不動産売買や仲介事業を手掛けるインヴァランスが10月に導入したIoT、AI搭載マンションには、米国のAI開発ベンチャー企業「Brain of Things(BoT)」が開発したAIスマートハウス「CASPAR(キャスパー)」を搭載している。
CASPARは住居内に設置した、振動、動き、紫外線、温度、湿度、照度を測定できるセンサから、人がどこにいて、何をしているのかを認識。住民の行動を家が覚えて、暮らしをサポートする一歩先行くスマートハウスだ。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカの登場で、にわかに注目を集めるスマートハウス市場。その中で「CASPARは言ってみれば家のiPhone。音声コマンドや家電のコントロールなどを包括する存在」と話す、BoTのCEOであるアシュトシュ・サクセナ氏に、AIによるスマートハウス化がもたらすメリットとその先の未来について聞いた。
BoTは、米国カリフォルニアに拠点を置くAI開発のベンチャー企業。サクセナ氏が、スタンフォード大学で教鞭を取るデービッド・チェリトン氏らとともに立ち上げた。
「朝起きてカーテンを全開にする人もいるし、半分だけ開ける人もいる。中には開けない人もいる。カーテン1つとっても複数のアクションがあり、家の中全体を見るとシチュエーションは無数にある。これをプログラムを組んで作っていくことはとてもむずかしい。AIでなければできなかった」とサクセナ氏は、AIを採用した理由を話す。
CASPARは「CASPAR」と呼びかけることで、カーテンを開けたり、電気をつけたりする音声コントロール機能も備えるが、それはほんの一部。センサとカメラ、AIを組み合わせることで「朝のカーテンは半開にする」「帰宅時は玄関の灯りはつけず、リビングの灯りをすぐに点灯する」といった住民の行動を学習し、その人に合った暮らしをサポートする。
「AIは人の趣味嗜好に合わせられる。例えば、ペットにお手を覚えさせてできたら褒める。でも、何かいたずらをしてしまったら飼い主は怒る。CASPARもペットと同じで、人の行動を教え込んでいくことで、どんどん賢くなる。夜中の3時に起きてしまって、照明が煌々とついたら、眩しいと思い、人はすぐに電気を消す。そうするとCASPARは翌日、夜中の3時に人が起きても、すべての照明はつけず、一部のみを点灯するようになる」とサクセナ氏はAIとスマートハウスの相性の良さを話す。
2017年秋はGoogle Home、Amazon Echo、LINE「Clover」などスマートスピーカが続々と登場し、スマートハウスは一気に注目を集めた。この状況をサクセナ氏は「これらの登場は、スマートハウス市場の始まりになる歓迎すべき動き」としながらも「CASPARとは根本が違う」と一線を画す。
「日常的に家の中で起こすアクションが80あるとすると、音声コントロールができるのは7つ程度。さらに2〜3つをスマートフォンなどのアプリから行え、8つ程度がスイッチで操作できる。CASPARの60個以上のアクションをカバーできる。スマートスピーカは音声コントロールという1つの方法を持った言わば『iPod』。CASPARは音声コントロールをはじめ、照明の明るさやカーテンの開き具合、時には住民の体調までを感知できるトータルなシステム。スマートハウスの『iPhone』的存在になる」と説明する。
CASPARが目指すのは、スマートハウスではなく、家の“コンシェルジュ”だ。将来的には、「テレビをつけて」と話しかけると、テレビをつけることはもちろん、センサが紫外線の強弱を測定し、カーテンを閉め、室内が暗ければ電気を付けるといった、1つの指示から複数のアクションをつなげて実行できるようになるという。
「私たちが目指しているのは家の自動化。自宅に常に執事のような人がいて、より便利な生活をサポートしてくれる家を作りたい。今のスマートハウスは声に反応して、何かを動作することが主流だが、CASPARは“気が利く”スマートハウス。執事やメイドのように主人となる人の行動を先読みして、気を利かせられる家にしたい。今はまだ人間の執事やメイドのような動きはできないが、そこを目指している」とCASPARの有るべき姿を紹介した。
サクセナ氏は、スマートハウス同様にAIを活用すべきジャンルに自動運転車を挙げる。「車を運転する時もいろいろなシチュエーションを考えないといけない。その様子は住宅の環境にとても良く似ているため、自動運転車でもAIの技術はとても重要になるだろう。ただ、AIは学習するベースを覚え込ませるという技術的な課題があり、スマートハウスにしても、自動運転車にしてもこの部分の壁がある。ここは今後5〜10年かけて取り組んでいくべきところ。この壁を超えれば、あらゆる人が欲しがるスマートハウスや自動運転車を作れる。これはAIにしかできないことだと思っている」と現状を説明した。
BoTは、現在2カ国でCASPARを展開。本拠地となる米国では200戸への導入実績がある。そんな米国と比べ日本は「実は米国と同じくらいテクノロジの関心が強い国。日本は非常に早く普及が進む可能性があると思う」と言う。
その理由の1つは、日本の家電製品の先進性、多様性だ。「日本の家電使用は世界の先を行っている。ただその使い方はスマートではないと感じる部分もある。例えばリモコン。家電の数だけリモコンが必要だし、リモコン自体にも多くのボタンが付いている。ここをAIを使ってスマートにしていきたい」と日本ならではの課題を指摘した。
サクセナ氏がスマートハウスの構築欠かせないものとして考えるのはOSだ。個々の作り込まれた家電はOSによって連携し、よりスマートに使えるようになるからだ。「BoTはOSにフォーカスしている。弊社のチェリトンはこの分野の専門家。住宅環境をデバイスの集合体として捉えるのではなく、OSによって1つにつながると考えるのがスマートハウスで重要なこと」と説いた。
OSの世界的な権威でもあるチェリトン氏以外にも、スペースXやGoogleのエンジニア、さらにマサチューセッツ工科大学やカーネギーメロン大学の博士など、BoTには多くの人材が集う。「AIによるスマートハウス作りは、まだ多くの壁があるが、現時点でもほかとは一歩先行く体験を提供できているし、今後さらに便利で、暮らしやすい住宅を提供できる。CASPARは米国でもまだ競合のいない先進的な取り組み。これを実現できた理由は何と言ってもいいチームを抱えていたから。さらに、これに投資してくれるファウンダーに恵まれたことも大きい。出資者の中には米国の不動産会社として知られるウルフや日本のインヴァランスのような、不動産業界に強いパートナーもいる」とサクセナ氏はCASPARの成功要因を分析する。
BoTが目指すのは、意識せず、まるで人間の執事がケアしてくれるような使いやすいスマートハウスだ。それはあたかもロボットがいる環境のようだが、サクセナ氏は「実はカーネル大ではロボットの開発も手がけていて、カフェラテを入れるロボットを作ったことがある。ロボットは1つのことをやるのはいいが、今の時点では複数のことを連携してやるには難しい点がある。将来的にはCASPARに合わせて、キッチンロボットを取り入れるなどしてもいいかもしれない」と今後について話した。
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