朝日インタラクティブは9月26日、2016年に開催した「テクノロジが創世する不動産業の新潮流 〜Real Estate Tech 2016 Summer〜」の第2弾として、「テクノロジが加速させる"新しい街・住まい"づくり」と題したイベントを開催した。
イベントでは、IT技術の進展や普及が"新しい街・住まい"に与える影響を議題に、IoT活用やスマートシティといった最新事例を扱った。ここでは、Airbnbの「人が主役 Airbnbと地域活性化」と題する講演の内容を紹介する。
自宅や空き部屋、空き家などを宿泊スペースとして貸し出したり、旅先でユニークな旅行体験に参加したりできるプラットフォーム「Airbnb」は、AirBed&Breakfastの略称から分かるように、エアベッドをゲスト(宿泊者)に提供するコンセプトから始まった企業だ。2007年に米サンフランシスコで創業したAirbnbは、ホスト(宿泊先提供者)が単に宿泊先を提供するのではなく、自身の行きつけの店を紹介するなど、体験も提供してゲストをもてなすコンセプトに注目が集まり、世界中に普及した。
Airbnb Japan 公共政策本部長の山本美香氏によれば、世界191カ国以上の6万5000を超える都市で、400万件以上の物件が登録されている。累計ゲスト数は2億人に達し、「ユニークな体験ができる宿泊施設」(山本氏)を提供することから、利用者は増加傾向にあるという。
マス(大衆)からユニーク(独特)へ、モノ(物理的)からコト(体験・経験)へと観光需要が変化し、シェアリングエコノミーが普及することが、Airbnbのようなサービスの成長を押し上げているのは明白だが、そこにはこれまでと異なる経済効果がある。
ホストが提示した写真やデータを元にゲストは宿泊先を選び、ホストが決めた料金とAirbnbのサービス料、為替手数料を必要に応じて支払う。ゲストは宿泊施設に投資しない分、観光地だけではなく地域で食事や買い物をする傾向が強いことがグローバルの調査結果で明らかになったと山本氏は説明する。
「1つ1つ(の経済効果)は少額だが、消費活動が増えるため、地域経済へ貢献する」(山本氏)としており、地方創生を掲げる日本では軽視できない。その日本市場だが、日本のホスト=物件数は約5.5万件。2016年度における海外からの利用件数は約370万人だという。「大都市以外のエリアが非常に伸びている。物件数で見れば1.5倍。ゲスト数では2.6倍(いずれも前年度比)」(山本氏)と手堅い成長を見せる。
Airbnbのアカウントはメールアドレスや名前だけで作成できるが、ホストの信頼性を示すため、電話番号やFacebookのプロフィール、政府発行の身分証明書などを用いてホスト本人が存在することを証明しなければならない。ゲストはホストのプロフィールや、ホスト・ゲスト両者が行うレビューを元にホストの信頼性などを判断し、ホスト側もゲストのプロフィールなどを元にリクエストの承認もしくは却下の判断をする。
このようにホストとゲストは対等であり、相互的な評価をすることでシステムが回る。しかし、ホストとゲストの間に問題が発生しないとは限らない。グローバル全体で発生した10万円以上の物損事故発生率は0.009%(日本は0.002%)と低いが、Airbnbでは最高100万ドルのホスト補償保険を用意し、信頼の醸成を行っている。
Airbnbは、2016年11月に新サービス「トリップ(Trips)」を発表した。現地の文化や活動、他の旅行客や現地の人々と交流することで、ローカルな体験を共有する“コト”を提供するサービスだが、2017年3月には提供都市範囲を拡大。日本国内は大阪・東京、世界50都市を対象にしているが、長期的には広範囲な展開を予定している。
他方で日本国内では、2017年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立した。山本氏は法整備が整いつつも、新サービスに対する課題が残っていると語る。「地域の方々に受け入れてもらうための展開や、各企業・自治体との協業を目指しつつ、新たなビジネス展開を目指したい」(同氏)。
ブラジル政府と協業した結果、ブラジルFIFAワールドカップでは4000床がAirbnbを通じて貸し出され、ブラジル全国では10万人以上がホスト宅に滞在した。Airbnbはリオ五輪でも代替宿泊施設公式パートナーを務め、ゲスト数は8万5000人におよび、経済活動効果は約1億ドル、ホストも累計で約3000万ドルの収入を得た。
ピョンチャン冬季五輪でも江原道(カンウォンド)地方と提携し、岩手県釜石市で開催するラグビーワールドカップでも釜石市と協業するなど、行政との連携を強めるAirbnbだが、米国では「フレンドリービルディングプログラム」を実施している。
これは、ビル所有者や大家、賃借人が共に議論し、物件や日数などのルールを策定した上でホームシェアを実行するプログラムだ。ゲストから得た収入の一部をオーナー(ビル所有者・大家)に支払い、ビルのメンテナンスやゴミの増加にともなうコストを管理組合に支払うなど、仕組みを自動化することで互いのストレスを解消する狙いがある。山本氏は日本でも積極的に導入したいと説明した。
このように観光業界は日本でも成長分野であることは間違いない。旅行先の住民と同じ生活から学ぶ・体験する“コト型旅行”という流れはこの先10年ほど続くだろう。「健全な形で普及することが欠かせない。地域社会に観光が受け入れられ、ゲストにも満足度高く帰っていただくことが重要」(山本氏)。
だからこそ、Airbnb Japanは政府や300以上の自治体、地域コミュニティと相談を重ね、問題や課題があることを認識した上で、よりよいサービスを提供したいと自社の姿勢をアピールした。
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