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「市場の声をもって企業を変革すること」--NECのCMO榎本氏が語るマーケの本質 - (page 2)

別井貴志 (編集部) 井口裕右2017年10月04日 13時23分
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BtoBマーケティングにおけるデジタルトランスフォーメーション

 企業が製品やソリューションの導入検討を進めるプロセスは、テクノロジの発展による情報流通経路の変化によって大きく変わってきている。かつては、社内にニーズが生まれた時点で営業担当者に問い合わせ、そこから商談が生まれるという購買プロセスを踏んでいた。しかし現在では、製品やソリューションを紹介するオウンドメディア、SNS、メールマガジン、比較サイトなどの口コミといったデジタルの情報を収集しながら導入候補となる製品やソリューションを検討するというプロセスが中心になり、製品やソリューションを提案したい営業担当者にとっては、顧客の動きが見えづらくなってきているのだ。

 「社会ソリューション事業では特にステークホルダーが多様化し、顧客の潜在的なニーズ把握が難しくなってきている。この営業担当者からは見えない部分を把握して、タッチポイントを前倒しする必要がある」(榎本氏)。

 では具体的にどのように顧客の動きを可視化するのか。そこでは、NECから発信する情報に対する反応を把握して、見込み顧客をプロファイリングしていくという作業が重要になるという。「船のソナーと一緒で、こちらからメッセージを発信してそれに対する跳ね返り=反応や反響を把握することで、見込み顧客の意図や考えが見えてくるのではないか」と榎本氏は説明した。このメッセージングと反響の把握を、デジタルを活用することで効果的に推進していくのだ。

 このメッセージングという点について、NECはデジタルメディアを活用したフィールドマーケティングの試みを早期からしており、ターゲットのペルソナに合わせたペイドメディアの活用に加えて、自社内製でコンテンツを制作して発信するという点には特に力を入れているのだという。「WISDOM」と呼ばれる会員制の無料メディアは2004年に開設され、現在ではビジネスやテクノロジのさまざまなテーマに関するコンテンツを提供している。「本当に伝えたいメッセージは借り物ではなく、自分たちの力で生み出して発信していく必要がある」(榎本氏)。

 さらに榎本氏は説明する。「とはいえ、闇雲にメッセージを発信しても効果は期待できない。誰に対してメッセージを届けるのかという絞込みをし、どういった見込み顧客にはどのようなメッセージを届けるのかという場合分けをしなければならない。その繰り返しがデジタルマーケティングであり、そこで営業担当者の動きと連動性を生み出すことが重要になってくる」(榎本氏)。

 一方で、見方を少し変えれば、NECの営業担当者は年間約2兆7000億円というグループ売上を生み出す原動力である。これまでどおりの営業を続ければ、短期的にはこれまでどおりの売上規模は維持できるかもしれない。しかし、榎本氏はデジタルマーケティングによる新たなオポチュニティの創出は事業の持続可能性を生み出すために不可欠だと語る。「ビジネスというものは現状維持に終始しているだけでは自然と痩せていくものだ。本当に維持・成長をしたいのであれば、世の中の変化のスピードに対応した新しいチャレンジを継続していく必要がある。変化の早い世の中に先駆けてメッセージを発信し顧客とのコミュニケーションを促進するためにはデジタルマーケティングは必須である。」(榎本氏)。

 特に榎本氏は、デジタルのタッチポイントによって集客した見込み顧客や顕在化した課題に対して、有効なメッセージを発信しながらマーケティングをし、営業担当者の商談へと引き継いでいくインサイドセールスの重要性を指摘する。「インサイドセールスが見込み顧客(リード)の確かさを深く検証して営業担当者と連携していくことが重要だ。そこでマーケティング部門と営業部門の信頼関係が生まれ、実績を共同で生み出していくことになる」(榎本氏)。

