ドナルド・トランプ米大統領は次世代のモバイル通信規格「5G」の世界的“軍拡競争”に参入した。
トランプ大統領は米国時間3月12日、企業買収取引を禁止する大統領令を出した。Broadcomによるモバイルチップ大手Qualcommの1170億ドル(約12兆円)での買収提案を、国家安全保障上の懸念から禁止したのだ。この大統領令が出たのは、対米外国投資委員会(CFIUS)が、Qualcommがシンガポールに拠点を置くBroadcomに買収されれば、米国はモバイル技術に関して他国に後れを取ることになるという懸念を表明した1週間後のことだ。
Broadcomは14日、大統領令に従うとして、Qualcommへの提案を取り下げた。
異例なのは、CFIUSの懸念表明と大統領令のタイミングだ。いずれも、QualcommとBroadcomがこの取引に合意する前に出された。米財務省の下部組織であるCFISは通常、取引成立後、規制審査を通じて介入する。実際には、Qualcommは敵対的買収を拒否している段階だった。この迅速な動きは、連邦政府がいかに5G無線技術を重視しているかを明示している。
トランプ氏は大統領令で「(Broadcomが)米国の国家安全保障を損なう行動をとる可能性があると信じるに足る確かな証拠がある」と記した。
5Gと呼ばれる第5世代携帯電話技術は、その高速性、信頼性、無数の接続端末を制御できる能力により、大変革をもたらす可能性を持つと見なされている。スマートフォンの接続が速くなるだけではなく、5Gは自動運転車、VR(仮想現実)体験、リモート手術のような高度な遠隔医療などの新技術のための通信基盤になる可能性がある。
だが、複数の企業が5G技術に関与したがっており、有利な立場に立とうと画策している。「3G」のようなこれまでのモバイル通信技術では、例えばVerizon WirelessのスマートフォンはAT&Tのネットワークで使えないが、5Gはすべての国や企業が同意するグローバルスタンダードで形成される。多くの関連規格が整っているが、まだ解決すべき詳細が多数ある。
そこでQualcommの出番だ。カリフォルニア州サンディエゴに拠点を置く同社は、スマートフォン向けプロセッサの世界最大のメーカーであり(あなたがハイエンドのAndroidスマートフォンを持っているなら、その端末にはQualcommのプロセッサが搭載されているとみていい)、3Gおよび4G技術の基盤となる多数の技術を保有し、5Gに膨大な研究開発費を注ぎ込んでいる。
Stifelのアナリスト、Kevin E. Cassidy氏は12日の報告書で、「われわれの見解では、安全保障上のリスクというのはQualcommが海外および米国内の競合より抜きん出ている5Gセルラー通信技術関連のことのようだ」と語った。
米連邦政府はこの見解に明らかに同意している。
CFIUSは勧告で「Qualcommの長期的な技術競争力と標準策定への影響力が減少することは、米国の国家安全保障に大きな影響を与える可能性がある」と述べた。同委員会は、中国の通信大手Huawei(ファーウェイ)が5Gへの投資を拡大していることを潜在的な脅威として具体的に指摘した。
BroadcomがQualcommとその価値ある5G技術を買収する可能性を前に、IntelがBroadcom買収を検討していると報じられた。PC向けプロセッサを販売するIntelは、スマートフォン向けプロセッサで出遅れた。同社は、5Gをモバイル市場で好位置を獲得するための新規まき直しのきっかけと見ており、BroadcomとQulcommが統合した企業と競合したくはなかっただろう。
Intelはコメントを拒否した。
業界観測筋は、この大統領令は技術的動機だけでなく、政治的動機によって拍車をかけられたと語る。特に、米国外からのアルミニウムと鉄鋼の輸入に追加関税を課すトランプ氏の決定に続くものだからだ。
Creative Strategiesのアナリスト、Carolina Milanesi氏は「この大統領令は、偉大なメイド・イン・アメリカ企業の1社が、米国がコミュニケーション技術の未来を形成することを確実にするものだ」と語った。
トランプ政権が5Gを重視しているのは明らかだ。なにしろ、米連邦政府は、海外の競合に無線で差をつける方法として、国営の5Gネットワークの構築というアイデアまで持ち出したのだから。
Broadcomは声明文で、トランプ氏の大統領令について、提案した買収が米国の国家安全保障上のリスクをもたらすという指摘に「強く反対する」と語った。
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