楠本氏には、みらい人財塾の参加者から「楽しいと思う一方、(新事業創出が)こんなにしんどいと思わなかった」という声が届いている。木内氏はみらい人財塾のミーティングに立ち会っているが、最初の3回は楽しげな雰囲気だったものの、回を追うごとに、企画立案に苦しむ様子が見て取れるようになったという。これは東洋紡特有の事象ではなく、木内氏は「その苦しさを乗り越えて行くためには立案者自身が本当にやりたいことをやる」ことが重要になってくると強調する。
みらい人財塾の活動は、各従業員が通常業務をこなした上で、あくまで並行的に行うのが前提の取り組みだ。活動費用はみらい人財塾が負担するものの、現業の職場と調整してワークショップに出席する必要があり、一定の責任も出てくる。
また、みらい人財塾に参加するメンバーの上司が難色を示すケースもあり、楠本氏も対応に奔走した。そこで「人材育成」という魔法のキーワードが役立つという。「若手に今から小さな失敗や成功の経験を積んでもらうということを訴え、理解を得ていった」(楠本氏)
しかし「人材育成」を旗印にしすぎると、しわ寄せも出てしまう。「しょせん研修なのだから、出席するだけでいいでしょ」となっては意味がない。最終顧客に受け入れられるだけの製品を作らねばならないし、それがクラウドファンディングで成功するかも、プロジェクト進行中の段階では当然わからない。みらい人財塾の参加者をどう評価するかは、楠本氏自身いまだ悩んでいるという。
新事業となれば、一定の投資が発生するので当然リスクはある。ただ、突き詰めるとリスクとは何か。事業が失敗して会社に損失を与えても、会社側がその従業員を解雇するのは並大抵のことではない。特に大企業ではより顕著だ。
ならば自由に新事業に取り組めばとも考えるが、「新事業担当は出世しない」とのジンクスも世間では語られているようで、継続事業と新事業のバランス取りの難しさが木内氏・楠本氏の会話から伺えた。
さらに根源的なところでは、「新事業で起業したい人が果たして大企業に勤め続けるのか」という話もある。このエピソードに2人は思わず苦笑いしていたが、楠本氏は「大企業に努めている人にまったく意欲がないかというと、恐らくそうではない。そういった社内起業家を見つけるために『みらい人財塾』を活用したい」と述べた。
最後に木内氏は、「企業には、新しいビジネスを生むための種がありつつも、それを阻害する要因もあり、突破する方法もきっとある。簡単ではないが、我々のサポートによって1つでも事例を増やしていきたい」と述べ、講演を締めくくった。
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