大阪市の起業家支援拠点である大阪イノベーションハブ(以下OIH)は12月16日、情報通信(ICT)分野で起業を目指す若手起業家と学生のビジネスプランを発表するピッチコンテスト「ミライノピッチ2018」を、近畿情報通信協議会との共催で開催した。ミライノとはmirai×innovation = mirainnoの造語で、未来に向かってはばたくイノベーターを応援し、事業化を支援することを目的としている。
このイベントは、総務省と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が共催する、全国各地から選抜された学生や若手起業家がビジネスプランを披露する全国大会「起業家甲子園」と「起業家万博」の近畿地区予選も兼ねており、2019年3月11〜12日に東京(丸ビルホール)で開催される「総務省・NICT Entrepreneurs’ Challenge 2 Days」出場者を審査員を務めるNICTのメンターらが選出する。
ミライノピッチは2016年から3回目の開催で、2018年は書類審査に学生部門20件、一般部門18件の応募があり、そこから学生部門10件、一般部門7件が選ばれた。コンテストはそれぞれ7分間のピッチをして、直後に審査員のメンターから5分間の質疑応答というスタイルで進められ、同日に表彰式も開かれた。
学生部門では、ペットロボットに災害避難情報を提供するサービスや、BLEタグを活用した建築現場の安全支援、民泊で使用される電気料金を削減するスマートコントローラーなどが発表された。アイデア段階のものから、プロトタイプまで出来上がっているものまで、プランの完成度は様々だが、いずれも起業を目指す意欲は高く、事業目標の設定などもピッチに盛り込まれていた。
全国大会への出場権にあたるNICT賞は、iPhoneに搭載されているFace IDを活用して脳卒中を早期発見するアプリ「AVIATO」を開発する、滋賀医科大学の高畑翔吾氏らのチームが受賞した。医大生らしく画像から顔面の片麻痺を診断するという専門性の高いアイデアや、問診から搬送まで一貫した操作で患者の命を守ろうとする課題設定が他者では真似しにくく、独自性が高いという点で評価された。
そのほか、関西地域の地方創生に関連するプランを表彰する近畿総合通信局長賞に、屋内の人の流量をLiDARで計測するシステム「ひとなび」(大阪大学)。グローバルなプランを表彰するOIH賞に、振動で発電と充電ができるスマホケース「STERGY(ステルジー)」(立命館大学宇治高校)。特別協賛賞に、学習を支援するプラットフォーム「Remain_Data(リマインデータ)」(京都工芸繊維大学)。オーディエンス賞に、音声を指点字を示す振動に変換して盲ろう者に伝えるデバイス「ゆびとん」(大阪大学)が選ばれた。
一般部門はすでにサービスを開始しているプランが多く、全体的に完成度が高い印象だった。遠隔操作できるロボットで現地の情報をリアルタイムに提供するサービス「GENCHI」や、3Dデータから1点ものフィギュアを出力できる「クイックフィギュア」などユニークなプランも目立った。
NICT賞に選ばれた空き家活用社は、全国の空き家問題を解決するマッチングサービス「AKIDAS」や無料の空き家管理サービス「AKIKAN」などのサービスを展開し、OIHが実施するシードアクセラレーションプログラムOSAPにも参加している。空き家の情報調査員にシニアを採用していることや、2033年に2100万戸まで急増する空き家問題の解決という社会的意義もあることから審査員全員一致で決まった。
他にも一般部門では、近畿総合通信局長賞とオーディエンス賞に木製のスマートデバイス「Mui(無為)」を製作するMui Lab、OIH賞にIoTやウェアラブルデバイスなどで農業技術の継承を進める「ASP(エーエスピー)」、特別協賛賞に残土処分のダンプをアプリで手配できる「DAMPOO(ダンプー)」が選ばれた。
2018年のミライノピッチで選ばれたプランは学生部門が総理大臣賞、一般部門が審査員賞を受賞しており、応募プランのレベルの高さに定評がある。2018年はさらに学校やOIHが行う別のスタートアップ支援プログラムからの推薦を受け付けたこともあり、NICTのICTメンターとして審査員を務めたジェネシア・ベンチャーズの田島聡一氏は「前回に比べてビジネスプランのレベルが高くなっている」と講評していた。
同じく審査員を務めたさくらインターネット社長の田中邦裕氏は、「ピッチで大事なのは独自性。アイデアだけだとすぐに模倣される」と言い、「ミライノピッチや起業家甲子園・万博は賞金が出ないが、総務省が主催しているので受賞すれば今までにないアイデアでも受け入れてもらいやすくなる。そこを目指して来年もがんばってほしい」とコメントしていた。
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