――デジタルマーケティングの領域では、カスタマージャーニーを描く中で動画にどのような役割を持たせ、マーケティング全体の中で機能させるかが大きなテーマではないかと思います。日本でも参考になるような事例やノウハウはボストンで語られていましたか。
今回のイベントでは、視聴者の情報をさまざまな角度から取得して活用できるソリューションを発表しています。すでにブライトコーブでは動画配信の視聴データをマーケティングオートメーション(MA)と連携できる仕組みを提供しています。今度のソリューションはさらにシンプルに、メールに動画を貼り付けて顧客に送付すると、顧客の視聴履歴などを解析できるという仕組みです。シンプルな施策からMAと連携したリードジェネレーションまで、幅広くマーケティングに活用できるように製品のラインアップを広げています。
ただ、こうしたマーケティングソリューションの活用は、北米よりも日本のほうが進むのではないかと期待しています。たとえば、Brightcove Video Marketing Suiteを利用しているソフトウェア会社のHDEは、動画コンテンツをホワイトペーパーの代わりとして公開し、MAと連携することで見込み顧客のホットリードを獲得。その結果、セールスの効率が従来の3倍に向上したというデータがあります。
――ホワイトペーパーの代用として動画コンテンツを展開していくのは、面白い発想ですね。
HDEの担当者は「動画は最も簡単に作れるコンテンツだ」とおっしゃっています。確かに、セミナーをライブ配信しながらリードを獲得したり、セミナーの模様を録画したアーカイブをコンテンツとして公開すれば、実は制作の手間はほとんど掛からないのです。
こうした事例は北米ではあまり共有されておらず、むしろ日本の成功事例を世界に発信できるのではないかと思います。北米は動画制作のノウハウが成熟しておりコンテンツを生み出す能力は高いですが、日本はツールをどう活用するかという設計や、データをどう生かすかというノウハウが高度です。動画マーケティングのツールとノウハウが共有されていけば、日本国内で一気に発展する可能性があります。将来的には、ボストンで日本の動画マーケティング事例を紹介するセッションを展開したいですね。
――もうひとつ、デジタルマーケティングの領域では、オウンドメディアでユーザーエンゲージメントを高めるために動画コンテンツを活用する企業が増えてきました。ボストンではどのような最新事例が紹介されましたか。
ひとつは、石鹸などを展開するLUSHが運営しているオウンドメディア「LUSH Player」が紹介されました。ここはまさに、企業が放送局としてさまざまなコンテンツを公開するというコンセプトで運営されており、インタビューやイベントの模様などをオンデマンドで提供しています。また、米国で住宅リフォームなどを展開する「Low's」は、Apple TV向けにアプリを提供して、テレビで動画コンテンツを視聴できる環境を実現しています。こうした自社サイトを活用して顧客エンゲージメントを深めていくために、動画コンテンツは非常に有効なのではないかと思います。
また日本国内では健康食品などを展開している「やずや」が運営している「ココカラ大学」では、“ミドルエイジ向けに心が豊かになるようなライフスタイルを提案する”というコンセプトで、動画コンテンツを集めたメディア運営をしています。たとえば、初心者向けのフラ講座や、詩吟の講座、スマホで写真を上手に撮る講座など、ターゲットにマッチした珍しい動画コンテンツを展開しており、今後の展開に期待しています。
こうした事例からも明らかなように、これからは企業自身が動画コンテンツを活用した放送メディアを運営して、顧客エンゲージメントを獲得していく時代になるのではないでしょうか。特に、ファンコミュニティが大きなブランドなどにとっては、大きなオポチュニティがあると思います。
――確かに、テレビ番組などを観ていても、著名企業のインサイトや製品の裏側に迫るような内容の番組は非常に面白い。つまり企業には面白いと思ってもらえるコンテンツやストーリー、世の中の役に立つナリッジがそれだけ眠っているということですね。
企業のインサイトを表現する手段としては、テキストや画像を中心としたウェブサイトを作ったり、ソーシャルメディアで情報発信したりといった手段が一般的でしたが、これからは動画で表現するという選択肢も有力なものになると思います。こうした企業のインサイトをストック型のコンテンツとして蓄積・活用できる環境、その動画配信を評価できるツール、そして視聴者を分析して次のアクションに繋げることができるツール、こうした土台が整ってきたといえると思います。
ちなみに、企業の動画配信環境における技術的な課題は、動画を配信することで通信帯域を大きく圧迫するという点なのですが、米国では企業の社内通信環境で疑似的に負荷分散できる「エンタープライズCDN」という技術が注目され始めています。すでにBrightcove PLAYにも3社ほどパートナー企業として参画しているのですが、彼らも日本企業には高い関心を示しています。
――ボストンのBrightcove PLAYでは、AR/VRのセッションも展開されました。バーチャルな映像体験には日本でも注目が高まっていますが、北米市場における動向にはどのような印象を持っていますか。
日本と比較して、北米ではVRコンテンツの量産体制が整いつつあるのではないでしょうか。ドローンを活用した動画撮影などもどんどん挑戦しています。メディア企業だけでなく、一般企業も活用し始めていますね。テクノロジの進化と併せて、映像を効率よく制作するローコストプロダクション=ワークフローの成熟を進めているのが印象的です。もはやVRは、チャレンジの域ではなく当然のように制作していく姿勢が垣間見えます。また、VRライブ配信の技術やノウハウも確立してきているので、この領域でも日本より進んでいると感じています。
VR領域は、多くのメディア企業を中心に日本の企業も興味を示しているところです。こうした技術やノウハウが日本に導入されていけば、さまざまな面白いチャレンジが生まれていくのではないでしょうか。VR動画は通常の動画と比較してデータ量が4倍程に大きくなるため、配信にはコストの課題がのしかかることになりますが、ブライトコーブとしては高品質なデータ圧縮方法の研究など、テクノロジ領域でVRコンテンツへの期待に応えていきたいと考えています。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?