少子高齢化による労働人口の減少が続く日本にとって、人々の健康増進は働き方改革などと並ぶ大きな社会課題になっている。フィットネスクラブの市場規模は今や4000億円を超えており、24時間営業の店舗や温浴施設を併設している店舗など、その姿も多様化している。
こうした中、フィットネスクラブにおいても徐々にスマートフォンやクラウドといったICTの利活用が拡大しているのだという。フィットネスクラブ「メガロス」を全国に展開する野村不動産ライフ&スポーツの代表取締役社長である大橋充氏に、ICTの活用によってフィットネスクラブ事業はどう変わっていくのかを聞いた。
同社は、パナソニックのクラウドサービスとメガロスの運動プログラムを組み合わせて開発した専用アプリケーションによるパーソナルトレーニングサービスを2016年10月に開始。また、2017年8月には水中撮影動画と専用アプリによるスイミングスクールのパーソナルレッスン「KAICA-カイカ」を開始した。2018年3月には24時間営業型のフィットネスクラブに利用者をサポートする専用アプリを導入するなど、テクノロジの活用を拡大している。
――まずは、野村不動産ライフ&スポーツが展開する事業の中で、どのような狙いでテクノロジを活用しているのか教えてください。
大前提として、私たちはテクノロジを(差別化の)目的ではなく手段のひとつとして活用しています。これはわれわれに限らず、フィットネスクラブが打ち出したいのは「価値は人=従業員にある」ということ。我々がメガロスの従業員を「キャスト」と呼んでいますが、キャストこそが差別化要因であり、強みであると考えています。それをサポートする役割を担うのが、テクノロジなのです。テクノロジはキャストの効率を高め、また顧客の利便性を高めることを実現します。それによって高い顧客満足を生み出せると考えているのです。
1月には会員管理システムを一新して、14万人いるメガロスの会員について属性、特徴などを基本的なデータベースとして管理するようにしました。従来、会員データは会費の集金などにしか活用されてきませんでしたが、今後は顧客データを活用して顧客の利便性を高めるためのサービスを次々に打ち出していきたいと考えています。たとえば、ウェブの会員ページを通じて会員向けの情報を提供したり、スタジオやスクールの予約をウェブでできるようにしたりするといった形です。
一方で、こうした取り組みはキャストの効率も向上する効果があると考えています。キャストの作業の手間が省けることで、顧客とのコミュニケーションに掛けられる時間が増え、顧客満足度の向上につながるのです。
――最近では24時間型のフィットネスクラブも増えてきていますね。テクノロジによる業務効率の向上はこうした新業態の誕生にも繋がっているということでしょうか。
そうですね。メガロスでも10店舗ほど運営していますが、さまざまな事業者が24時間型に参入して市場はレッドオーシャン化しています。こうした店舗は基本的には利用者が自由に使うセルフサービス型の店舗なのですが、私たちはこうした店舗でもしっかりとサービスを提供したいという考えから、スマートフォンアプリを通じて施設の混雑状況を確認したり、トレーニング機器の効果的な使い方を動画で紹介したりするサービスを利用者に提供しています。これによって、キャストが常駐していない深夜でも利用者をサポートできると考えています。
――身近な健康増進のテクノロジとしては腕時計型活動量計などのウェアラブルデバイスがありますが、どのように評価していますか。
確かに、最近ではウェアラブルデバイスの発展などによって健康管理や運動量の計測ができるようになりました。今後はこうした領域の活用も検討していくことになるのではないかと思います。ただ、実際のところウェアラブルデバイスの普及率は人口に対してわずか3%というデータもあります。つまり、テクノロジを積極的に意識して活用する人が、これだけしかいないということなのです。
たとえば、ある研究成果では人をサーモグラフィで計測しただけで健康状態を確認できる技術が実現しているといいますが、ウェアラブルデバイスなどを装着しなくても、フィットネスクラブの入り口を通るだけで利用者の体調などがわかり、的確なコーチングができるような仕組みが遠くない将来に実現するのではないかと思います。もちろん、プライバシーの課題などを考える必要はありますが、利用者のリテラシーに依存することなくテクノロジを活用できれば、利用者の利便性は大きく変わると思います。フィットネスクラブには高齢の方も多く、また熱心にトレーニングをしすぎて体調を崩される方もいます。利用者の体調を理解した上でサポートができる仕組みを確立できれば、より安心して利用してもらえるのではないでしょうか。
2018年3月には、一部の店舗でスマートフォンアプリを通じてトレーニングのカウンセリングが受けられるサービスも始めていますが、今後はテクノロジを活用して利用者一人ひとりの状況に応じてパーソナライズされたトレーニングを提案できることが、フィットネスクラブの目指すところなのです。
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