンテンツが充実している。4Kスタジオは、天王洲に1、神谷町に1、六本木本社に2と4つを数え、民放4Kの現状からすると大変充実している。それにも増して評価したいのが、BSテレ東の4Kドラマの画質の素晴らしさだ。

 1月29日に放映された「池波正太郎時代劇 光と影『武家の恥』」は、しっとりとした味わいを持ち、フィルム的な上質感のある仕上がり。黒がかなり沈むため、暗部階調は少なく、明部との対比が鮮やかだ。しかしテレビ的なハイコントラストではなく、優しい画調だ。サイドライトも美しく、顔のディテールも滑らかであった。

 他局にも4Kドラマはあるが、2Kの延長のテレビ的な質感がほとんどだ。ところがBSテレ東4Kのドラマはまったく違って実に映画的なのである。

 BSテレ東では2016年から4K制作を開始。BSにドラマ枠を作り、来るべき4K時代に向けてノウハウの蓄積も兼ねて、配信用として4K作品の制作を始めた。ひとつは2K、もうひとつは4Kの2カメラ構成で実験したところ、4Kは切り出しが可能で、その画からアップもできる。情報量が大変多いので、ドラマで、その情報量を活用する作戦だ。

 BSテレ東では、4K化とは高画質に加え、2Kドラマの縛りから訣別する契機でもあった。2Kドラマには掟がある。暗い絵はだめ、単玉(固定焦点)レンズはだめ、望遠レンズはだめ、背景がぼけるのはだめ、手持ちカメラはだめ……。人物も背景も、すべてのオブジェクトにピントが合わなくてはならない。つまりものすごく「テレビ的」でなければならなかった。

 テレビ自体の画質が飛躍的に上がり、大画面化も進んでいるのに、制作側の意識は昔のままというのは、時代に合わないのではないかという考えから、2017年に土曜夜9時ドラマ「プリズンホテル」を4Kで撮った時に、2Kドラマではだめといわれたことを、すべてやってみることにした。テレビのカメラマンではなく、映画のカメラマンに撮影を依頼、レンズをズームから単玉レンズに替え、色作りも2Kでは現場でビデオエンジニアが調節していたのをやめ、LOGで撮影し、編集時にグレーディングする方法に変えた。

 その変化は非常に大きかった。出来映えがぜんぜん違う。シネレンズを使ったので、被写界深度の浅い映像で奥行き感が出せ、映画のようなボケ感を表せた。4Kドラマとしてまったく新しい魅力があった。

 2年間に渡る4Kドラマ制作トライの総集編が2018年に放送されたドラマ「サイレント・ヴォイス」だ。映画的なデヴィッド・フィンチャーの緑の世界と、リドリー・スコットの暗部の世界を併せ持った色調を追求。クローズアップ撮影を多用し、微妙な顔の動きで思い表現するのが上手な、栗山千明の演技を4Kで確実にキャプチャーした。

 口角上げるのは、2Kではかなり意識的に持ち上げないと、その効果が分からない。しかし4Kでは、わずかな動きも鮮明に捉えられる。だから主人公を演じた栗山千明の、微妙に笑う、ごく細かな頬の動きというミクロなニュアンス感を描けた。肌の色が微少な動きに伴い、繊細に変化していくさまも、4Kは見事に捉えていた。

 4Kで奥行き感の表現が可能になり、ストーリーや演出にも大きな変化があったという。2Kでは台詞で叙述しなければ、進行しなかったが、4Kでは台詞がなくとも、たたずんでいる2人だけでストーリーを演出でき、表現が大きく変わった。台詞のない静止画でも光の表情と、インフォーカスとアウトフォーカスで十分に物語を語れた。4Kは絵自身が語るのである。

5位:「富士山 森羅万象 大山行男が撮る神秘の素顔」(NHK)

 神秘的な富士山の素顔を30年に渡り、追い続ける写真家大山行男氏が、初めて8Kタイムラプス表現に挑むドキュメント。大型カメラ4台を使い、1年半かけて撮った75万枚の超高精細・連続写真を動画にすると、驚異的な富士の素顔が浮かび上がる。変幻自在にうごめく怪しげな光と雲、標高3000メートルの北岳から対峙した雷雲の嵐と劇的な富士の夜明け、幻の光景、彩雲など、宇宙感あふれる神秘の絶景を迫力の映像で描き出す。私はこの番組を見て、初めて富士山の神秘の素顔に触れた思いがした。

 大山氏は自作のエイト・バイ・テン(8×10)の大判カメラを使用し、富士山と青木ヶ原樹海を撮影。2014年からは8Kスーパーハイビジョンの映像作りのため、デジタルカメラを使って、タイムラプス撮影を始めた。自力で建てたドームの周囲には牧草地が広がり、一方向だけ大きな窓が取り付けられている。額縁のような大きな窓の先には富士山の威容がそびえ立つ。

 あえて不安定な天候のときに富士山を訪れ、雲の動きが早く、稲妻が光る様子を撮影。タイムラプスの演出と相まって見たことのない富士山の感動的な姿が見られる。これは8Kだからこそ、伝わる迫力で、同じものを2Kの画質で見ただけでは、怖さ、凄みは伝わってこないだろう。8Kは、色の変化、風の吹き具合をその場で感じているようなリアリティが感じられるのである。

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