 なお榎本氏によると、ペイドメディア、オウンドメディアを通じて生まれた見込み顧客とのコミュニケーションを醸成しながらニーズを顕在化してリードを絞り込むインサイドセールスの過程では、MA(マーケティングオートメーション)ツールを活用し、アカウントベースドマーケティングを推進しているという。さまざまなタッチポイントで得られるデータをすべて統合し、インサイドセールスまでの工程を効率化しているのだそうだ。「デジタルの特性を最大限に活かしたアカウントベースドマーケティングを推進することで仮説検証のスピードが上がり、同一組織と活動予算を維持したままで展開できるキャンペーンの数が5倍から6倍に増え、それだけ獲得できるリードの数やインサイドセールスからの商談件数の創出も増加した。まずは自社のマーケティングプロセスのデジタル化を実現したことでマーケティングの精度とスピードが格段に向上している。今後はやみくもに件数を伸ばすのではなく、その精度を更に高めていく必要がある」(榎本氏)。

 ちなみに、このマーケティング部門と営業部門を巡っては、そのリードの質や営業成績を巡って対立が生まれることもあるが、榎本氏は「成功体験を生み出すことで両者の協力関係は一気に強固になる」と提言する。小さな成功でも積み上げることで両者のエンゲージメントを構築していくことが重要になるのだ。「異なる意識や考えを持つ部門を効果的に連携させるために、その壁を取り払うこともCMOにとって重要な役割だ」(榎本氏)。

「CMOをはじめマネジメントは、マーケットの変化の速さに追随できるように会社を変え続けていく必要がある」と榎本氏 「CMOをはじめマネジメントは、マーケットの変化の速さに追随できるように会社を変え続けていく必要がある」と榎本氏

マーケティングのインフィニティ・ループを目指す

 最後に榎本氏が語ったのは、「共創」に対する考えだ。榎本氏によると、クライアント企業は人工知能などの最新テクノロジには強い関心を示すものの、具体的に自社の事業の中でどのように活用すればいいかまでは考えが及んでいないことが多く、どのような社会課題に挑むべきかを一緒に考えることが多いのだという。特にNECでは社会課題を7つの領域に分けて具体的な課題の顕在化とそれに対する施策の考案までをNECとクライアント企業で共創していくワークショップのプログラムを展開して、これまで100社が導入しているという。

 プログラムは無償の部分と有償の部分がある。この点について榎本氏は、有償にしたことの意義を説明した。「このプログラムで儲けるつもりはまったくない。しかし、契約を経て権利義務を生み出すことで、お互いに責任が生まれる。無償ではお互いに甘えが生まれて、結果的に良いものを生み出さない。体系建てたプログラムを進めて、節目で成果や方針を確認しながら成果の創出を目指している」(榎本氏)。

 ちなみに、こうした取り組みで活かされているのが、実はかつてパソコンや携帯電話などパーソナル事業に携わっていたプロダクトデザイナーなのだという。NECのデザイナーの中には製品デザインだけでなくビジネスデザインなども手がけられる人材が多く、そうした人材がファシリテータとしてワークショップに参加することで、アイデアをその場で絵に書いて議論するグラフィックファシリテーションなどができるのだという。

 こうした取り組みを通じてNECはどのような顧客との関係づくりを目指しているのか。それはマーケティングのインフィニティ・ループを生み出すことだと榎本氏は説明する。製品を比較、検討して購入、導入してそこで完結するのではなく、そこから更に新しいニーズを発見してビジネスを生み出していくという顧客体験の連鎖を出そうとしているのだ。

 「NECは既存のクライアントとの関係性の中でビジネスを展開することが多いが、今のクライアントは未来のクライアントでもある。製品やソリューションを売って終わるのではなく、その製品やソリューションを通じて何を生み出すのかという部分にまで寄り添うことが重要だ。顧客満足の向上をマーケティングプロセスの中に組み込むことによって、終わることのない顧客との連続的な関係性の構築を目指していきたい」(榎本氏)。

 こうした目標を掲げ、榎本氏はCMOとしてマーケティングの変革を続けていくとしている。「CMOをはじめマネジメントは、マーケットの変化の速さに追随できるように会社を変え続けていく必要がある。クライアント企業が時代の変化に対応するためには、まずNECがその変化に対応しなければならない。マネジメントは会社を変え続けることが仕事であり、その変化の必要性を社会の変化から読み取り、社内に伝えることが私自身に課せられた大きな役割だと考えている」(榎本氏)。

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