「Retina HDディスプレイ」は、視野角の広いIPS型ながら1400:1(iPhone 8)および1300:1(iPhone 8 Plus)を確保。DCI-P3(デジタルシネマイニシアティブ:デジタル映画用フォーマットで定義された広色域規格)に準拠した色再現域、それに4つの環境光センサを用いた色温度自動調整機能「True Tone」など、iPad Proに採用されている技術がすべて盛り込まれている。もちろん組み立て時にRGBそれぞれの輝度特性をそろえカラーバランスを調整している点も同じである。
True ToneはiPhoneとしては初の搭載となるが、色温度が異なる照明環境に置くと、スーッと自然な速度で色温度が変化。照明環境に合った自然なホワイトバランスに収斂する。この機能をオフにすることも可能だが、写真や映像作品を楽しむ上で、より実際の映像に近い色彩感覚で楽しみたいならば、是非ともオンにすることをオススメする。
「色再現域が広い」ディスプレイというと、鮮やかで美しい写真が“もっと鮮やか”に、色彩感覚に優れた監督の映画が“もっとカラフルに”見えることを期待したり、そう感じるような気になることもあるかもしれない。実際、鮮やかなディスプレイパネルに対し、過剰なまでの彩度の高さで表示する製品もある。
しかしアップルはDCI-P3の色域を活用し、より正確に色をトラッキングした上で、自然な色で表示しようとする。これはiOS上の色の扱いも含め、ハードウェア・ソフトウェアの両面からのアプローチだ。どちらが美しいかといえば、きちんと彩度の違いを描き分け、実物に近い雰囲気・立体感を出せるアップルの手法がより良い体験を引き出せることは間違いない。
同時にアップルは音質も向上させた。とりわけ本体を横にして、左右のスピーカから鳴らした時の音は秀逸だ。もちろん、物理的なサイズによる制約で低域の再現能力は完璧ではない。しかし、倍音付加による低域増強効果を施しているのだろうか。iPhone7シリーズに比べ、iPhone 8/8 Plusは両製品ともに重心が下がり、また高域のピークが抑えられて聞きやすい。さらに25%音圧を高めたとのこと。この音質改善は予想以上だ。
音楽を誰かと一緒に聴きたい場合、よりその曲の雰囲気を捉えられる。もちろん、映像作品を楽しむ際にも便利だろう。用途にもよるが、iPhone 8 Plusに関しては、小型のBluetoothシングルスピーカが不要になるという人もいるかもしれない。
以前ならば、iPhoneの新モデルが出れば真っ先に「どんなプロセッサが搭載されたか」を真っ先に報告したことだろう。新プロセッサによる性能向上は、単に快適な速度や応答性を実現するだけでなく、新たなアプリケーションの呼び水にもなる最重要スペックだったからだ。
現在もパフォーマンス向上はスマートフォンの進化を支える一要素ではあるが、初代iPhoneが登場して10年以上。直線的なCPU性能の向上よりも、新たなアプリケーション開拓のため、必要なエレメントをどうそろえていくかの方が重要になってきている。
iPhone 8シリーズ、およびiPhone Xに採用されたA11 Bionicというプロセッサは、iPhone 7シリーズのA10 Fusionに対し25%高速なCPUパフォーマンスと30%高速なGPUパフォーマンスで、電力効率は70%向上したそうだ。
しかし、これによって即座にすべてのアプリケーションが能力向上を実感できるというわけではない。ゲームのグラフィックス品質は上がり、ARなどのアプリケーションも体験が向上するはずで、フォトレタッチや動画編集なども快適になるが、中には「そんなことあまりやらないよ」という方もいるだろう。
だが今回のA11 Bionicでは、GPUやISPなど、さまざまな部分に独自設計の技術を用いている。それだけなら単に自社向けに作ったプロセッサというだけだが、ARkitやDepth APIに代表されるようにiOS側を拡張し、そこに新しいハードウェア設計を組み合わせ、新プロセッサがその効率的な処理を支えるというやり方に将来性を感じる。
多層的に新ジャンル開拓と新アプリの呼び水を仕掛ける意図が透けて見える──と書くと言いすぎだろうか。その意図がより明確なiPhone Xは、画面上のジェスチャーに対する振る舞いや、そもそもの画面設計など従来のiPhoneとは異なる部分も少ないが、従来のiPhoneをそのまま正常進化させたiPhone 8シリーズにも、そうした“将来に向けての仕込み”は盛り込まれている。
さらに日本のユーザーにはお馴染みの機能(いつか来た道)と思うかもしれないが、2016年はFeliCaを用いた電子決済、今年はQi準拠の無線充電機能と、着実に端末としての機能は充実してきている。2017年はグローバルモデルでもFeliCa対応を果たし、さらにNFC Type A/Bとの併用も可能など熟成も進んでいる。
ちなみにQiを用いた充電の速度だが、おおむね5ボルト1.2〜1.5A程度で充電されているぐらいの速度感とお伝えしておきたい。ただし使っているケースや置く位置などで、多少の違いは出てくるだろう。
2018年になれば、Qiの標準規格として提案しているというマルチデバイス充電が可能なAirPowerという充電ステーションも発売となり、無線充電機能もさらに改善されることだろう。
なお、あまり大っぴらにはうたっていないが、充電機能に関してはワイヤレスだけでなくLightningからの充電もアップデートされている。従来の急速充電に加えてUSB-C PDの手順を用いた高速充電にも対応している。現時点ではアップル純正のUSB-C Lightningケーブルしか選択肢はないが、将来はPDが主流になっていくかもしれない。
さて、そろそろ結論と行こう。特別なモデルであるiPhone Xを除いたとしても、2017年はiPhone SE、iPhone 6Sシリーズ、iPhone 7シリーズ、iPhone 8シリーズが併売される。iPhone 8シリーズが発売されたことで、あるいは安価になったiPhone 7シリーズも悪くないかも……と考えている方も多いかもしれない。実際、筆者もそういった相談を実際に受けている。
だが10年の歴史を刻んだiPhoneは、ほぼ毎年買い替えるデバイスから、2〜3年、あるいはそれ以上使うデバイスになってきた。実際、SEや6Sシリーズが現役で販売されているのは、それらでも十分な用途があるからにほかならない。
しかし、パッと見ただけでは大きな違いがなさそうに見えるiPhone 8シリーズだが、実に多様な改良(紹介し切れていない部分もある)が施され、将来のアプリに対する備えも十分。特にスペックがまったく同一のカメラ機能は、カタログ情報から得られる印象よりもはるかに大きな違いがある。
決して安い買い物ではないが、それだけに予算に大きな制約がないならば、旧モデルをあえて選ぶのではなく、最新モデルのiPhone 8シリーズを選択する方が所有期間全体の満足度は確実に高くなるだろう。
松村太郎さんのレビューはこちらから:【iPhone 8/Plusレビュー】カメラや処理能力を徹底的に強化した10周年記念モデルCNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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