KDDIら3社、「ドローン警備」の実証実験に成功--AIで不審者を検知し追尾

 KDDI、テラドローン、セコムは11月15日、LTEで通信する「スマートドローン」に人物検知機能を搭載した機体を使用して、スタジアムの広域警備の実証実験に国内で初めて成功したと発表した。実証実験は11月28日に、浦和レッドダイヤモンズのホームスタジアムである「埼玉スタジアム2002」(埼玉県さいたま市緑区)で実施した。

実証実験で埼玉スタジアム2002上空を飛行するスマートドローン
実証実験で埼玉スタジアム2002上空を飛行するスマートドローン

固定カメラでは十分に監視できず、無線LANドローンでは電波到達距離が問題に

 今回の実証実験で、シナリオ作成を担当したセコムの技術開発本部 開発センター 開発統括担当ゼネラルマネージャーの尾坐幸一氏は、スタジアムなどの大規模イベント会場を警備する上での課題として、時間帯によって混雑する場所や状況が大きく変わる点を挙げた。「入場時、イベント開催中、退場時で、重点的に警備すべき場所、注意すべきポイントが異なる。そのため、固定設置の監視カメラでは十分に監視することが難しい」(尾坐氏)。ちなみにセコムは今回の実証実験で、警備担当の観点から運行管理機能に求める要件の定義も担当している。

セコム 技術開発本部 開発センターで開発統括担当ゼネラルマネージャーを務める尾坐幸一氏
セコム 技術開発本部 開発センターで開発統括担当ゼネラルマネージャーを務める尾坐幸一氏

 セコムでは、無線LANで通信するドローンを大規模イベント会場の警備に使用しようと検討したこともあったが、「無線LANは電波が遠いところまで届かない。大規模な会場で使うとなると、アクセスポイントを多数設置するなどの初期コストが大きくなってしまう」(尾坐氏)ことから、ほかの方法を探していた。そこでセコムが選んだのがLTE通信で制御できるスマートドローンだ。携帯電話と同じLTEの電波を使用するスマートドローンなら、ドローンだけを用意すればすぐに使える点が大規模イベント会場の警備に適しているというわけだ。

高高度を飛行するドローンが不審者を検知し、低空を飛行するドローンが追尾

 今回の実証実験では、同じ仕様のスマートドローン3台を使用した。このドローンの本体重量は積載荷重がゼロの状態で約7kg。この状態での連続飛行時間はおよそ20分。積載可能な荷物の重量は約15kgで、限界まで荷物を積載した状態での連続飛行時間は約10分。

今回の実証実験で使用したスマートドローンの実機
今回の実証実験で使用したスマートドローンの実機

 実験では1台をスタジアム上空から広範囲を俯瞰で監視する「俯瞰ドローン」として使用し、2台を低空飛行の「巡回ドローン」として使用した。俯瞰ドローンが上空から4Kカメラで撮影した画像から不審者を検知し、運航管理システムに不審者の位置情報を通知する。通知を受けた運航管理システムは巡回ドローンに不審者の位置を通知し、離陸させる。巡回ドローンは不審者がいる場所にいち早く到着し、低空飛行で追尾する。

今回の実証実験で検証した項目
今回の実証実験で検証した項目

ドローンでAI処理を実行し、不審者をいち早く検出

 今回の実験では、俯瞰ドローンに不審者をいち早く検知させるために、スマートドローンに深層学習の学習モデルを実行させるハードウェアを搭載した。クラウド上の深層学習システムを使った方が、より高い精度で不審者を検知できるが、画像をLTE経由でクラウドに送信し、演算結果を返信してもらうまでに時間がかかってしまう。そこで、スマートドローン自体に不審者を検知する機能を搭載した。

 とはいっても積載重量に限界があり、使用できる電力量にも限りがあるドローンに載せるコンピュータは小規模で電力をなるべく消費しないものにする必要がある。KDDIは今回、Intelが発売している推論処理専用ハードウェア「Movidius Neural Compute Stick」を2本使用した。コンピュータのUSB 3.0端子に挿し込むだけで、画像認識などの推論処理の演算に使用できる製品だ。複数の製品をUSB端子に差し込んで、演算性能を上積みしていくことも可能だ。

Intelの「Movidius Neural Compute Stick」。USB 3.0端子に挿し込めば、推論処理の演算に使用できる
Intelの「Movidius Neural Compute Stick」。USB 3.0端子に挿し込めば、推論処理の演算に使用できる

 KDDI 商品・CS統括本部 商品戦略部 商品1グループで課長補佐を務める杉田博司氏は、Movidius Neural Compute Stickを動作させるソフトウェアについて「基本的にIntelが推奨するものを使用し、深層学習フレームワークはオープンソースのものを使った。ただし、上空からの不審者検知という用途に合わせるために、ソースコードを一部改良した」と説明する。

 さらに「上空から人間を撮影した画像は数が少ないが、不審者によくある特徴を持たせた学習データを用意し、上空からの不審者検知に特化した学習モデルを構築した」という。学習モデルの作成と学習用データを使った学習は高性能な大規模サーバーで実施し、完成した学習モデルをドローン上のコンピュータに移して、ドローンでは学習モデルに基づく推論処理だけを実行している。

KDDI 商品・CS統括本部 商品戦略部 商品1グループで課長補佐を務める杉田博司氏
KDDI 商品・CS統括本部 商品戦略部 商品1グループで課長補佐を務める杉田博司氏

運航管理システムも一新

 今回の実証実験では、KDDIとテラドローンが共同で開発した新たな運航管理システムを使用した。このシステムは、従来の運航管理システムに飛行エリア周辺の3次元地図情報、天気や風況の情報、飛行エリア周辺のLTE電波強度の情報を確認し、飛行プランの安全性をより性格に判断できるようにしたものだ。

新開発の運航管理システムでは、3次元地図(左上)、天気や風況(右上)、上空の電波強度(下)を確認できる
新開発の運航管理システムでは、3次元地図(左上)、天気や風況(右上)、上空の電波強度(下)を確認できる

 ドローン飛行プランを作成して、運航管理システムに予約すると、飛行予定ルート周辺の3次元地図、天気や風況、電波強度を自動的に確認し、飛行が不可能と判断したら予約を受け付けず、飛行プランの修正を求める。例えば、建物に衝突するルートの飛行や、風が強すぎる時間帯の飛行、電波強度が弱いエリアを飛行するなどのプランは飛行不可能と判断する。

 今後3社は、試合やコンサートなどのイベント開催時に、人混みの中から不審者を検知することを目指すとしている。さらに、施設警備だけでなく設備点検や災害対策など多様な用途にAI機能付きのスマートドローンを活用することも視野に入れている。

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