スペースの時間貸しという新たな不動産サービスを確立したスペースマーケットと、オフィスビル、マンション、商業施設の開発からリゾート事業や保育事業まで幅広く手がける不動産会社の老舗、東京建物が、資本業務提携を結んだ。目指すのはスペースシェアによる不動産利活用のイノベーションの推進。スタートアップと設立122年の大手企業のコラボレーションはどんな化学反応を起こすのか。東京建物 取締役常務執行役員の和泉晃氏とスペースマーケット 代表取締役CEOの重松大輔氏に話しを聞いた。
今回の資本業務提携は、2017年に新規事業関連のイベントで両社が接点を持ったことがきっかけ。「物件を扱っている大手不動産会社が参入してくれば、スペースシェアの市場はさらに拡大する。それを実現するためにいろいろな働きかけをしてきたが、今回東京建物さんとの資本業務提携という形で着実な一歩を踏み出すことができた」と重松氏は話す。
一方、和泉氏は「不動産の世界におけるシェアリングエコノミーの広がりが加速していると実感する中で、大変良いタイミングだった」と今回の提携を受け止めている。東京建物は1896年の創業以来、オフィスビル、住宅をはじめ、駐車場、リゾート、不動産ファンド、シニア向け住宅や保育施設までさまざまな事業を展開してきた。
しかし、これまで手がけてきた不動産事業はどれも、長いスパンで取り組んできたもの。「施設の賃貸や運営は5年、10年単位でお客様とお付き合いしながら進めている事業がほとんど。時間単位で貸し出すという発想自体がなかった。シェアリングエコノミーには注目していたが、自前で取り組むにはリソースが足りず、スピードも出ない。さらに、スペースを時間単位でお客様に貸し出すことにともなうさまざまな対応やリスク管理への懸念が先に立ち、なかなか踏み出せなかった」と新規事業立ち上げの難しさを説く。
もちろん、今までにも一時的にスペースを貸し出すことはあったが「あくまで限定的なもの。積極的に貸し出してはいなかった」(和泉氏)というのが現状だ。これに対し、重松氏は「スペースマーケットはプラットフォーマーなので、不動産を持っていない。今回の提携では、不動産に対する深い知見とアセットという私たちが持っていないものを提供していただける。これをどう活用するかは、壁打ちしながら議論していきたい」と期待を寄せる。
その1つが、東京建物の分譲マンション「Brillia(ブリリア)」のモデルルームをはじめとする、所有スペースの時間貸しだ。Brilliaでは、東京都品川区にある「Brillia 品川南大井」のモデルルーム内にある地域コミュニティ施設を、スペースマーケットを通じて貸し出す。
モデルルームは、来客の多くが平日の夕方以降と休日に集中しており、平日の昼間は空いている状態がままあるという。「今までは、当たり前と思っていたが、スペースマーケットの方から見ると、さまざまな用途で集まる場所を探している方にとって絶好のスペースだという。言われてみると快適に過ごしていただける環境が整っているし、地域に開かれたスペースとして貢献できることにもなる。ニーズがあるのであれば、ぜひ使ってもらいたい。どのような使われ方になるかは今から非常に楽しみ」と和泉氏は新たな活用法を期待する。
貸し出しスペースはモデルルームに留まらない。東京駅前八重洲1丁目東地区市街地再開発事業の対象エリアに所在する「ヤエスメッグビル」内の地下音楽ホールも、スペースマーケットを通じての利用促進を検討している。音響設備を整えた音楽ホールは、ファンもついており、リピーターもいる人気施設だ。「小さなスペースだが、伸び代は感じている。しかしこの貸し出しのために十分に担当者をつけているわけではなく、積極的なプロモーションはできていなかった。今回スペースマーケットに掲載することで、より多くの方に広く、早く告知ができる。プライベートなコンサートなどにも是非活用して頂きたい」(和泉氏)と、プラットフォームを通じて幅広い利用者にアプローチができるメリットを強調した。
再開発のエリアには、こうしたポテンシャルがあるものの活用しきれていない物件が一定数あるという。再開発を進める際、建て替えを待つ物件のなかには、空室のまま利活用されないものも多い。こうした物件も「耐震性をクリアしたものであれば、積極的に貸し出したい」と和泉氏は意欲を見せる。
「スペースマーケットに現在掲載されているスペース数が1万件を超え、住宅、会議室はもちろん、映画館や寺院、最近は休日の保育園など多岐にわたる。空いているスペースを地域の方に貸し出すことで、潜在的なファンの獲得にもつながる。Brilliaのモデルルームをレンタルした方がファンになり、後に購入者になるかもしれない」と重松氏は、スペースシェアの効果を説明した。
和泉氏は「マンションやオフィスビル、大規模開発のパブリックスペースなど、貸し出せる可能性のあるスペースはまだあると思う。例えばマンションの共用部を貸し出して、それが収益になれば、修繕費に充てられるかもしれない。また、今後建築するオフィスビルの中には、シェアリングを前提に貸しやすいような空間、仕組みを導入するなど、オフィスビルの商品企画自体が変わる可能性もある。将来を見据え、今から取り組むことで、新たな不動産の価値創造にもつながるのではと考えている」と話す。
将来的には、東京建物グループでも相談を受ける機会が多いという地方におけるまちづくりや不動産活用も視野に入れている。「人口減少により、特に地方ではコンパクトシティ化が進む可能性がある。街のスケールが継続的に縮小する状況では、住民のためのコミュニティ施設の新設、更新が望まれても、対応が難しい。そんな状況でもコミュニティ維持を図る手立てとしてスペースシェアの考え方は有効だと思う。セミナーやちょっとした会合など目的にあったスペースを選べる。スペースシェアはこれからの日本にまさにフィットしたスキームなのでは」と和泉氏は見解を話す。
重松氏は「地方におけるスペースシェアもかなり人気が高い。今後は複数拠点で働く人も出てくるだろうし、働き方、住み方が変わってくる。人口減少を逆手に取りながら、新しいチャレンジをしていきたい。そうした動きもぜひご一緒したい」とし、さらなる展開を見据えた。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス