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スマートホームからVR内見まで--2018年不動産テックの行方 - (page 2)

加納恵 (編集部)2018年01月29日 08時00分
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クラウドファンディングは資金調達として無視できない存在に

――実際に現地に行かずとも内見ができるVR内見も、2017年に広がった手法の1つですね。


リマールエステート代表取締役社長CEOの赤木正幸氏

赤木氏 デジタルカメラの性能アップによる恩恵の1つだと思いますが、使いやすい360度カメラが出てきたことによって誰でも簡単に室内の撮影ができるようになりました。

 物件情報の充実は、入居者にとって望ましい動きですが、実はこのコストを誰が負担するのかは不動産業界の課題になっています。

 オーナーの方から見れば仲介会社にお願いしたいところだと思いますが、ポータルサイトや直接の物件検索が中心になっている今、どれだけ充実した情報を用意しても、自分のところで仲介ができるとはかぎりません。そのあたりのルールも整えるべきですね。

川戸氏 同じことはスマートロックなどにも言えて、通常の鍵から付け替えるのはいいですが、問題は誰が負担すべきなのかと。スマートロックの恩恵を受けるのは住んでいる人ですが、スマートロックのコストを負担する人はオーナーであったりデベロッパーなのです。スマートロック自体は数年前から登場していますが、爆発的な普及に至らないのは、メリットの享受者とコスト負担者が一致していない問題が一部にあるからかもしれません。

――不動産テックとして登場しているサービスの中で特に気になっているものはありますか。

赤木氏 クラウドファンディングだと思います。集合住宅やオフィスビル、京町家まで、いろいろな不動産のクラウドファンディングが登場しましたが、物件の種類だけではなくて、不動産投資の種類としても増えてくるでしょう。企業側にしてみれば、新しい資金調達手法として無視はできません。

川戸氏 2017年からの引き続きになりますが、BtoBの業務支援系のサービスはさらに広がっていく可能性があると思っています。そもそも、日本国内の不動産テックは、海外に比べるとまだ爆発的に盛り上がっていません。その理由はいくつかありますが、まずBtoCの視点で言うとコンサバな日本人はリスクを犯してまで不動産ベンチャーのサービスを利用しようとしない点が挙げられます。

 日本人にとって不動産は大きなお金が動く超高額商品のため購買機会が一生に一度が一般的です。そうすると自ずと“失敗したくない”という思いが強く働くため、不動産ベンチャーを自然と避けてしまい、最後に頼るのはやはり大手の不動産会社だったり、知り合いの会社だったりするわけです。

 また、不動産テックは仲介領域、ストック市場のサービスが多くありますが、日本人の多くは未だに“新築市場主義”であるため自ずと不動産テックとの接点が低い点も挙げられます。

 さらに先程不動産テックに興味を持つ人が増えてきたと言いましたが、それはあくまでも不動産業界の人の話です。弊社の過去調査では、フィンテックのような○○テックと呼ばれるものの中では不動産テックの認知度はまだまだ低く、一般の消費者には浸透していない段階です。そうした状況で、不動産テックを前面に打ち出したところで、一般の消費者には響きません。そうした背景も手伝い、消去法としてBtoCよりもBtoBのサービスが引き続き広がっていくのかなと思っています。そう考えると、不動産売買の世界にIT化が浸透するのはもう少し時間がかかるかもしれないですね。

 業務支援系のBtoBサービスの中でも、特にデジタルマーケティングを支援するサービスに注目しています。従来のホームページ作成支援や不動産情報ポータルへ物件情報を登録支援するようなサービスではなく、さらに高度化したデジタルマーケティングの支援サービスです。具体的には、ウェブ広告の出稿支援や反響管理・反響分析、追客、CRM、リードナーチャリングなどです。そう考えるのは、消費者の購買行動特性が完全にウェブ中心であるのに対して、世の中の不動産会社が十分にデジタルマーケティングに対応できていないためです。

――認知度や大手企業が持つ信頼感以外で、不動産テックの浸透を阻んでいるとものはありますか。


NTTデータ経営研究所コンサルタントの川戸温志氏

赤木氏 成約価格が自由に扱えない点ですね。日本の不動産は物件の価格や賃料等の成約価格がオープンにされておらず、取り扱った件数がイコール会社の成約価格情報のデータベースになりますから、スタートアップの企業では太刀打ちできません。

川戸氏 大きく2つあります。1つは、業界の特性や構造に起因した問題です。不動産業界、特に住宅業界は業界団体の影響力が特に強いのが特徴です。不動産業界の特性として、数人レベルの小さな会社や個人事業主のようないわゆる“街の不動産屋さん”の数が他業界に比べ圧倒的に多いという業界であります。

 従って、それら街の不動産屋さんを代表する業界団体の影響力も強いのです。そうすると、街の不動産屋さんは、いまだに不動産テックは自分たちの仕事を奪うもの、敵という誤解が根強いため、その代表である業界団体は保守的な姿勢を取らざるを得ないのだと思います。また、業界構造に着目すると、マンション、ビル、商業施設などは、デベロッパーを頂点とする硬直的なピラミッド構造となっています。そのピラミッド構造は、特に旧財閥系に代表されるグループや系列ができ上がっており、硬直的なエコシステムとなっています。そのデベロッパー自身が先頭に立って不動産テックを推進すれば大きな変化が起きると思いますが、業績が好調なデベロッパーは、これまでの成功体験の積み重ねにより、なかなか従来ビジネスを大きく変えることが出来ません。長い目で見ると、所謂イノベーションのジレンマに陥っているとも言えます。

