クライアント企業との“ドライ”な関係を変える--コンテンツマーケに特化した投資育成ファンドの狙い

 企業のデジタルトランスフォーメーション支援事業を展開するストロボは、コンテンツマーケティング領域に特化した投資育成事業「コンテンツグロースハックファンド」を開始した。

 同社は、アイレップで取締役CSO(チーフ・ソリューションズ・オフィサー)を務めた下山哲平氏が2016年に設立。これまで大手企業を対象にデジタル領域に特化したハンズオン型のマーケティング支援や新規事業開発を支援してきた。また、近年デジタルマーケティングにおける重要な要素とされているコンテンツ制作の領域では、支援対象企業ごとに専属の編集体制を敷き、オペレーションを展開してきたという。


ストロボの代表取締役である下山哲平氏

 このコンテンツグロースハックファンドでは、こうしたノウハウをもとに、コンテンツマーケティング領域でビジネスを展開するコンテンツ制作会社などに対して、資金提供だけでなくデジタルマーケティングにおける制作ノウハウの提供や、大規模な編集体制の構築に必要な人材の確保・教育に至るサポートを行っていくという。

 下山氏に、起業の背景やコンテンツグロースハックファンドの狙いを聞いた。

クライアント企業にフルコミットできる関係性を構築する

――まずは、起業の背景と現在のビジネスについて教えてください。

 起業の背景には、クライアント企業とマーケティング支援会社の関係性を変えたいという考えがあります。従来の広告代理店とクライアント企業の関係は、お互いが「One of them」の関係だと思います。つまり、代理店にとって巨大な取引額を扱う重要なクライアントであったとしてもクライアントは取引先のひとつにすぎず、クライアントにとっても代理店はあくまで数多くある代理店のひとつにすぎません。

 また、代理店は競合企業とも取引を持つ可能性があるため、企業の機密情報であるさまざまなデータをつまびらかに開示できるような関係にはなりません。どれだけ親密な関係になっても、どこか“他人同士”と言えるようなドライな関係であるケースが多いのではないでしょうか。その結果、デジタルマーケティングの成否を左右するさまざまなデータの利活用を担保できず、足かせのある中でプロジェクトごとに個別最適化していかなければならないという大きな課題を抱える状況になっています。

 一方、欧米型のデジタルマーケティング支援においては、クライアント企業の業界・業種ごとに細分化して、コンパクトな組織でブティック型と言われる経営をする企業が増えています。極端な例を挙げると、あるクライアント企業に対してデジタルマーケティングをフルコミットするために、それに特化したエクスクルーシブな会社を作るようなことをするのです。クライアント企業に対してその成果とそれに至るまでのプロセスをフルコミットすることで、機密情報を共有して深く踏み込んだマーケティングを推進できる関係性を築けるのです。

 両者の違いは決して広告代理店のビジネスモデルを否定するものではありませんが、広告代理店の役割やお互いの立場を踏まえると、なかなか両社で包括的な関係を築くことが難しいという状況がある。そうした中で、私たちはブティック型でハンズオンでのマーケティング支援をすることで、大手クライアント企業にとって一番いい仕事をするパートナーであることを目指し、マーケティング成果を出し切れるような関係性を長期的に築いていきたいと考えています。

 一方、ここ数年は古くから事業を展開する大手企業のビジネスにおいてデジタルトランスフォーメーションに対する注目が高まり、業種業態を問わずほぼ全ての産業にデジタル化の波が押し寄せています。そしてその中では、デジタル人材の不足が課題として挙がっており事業継続性に対する不安さえ生まれています。そうした中で、企業に深く入り込んでフルコミットで支援を行う立ち位置の会社が求められているのです。私たちは、こうしたニーズに応える支援を行っていきたいと考えています。

――そうしたビジネスの中で、このコンテンツグロースハックファンドはどのような意味を持つのでしょうか。

 ベンチャー投資育成事業そのものは創業時から行ってきましたが、私たちが目指すのはベンチャーキャピタルのような純投資事業ではありません。

 クライアント企業のマーケティングを支援するビジネスにおいて、良いサービスとは成果を挙げることと同義ですよね。つまり、最も高い確率で成果を挙げることができるサービスを最短時間で提供できることが、クライアント企業にとって最も良いわけです。そのためには、企業の経営層と関係を構築してマーケティング戦略の最上流=経営戦略フェーズから支援していく必要があるわけですが、そこでよくある話が、“戦略は立てられたが実行は顧客任せ”という状態に陥ることです。つまり、支援会社が立派な戦略を作りながら「そのコンテンツ制作は私たちにはできない」と無責任な状態になってしまうのです。

 戦略を提案する以上は、その実行まで責任を負うのが本来あるべき姿なのではないか。それが私たちの目指すスタンスなのですが、コンテンツ制作のすべてを顧客企業が内製することには限界があるのも現実です。そこで、ストロボを軸としてさまざまなスペシャリスト企業が同志的なパートナーシップを作ることで、一緒にクライアント企業にコミットするビジネスを展開できないか。そうした考えのもと生み出したのが、このコンテンツグロースハックファンドです。

