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デジタルトランスフォーメーションのカギは「アジャイル」

高田晴彦(電通デジタル) 中尾索也(電通デジタル)2018年08月06日 08時00分
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 デジタルトランスフォーメーションとは、非連続的に進化するテクノロジや生活者行動にあわせて、ビジネスモデル・戦略を転換させていく取り組みに他なりません。したがって、その推進を成果につなげていくためには、どうやって変化に対応していくかを前提にした進め方をすることがカギとなっています。本稿では、デジタルトランスフォーメーションの主にシステム化に焦点を当て、アジャイルに開発し、マーケティングに活用していく方法論を、事例とともにご紹介していきます(筆者:株式会社電通デジタル デジタルコンサルティング事業部長の高田晴彦、株式会社電通デジタル デジタルコンサルティング事業部 コンサルタントの中尾索也)。

デジタルトランスフォーメーションを巡る課題とは?

 「うちもデジタル化プロジェクトを立ち上げて、もう1年近くになりますが、プロジェクトが全く進んでいないんです」

 「いくつか有望な企画は見えてきているんです。でも、開発部門からはいまの状態では着手できないといわれ、議論に時間を費やすばかりです」

 「経営層からは目に見える成果を早く出せと言われています。こんなことを繰り返している間に、他社にはどんどん置いていかれてしまいます……」

 私たち電通デジタルには、デジタルトランスフォーメーション実現に向けた、主にシステム化を巡る課題や悩みが、日々多く持ち込まれています。冒頭のような切実な声は、いまや一部の失敗事例で見られるものではなく、非常に多くのクライアントで聞かれるようになってきました。なぜでしょうか? 私たちはそこに、デジタルトランスフォーメーションの特性を背景とした、システム化の難しさが課題として潜んでいると考えています。

 課題を抱える多くのクライアントでは、可能な限り計画的に、段階的にプロジェクトを進めようとするケースが多く見られるように思います。

  1. 戦略・打ち手を明確化し、投資の意思決定を行う
  2. サービスや業務を設計し、利用の要件を定める
  3. 必要なシステムを設計し、開発や調達を行う
 段階的にフェーズを進めることで、確実性を高め、やり直しや作り直しを避け、プロジェクトのリスクを極小化する。このような進め方は一般に“ウォーターフォール”と呼ばれますが、デジタルトランスフォーメーションにおいては、逆にハードルを上げる結果を招いてしまうのではないでしょうか。
図表1
図表1
A:新規領域のため全貌や対効果を見極めることが困難
B:環境変化は激しく要求が極めて流動的
C:スピードが要求されるが企業内にノウハウが少ない技術領域

 “段階的に進めることで確実性が上がる”というウォーターフォール型の考え方では、このようなプロジェクトの特性に、十分に対応することが難しくなります。デジタルトランスフォーメーションのシステム化には、異なるアプローチも求められていると、私たち電通デジタルでは考えています。

アジャイルに対応する必要性

 ところで、ウォーターフォール型開発が万能ではないということは、以前より指摘されています。いくつかの議論がありますが、「ある工程が完了してはじめて次の工程を進める」、「後戻りをしないことが前提」、「すべての要件を決め切らないと進めない」といった欠点が主にあげられています。

 これに対し、変化に機敏に対応するためのアプローチとして、以前より提唱されているのが“アジャイル”という考え方です。流動的なユーザー要件に対して、小さく始めて短い期間でスピーディに部分的なシステムを作り、そして、改善をしながら完成度を高めていく方法です。

 このアジャイルという概念が、近年ではソフトウェア開発のみならず、広範な領域に広がってきていることに私たちは注目しています。例えば、マーケティングの世界では、“アジャイルマーケティング”という言葉がよく聞かれるようになってきました。その思想は基本的に、ソフトウェア開発で培われたアジャイルの概念に基づくものです。デジタル化に伴って、売上や顧客行動などのデータをリアルタイムに近い形で取得できるようになってきました。そうであるならば、マーケティング施策を大規模・計画的に行うのではなく、むしろ小さくはじめて、その効果をモニタリングしながら軌道修正することが必要ではないだろうかという考えです。

 これによって、効果が出ないものは早めに終了させ、効果が出たものには予算を多くつけて加速させるなど、機動的な改善をしながら施策効果を最大化させていくことができます。このような、アジャイルという概念の広がりは、デジタル化の進展と切っても切り離せません。生活者行動やニーズの変化はますます速く、事前にすべてを予測し計画していくことは難しさを増しています。一方で、テクノロジの進展は、“やり直すこと”のコストを極小化させ、またさまざまな効果測定や検証を可能にする手段を次々と生み出しています。

 したがって、デジタルトランスフォーメーションでは、このようなアジャイルアプローチを取り込むことが、重要な推進上のカギとなります。なぜなら、デジタルトランスフォーメーションとは、非連続的に進化するテクノロジーや生活者行動に対応していく、極めて不確実性の高い取り組みに他ならないからです。

図表2
図表2

アジャイルアプローチによる事例

 アジャイルに取り組むことで、実際にどのような効果が得られるのか、また課題は何か? ここでは電通デジタルが取り組んだ事例を用いてご紹介させていただきたいと思います。

