大手携帯3キャリアは、次の成長をどこに求めるか--2017年度の決算を読み解く - (page 3)

Sprint合併で注目されるソフトバンク上場

 ソフトバンクグループの2017年度決算は、売上高が前年同期比2.9%増の9兆1587億円、営業利益が同27.1%増の1兆3003億円。こちらも増収増益の決算となった。業績好調に寄与しているのは主に米通信子会社Sprintの経営改善と、ソフトバンク・ビジョンファンドの投資先企業の評価益であるようだ。

 今回の決算において大きなトピックとなったのは、米SprintとT-Mobileの米国法人との合併が、4月30日に決まったことである。合併後の経営権はT-Mobileの親会社であるドイツテレコムが持つ形となり、ソフトバンクは27.4%の株式を保有し続けるものの、一時は強くこだわりを見せ交渉破談に至った要因にもなった、経営権を手放すこととなる。

ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏
ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏

 ソフトバンクグループの代表取締役会長兼社長である孫正義氏は、経営権を手放してでも合併に至った理由として、同社が掲げる「群戦略」を挙げる。これは業界ナンバーワンの企業に20〜30%程度の出資をし、企業の連合体を作り上げることを指す。その群戦略に基づき、米国でナンバーワンになれる体制を作り上げるため、経営権を手放し合併を推進するという方針に切り替えたのだという。

 一方で、孫氏は国内通信大手のソフトバンクに関して、群戦略に基づき現在上場準備を進めている最中だが、その経営権を手放すことに関しては明確に否定している。そして、ソフトバンクとSprintの扱いの差こそが、ソフトバンクグループの本音を示しているといえよう。

 それはキャッシュフローの差だ。ソフトバンクは顧客獲得のための先行投資で利益を落としているものの、業績自体は以前より安定しており、5000億円を超えるフリーキャッシュフローを生み出している、ソフトバンクグループの中でも優良企業の1つだ。一方のSprintは、コスト削減の徹底などによってようやく業績が回復してきたとはいえ、依然として市場競争が激しく、大きなフリーキャッシュフローを生み出せる状況にはないなど、再建中の域を脱していない。

ソフトバンクグループはSprintの経営権を手放すことを判断し、T-Mobile米国法人との合併を打ち出したことが大きな話題となった
ソフトバンクグループはSprintの経営権を手放すことを判断し、T-Mobile米国法人との合併を打ち出したことが大きな話題となった

 しかも今後は、次世代通信の「5G」に向けた大規模な投資が必要になるため、経営コストは一層増大することが見えている。フリーキャッシュフローは孫氏が現在力を入れている投資事業の源泉となる重要な要素だが、現状のSprintを、キャッシュフローを生み出す源泉にするのは当面難しいと判断したからこそ、経営権を手放して身軽になることを選んだといえるのではないだろうか。

 SprintとT-Mobile米国法人の合併は、米国の規制当局の承認を得る必要があることから、まだ実現が決まったわけではない。だが、これが実現した場合、ソフトバンクグループの業績はSprintが連結から外れて大きく落ちるものの、ここ最近のソフトバンクグループの懸念材料だったSprintの再建という負担がなくなることから、プラスに評価される可能性が高いと言えそうだ。

 そして、長らく続いたSprint合併問題が解消された後、注目されるのはやはりソフトバンクの上場ということになる。ソフトバンクはヤフーとともに、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先企業が国内で事業を展開する受け皿となり、顧客基盤を生かしてそれらサービスの国内での利用を増やし、業績を伸ばす方針を示している。これは孫氏がかつて得意とした「タイムマシン経営」に近しい戦略といえるが、その戦略が現代でも通用し、業績拡大につなげられるのかが、今後は大きく注目されることとなりそうだ。

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