 もう1つは、不動産情報基盤や情報流通環境としての整備が遅れです。実はこれが日本国内の不動産テックの拡大を阻害する大きな要因だと思っています。この業界に関わる方は、いろいろな形で不動産情報を入手していると思いますが、日本の不動産物件情報基盤の「レインズ」は、米国の同基盤の「MLS(Multiple Listing Service)」に比べると情報量や情報の登録率、更新頻度の点が見劣っています。またレインズ以外にも、不動産の市況情報や不動産価格、不動産インデックスなどの不動産情報サービスも海外と比べ、更新頻度が遅くタイムラグも生じており、情報が偏在していることからタイムリーな情報取得が困難な状況です。こうした部分の改善が今後の不動産テック時代に向けて求められ、大きく影響してくるのではないでしょうか。

スマートホームの本質は生活におけるデータ取得

――大手企業とスタートアップの関係性はどう見ていますか。

川戸氏 関わり方は大きく2つあると思っています。1つは大手不動産会社ができない部分をスタートアップが担って、スピード感をもちながら新たなサービス、製品を開発していく方向性。もう1つは大手企業の業務で色々と効率化できていないところを、スタートアップ側がシステムやサービスを提供するというもの。

 前者は、大手の不動産会社がこぞってアクセラレーションプログラムを実施していることで分かる通り、有望なスタートアップを各社探している状態だと思います。後者は既存事業を強化する動きとして歓迎されていて、そういう関わり方は今後も数が増えると見ています。

赤木氏 大手不動産会社がスタートアップに出資したり、場合によっては買収したりといった形が最も多いかもしれないですね。スタートアップ側からすると、大事にあたためていたアイデアを、資金力で上回る大手企業にそのまま持っていかれることが一番の脅威なので、一緒に盛り上げていく姿勢がありがたいですね。

――最後に2017年の秋に登場したスマートスピーカに端を発するスマートホームがについて教えてください。

赤木氏 スマートフォンから開錠ができたり、遠隔操作でエアコンがつけられたりするスマートホームは確かに便利ですが、コストをかけた分、賃料をあげられるかというとそうではないんですね。スマートホームは賃料のアップではなく、データが取得できる仕組みとして捉えるべきです。

 不動産会社が入居者とIoT機器を介してつながる可能性がスマートホームにはあります。そうすることで人々の暮らしの情報を取得できます。集まった情報を生かすには時間がかかると思いますが、スマートホームは、今までに得られなかった情報がとれるツールだと思っています。

川戸氏 私も基本的に同じですが、視点が少し異なります。スマートホームは、自動車業界×デジタルのように業界の壁がなくなってきているトレンドの1つだと思っています。見方を変えると、各業界のプレイヤーによる制空権争いが起きている戦略的要所とも言えます。というのは、IT業界のプレイヤーではGoogleやAmazon、LINEなどが競ってスマートスピーカ、家電メーカーでは、シャープの「ホームアシスタント」やパナソニックの「リスナー」、不動産業界のプレイヤーは、大和ハウスの「Daiwa Connect」やミサワホームの「LinkGates」などをそれぞれ出しています。IT、家電、不動産の三つ巴がスマートホームで起きています。

 ただ、このような住宅や室内において、家電・什器×デジタルという発想やIoTでエネルギーや空調を可視化してコントロールする発想はずっと前からありました。では、なぜ近年急激にスマートホームが注目を浴びているかというと、それを解く鍵は3つあります。それは、“次世代ユーザーインタフェース”、“AI”、“One to Oneマーケティング”です。

 次世代ユーザーインターフェースは、現在フィンテックやUberなどのデジタルビジネスがブレークスルーした要因の1つがスマートフォンにあります。このスマートフォンに次にくるユーザーインタフェースが“音声アシスト”だと言われています。

 AIは、スマートスピーカやIoTなどのデバイスがつながる先には、クラウド上のビッグデータがあります。そのクラウド上のビッグデータをAIによって分析できるようになったのです。つまり、キッチン、リビングルーム、寝室、風呂などの家電製品や什器などのデバイスがクラウド上のAIにつながるようになり、そこに住んでいる住民の行動データ、趣味嗜好、心理状態まで把握できるようになるのです。

 これが3つ目のOne to Oneマーケティングにつながってきます。現在でもインターネット上の行動はある程度追えるようになっていますが、リアルの世界でその人が何をしているかは分かりません。でも、スマートホームではその欠落していたリアルのデータも把握できるため、消費者の本当の姿が見えてくるのです。ビジネスは、いかに消費者が求めるものを作り、その商品をいかに本当に求めている消費者に届けることが本質です。スマートホームによって得られた消費者のデータを活用することで、消費者が真に求めているニーズを捉えられるようになるため、消費者が最も欲しいタイミングで欲しいものをレコメンドできるようになるわけです。これこそビジネスの本質であり、真のOne to Oneマーケティングなのです。従って、このマーケティングデータは業界を超えた武器となるため、GoogleやAmazonのような巨人達の狙いはそこにあるのだと思っています。

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