 もちろん、投資関係になくともこうした制作会社のパートナーシップは構築することが可能です。しかし、それではお互いが単なる受発注関係に留まってしまい、本当の意味でクライアントにコミットするパートナーシップにはなりません。たとえば、資本提携と業務提携を例にすると、資本関係のない単なる業務提携では、お互いがなかなか本気で成果を生み出す関係になりにくい。本当に成果の創出を目指す同志的結合を生み出すためには、そこにヒト・モノ・カネを介在させてお互いに責任を負わなければならないと思うのです。

 このコンテンツグロースハックファンドでは、私たちは企業を買収したりイグジットして儲けたりといったことは全く指向していません。クライアントに良いサービスを提供するためには、投資育成事業による強いパートナーシップの構築が不可欠だと考えているのです。

――クライアントのマーケティングを支援するためのスペシャリスト企業にはさまざまな類のものがある中で、コンテンツマーケティングというビジネスに着目した理由は何でしょうか。

 事業インパクトを生み出すためのデジタルトランスフォーメーションにおいて、構想した戦略を形にする最終的なアウトプットはコンテンツであり、私たちの事業の中でエグゼキューション(実行フェーズ)の最も大きな比重を占めているのがメディアとコンテンツだということです。

 ビジネス環境に目を移すと、私たちは大手クライアント企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する中で、その中核となるプロジェクトに携わっているという強みを持っています。その一方で、受託制作などを行うクリエイティブなベンチャー企業は、資金面よりも人材リソースや人材育成のノウハウ、そして良い仕事に巡り合うためのパイプが不足しているという課題があります。

 そこで、私たちは資金提供だけでなく人材リソースと育成ノウハウ、そしてチャレンジングな仕事を一緒に提供することが、私たちならではの新しいベンチャー投資育成事業の在り方になるのではないかと考え、コンテンツマーケティングやメディア制作領域に特化したファンド事業を立ち上げました。

信頼されるコンテンツ制作会社のグループを作る

――クリエイティブな仕事というのは、クライアント企業のプロジェクトの中で構想を最終的な形に作り上げる“最終走者”の役割を果たす立ち位置だと思います。一方で、プロジェクトの中でクリエイターは指示されたことをこなすだけという位置づけにあることも多いのではないかとも思います。クリエイターは自分の力を生かしてビジネスを作っていきたいと思っていても、なかなかいいパートナーと巡り合う機会も少ないし、それを探すノウハウも少ないのではないでしょうか。

 そうですね。優れたコンテンツの作り手にいい仕事が供給されて力を発揮できる環境を作れば、それは企業が目指すデジタルトランスフォーメーションや、その手段であるコンテンツマーケティングにとってもいい影響を生み出すのではないかと思います。

 コンテンツ制作のビジネスを巡っては、「誰がやっても同じだ」という誤解が業界全体に浸透してしまい、制作単価はどんどん値崩れを起こし、アマチュアでも手を動かしてとにかく数をこなすという状態にまで陥ってしまっています。その結果、クリエイターにノウハウは蓄積されず、コンテンツ制作が作業化してしまいました。すると、クライアント企業の満足度もどんどん低下してしまい、コスト優先でコンテンツ制作を考えるようになってしまうのです。結果的に、現在のコンテンツ制作はクライアントもクリエイターも表向きは高品質なコンテンツを目指しながら、一方でどこかで暗黙の妥協ラインを引いて、市場自体がどんどん巨大化しているのではないかと思うのです。

 そうした状況下で、2016年はDeNAのキュレーションメディア事業を巡る騒動が起き、企業はコンテンツに充分な信頼性を担保しなければならないという社会的なコンセンサスが形成され、メディア運営会社やコンテンツ制作会社にはクオリティアシュアランスを求められるようになりました。一方、企業の中にはオウンドメディアは内製するものだという考えが根強かったところに、働き方改革の波が押し寄せて社内のリソースは大きく制限される状況が生まれています。こうした背景から、世の中は高品質なコンテンツをフルコミットできる制作会社を求めていると思います。

 私の理想は、このコンテンツグロースハックファンドを通じて、高い信頼性と成果を担保できる業界トップのコンテンツマーケティング・メディア制作会社グループを作り上げたいということです。ストロボの強みは、ベンチャー企業ではなかなか入り込めない大手企業のトップとコミットした仕事を供給できること。そうした仕事に関わってもらいながら、「ストロボグループのコンテンツ制作会社であれば安心して仕事を頼める」「事業成果を生み出すコンテンツ制作を任せることができる」と言ってもらえるような企業を生み出していくことで、コンテンツビジネスそのものを健全化できればと考えています。

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