 サービスA社では、会員制の新たなデジタルサービスの立ち上げを進めていました。市場へは後発参入となることから、ビジネスモデルを柔軟に変更していく前提で、マーケティング戦略は全貌が見えない流動的な状態でした。一方で、会員制ビジネスにおいては、利用促進や解約抑止、商品・サービスの見直しなどにおいて、データに基づく実態把握と意思決定が極めて重要です。そのため、会員属性・サービス利用・広告接触・ウェブ行動といったさまざまなデータを、会員登録前後を問わず一元管理し、新規獲得や維持施策のPDCAを回す基盤として、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の構築が早急に必要であるとみなされていました。

 通常、DMPを構築していくためには、活用目的・範囲・内容を明確化し、設計を行った上で、システムの仕様に落とし込んでいく必要があります。しかしながらA社では、サービスの立ち上げは順次・柔軟に行われていく計画であるため、要件の全貌を明らかにすることができません。

 そこで、電通デジタルでは“スクラム”と呼ばれるアジャイルの一手法を採用し、短期間・小規模な開発フェーズを反復的に実施するアプローチでDMPを構築することにしました。少数精鋭の「開発チーム」と、ビジネス視点で実装優先度を決定する「プロダクトオーナー」、そしてその仲介役として円滑にスプリントを回す「スクラムマスター」らが一丸となって、文字通りスクラムを組み、2週間をスプリント単位としてシステム開発に取り組みます。
図表3
図表3

 要件が見えない中でプロジェクトを開始し、当初はデータレイクというインフラ環境の整備から着手しました。当然ながら、インフラだけ出来上がってきても、ただデータがたまっているだけですから、このままでは大きな役には立ちません。

 しかし、一部分だけでも動くモノができてくると、おぼろげだった周辺の要件が徐々にクリアになっていくのが真骨頂です。データがたまりだしたことをきっかけに、分析や、広告・CRMといった施策へのデータ活用ニーズが噴出していきます。そういったニーズの優先順位を定め、試行錯誤を繰り返しながら、ダッシュボードの構築、外部連携といった対応を順番に果たしていきます。この結果、活用範囲の拡大と機能強化を、ウォーターフォールではなしえない高速に実現していくことができました。

 なぜこのようなスピード感が得られたのでしょうか。それはこの手法の、“早期にフィードバックが得られる”という優位性が発揮されたからにほかなりません。やりたいこともやるべきことも見えていない状態で、机上で全容を明らかにしようとしても、答えを得るころにはもう要件は変わっているのがデジタルの世界です。それに対して、早い段階でアウトプットとユーザーのフィードバックを獲得できれば、それにあわせて軌道修正することも可能ですし、ユーザーにとっても、周辺にある要件を出しやすくなっていきます。つまり、実践こそ最良の要件定義である、ということになります。その結果、極めて短い期間で、要件がない状態からのDMP構築が可能になったのです。

図表4
図表4

アジャイルマーケティングとの統合

 アジャイルの効果は走りながら作ることにより、開発の果実を早期に得られることにもあります。こちらの事例では、サービス立ち上げ期の混沌とした状況における経営・意思決定に、データを活用できたことは極めて大きいインパクトを生みました。

 例えばA社では、参入時に、「会員制サービスなのだから、品ぞろえはとにかくたくさんしなければならないし、飽きられないために、毎日のように入れ替えが必要だ」という仮説を持っていました。ところが、ローンチ後に判明したのは、初期に入会する顧客のほとんどは一部の目玉商品を、集中的・継続的に利用するという実態で、むしろ多数の品ぞろえや入れ替えが使いにくさを生み、解約を発生させているという結果がデータ分析から上がってきたのです。A社では速やかに当初の仮説を捨て去り、サービスを変更しました。

 サービスの立ち上げ期などは、思うように利用者が伸びないなど、苦しい状況を迎えることがよくあります。原因も明らかではないことから見当違いの施策に走り、「できることをやってしまう」などの事態を招きがちですが、往々にして潤沢ではないリソースをそういった近視眼的な対策に費やしてしまうことは絶対に避けるべきでしょう。

 データを分析できる環境が、完全ではないながらも、早い段階で整備されていることで、柔軟な軌道修正を図れます。「スピードは多くを制する」、これがアジャイルに進めることがもたらす価値です。

 このような事例からもわかるとおり、特に外部環境の変化の激しいマーケティング領域では、データにもとづくアジャイルな進め方がフィットします。しかし、施策展開を進めていく中で、必要となるデータやテクノロジーはどんどん変わっていきます。したがって、アジャイルマーケティングを成功させるためには、必要になったテクノロジ要件を、都度アジャイルに構築して取り込んでいく密な連携が不可欠といえます。

図表5
図表5

 短期間に開発を回し、マーケティングに武器を供給する“テクノロジースプリント”。高速にPDCAを回し、トップラインを高めるとともに、新たなテクノロジー要件を明確化する“マーケティングスプリント”。このように、2つのスプリントが交互にぐるぐる回ることで、全体の完成度が高まり、デジタルトランスフォーメーションの推進が可能になります。

 もちろん、アジャイルも万能の方法論ではありません。コワーキング体制を整備することができなければ、2つのスプリントがうまく駆動することはありません。そのためには、マーケティングのスキルだけでなく、テクノロジにも精通することが不可避であり、マーケティングとテクノロジを横断した専門性を持つ人材をどうやって確保・育成していくかが重要なポイントとなるでしょう。

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