朝日インタラクティブが運営する鉄道情報サイト「Tetsudo.com(鉄道コム)」は8月6日、小中学生とその保護者を対象にしたIT工作イベントを都内で開催した。「人工知能を使って鉄道模型を動かそう」と題したイベントで、子どもの好きな鉄道模型を、人工知能技術を組み合わせて動かす仕組みを親子で学んだ。
朝日インタラクティブの鉄道コムが主催し、日本マイクロソフトと、電子工作のハッカソンなどを運営するJellyWare、朝日新聞社メディアラボの3社の協力のもと実施した。イベント参加費用は、使用する機材の実費5900円のみの負担。小学4年生から中学3年生の子どもとその保護者からなる参加者計30組を募集したところ、早々に定員に達し、小中学生の子どもや保護者の人工知能に対する興味・関心の高さをうかがわせた。
イベントは午前と午後の2回に分けられ、それぞれ参加者15組ずつが3部構成のプログラムに沿って学んだ。各回トータル2時間半と短い時間ではあるが、第一部では鉄道模型(Nゲージ)の車両とレール、電子部品類が主催者側から配布され、PCから鉄道模型の動きを制御するためのモジュールを組み立てるところからスタートした。
組み立て方については、鉄道のシステムのエンジニアの経験がある、現日本マイクロソフトの清水氏が丁寧にレクチャー。参加者側で用意したノートPCか、会場で貸し出されたノートPCを使い、子ども全員が鉄道模型をPC上のウェブブラウザからボタンクリックで動かせるようにした。
組み立てたモジュールをPCとレールとの間に接続することで、PWM(Pulse Width Modulation)制御で鉄道模型をレール上で走らせる仕組み。ウェブブラウザ上で設定した数値の大小によって電圧の加え方を変え、鉄道模型の速度調整を可能にしている。
本題となる「人工知能」は、第二部のなかで、鉄道模型を音声で操作するためのエンジンとして扱う形とした。Google Chromeブラウザ上で扱える音声認識API「Speech Recognition API」と、クラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上に同氏があらかじめ作成していたプログラムを連携させ、PCのマイクに向かってしゃべった内容に応じて鉄道模型を動かせるようにした。
子ども達が実際にAIプログラミングを行うことはなかったが、自分のしゃべった言葉が人工知能によって認識、解析され、それによって鉄道模型が速度や向きを変えて走り出すのを目の当たりにすると、その後は何度もさまざまなパターンで動作を試しながら楽しむ姿が見られた。
第三部では一度鉄道模型から離れ、JellyWareの上田浩氏が人工知能による画像認識の概要を説明。画像認識のためのデモ環境として、ミニボードコンピュータRaspberry Pi3とカメラ、小型モニターなども用意した。認識用のさまざまなフェイクフルーツをカメラにかざすと、その種類を自動で見分け、駅構内の発車メロディや電車の通過音などを再生するもので、子どもたち自らの手で実践できるようにした。
画像認識のデモ環境の作成にあたっては、子どもたちが3~4人でグループを作り、それぞれで担当する作業を役割分担。必要な機材を一部手作りする「メカ」と、各機材を接続する「エレキ」、画像認識のためのソフトウェアを準備する「ソフト」、そして最後に画像認識を検証する「テスト」という4つの役割をこなした。これにより、子どもたちは企業におけるチームエンジニアリングの基礎を体験することもできたようだ。
同イベントは、昨今流行している子ども向けプログラミング講座とは少し毛色が異なり、鉄道模型という身近で子ども好みのアイテムを使いながら、プログラミングそのものではなく、それによって結果的に何ができるのかという体験にフォーカスした内容となっていた。
小学4年生の子どもと一緒に参加した母親は、子どもを別のロボットプログラミング教室に通わせていることから、そこで学ぶより前に「人工知能がどういうものかを子どもに体験させたかった」と話した。具体的なAIプログラミングを学ぶことも期待していたようだが、「鉄道模型をパソコンから動かすだけでも大変なことがわかったし、画像認識などの体験ができたのも良かった」と言い、子どもも「鉄道をパソコンから動かせたのが楽しかった」と笑顔で振り返っていた。
第三部で画像認識の講座を受け持ったJellyWareの代表取締役社長である崔熙元(チェ・ヒウォン)氏は、「我々は主に電子工作関係のハッカソンを開催しているが、我々の講座の特徴は、PCの画面(プログラミング)だけで終わらず、Raspberry Piやカメラなどフィジカルなものを使っていること。プログラミングは手段に過ぎず、それで何をやるかが重要ではないか。子ども向け講座やAI講座は初めてだったが、子どもたちは真剣に聞いてくれていたので、AIの概念は理解してくれたと思う。AIで仕事が奪われるという話もあるが、実際はそうではない。AIを使ってもっと便利なサービスや商品を考える、というきっかけになってくれれば」と話した。
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