こうした会議データの分析から働き方を改善できる可能性を探求した鹿内氏のアプローチを受けて、それを誰もが活用できるツールにしたいと動いたのが、日本マイクロソフトの大田氏だ。大田氏は、リクルートキャリアと共同で自らの社内コミュニケーションの実態をクリアにするiPhone向けセルフマネジメントツール「Engagement Board」を開発した。
「自分自身が何に困っているのか、これからどうしたいのかを認知していない人も多い。加えて、それをもし認知していたとしても、言語化がうまくできないこともある。こうした課題を改善するためのツールを開発した」(大田氏)
Engagement Boardは、過去1カ月間の仲間への貢献(どれくらい会議に招集されたか)、会議のオーナーシップ(どれくらい自ら会議を主催したか)をグラフで表示するほか、会議の数と会議時間の月別推移グラフ、他のID(他の社員)とのつながりやエンゲージメントの強さを可視化したグラフなどを表示することで、会議を軸にした自分自身の仕事の振り返りと改善点の発見を可能にするという。
大田氏は、こうしたツールを日本マイクロソフトとリクルートキャリアが共同で開発したことで、さまざまな気付きが得られたと説明する。
「予定表データを可視化すると何かが見えてくるのではないかという仮説をもとにOffice 365やMicrosoft Azure、データ解析ツールであるPower BIを活用した結果、短時間のプロジェクトでさまざまな関係性や働き方の実像が見えてきた。勘ではわかっていたことが明確に可視化されたことで多くの発見が生まれた」(大田氏)
そしてこうした共同開発によって、働く個人の働き方の改善へのヒントだけでなく、組織全体でデータを共有し、活用できるツールを生み出すことへとつながったという。会議という社内コミュニケーションのインサイトを広く組織全体で分析することで、働く個人による働き方の改善へのヒントだけでなく、組織毎の働き方の傾向や社内の組織連携といった面における示唆も見えてきたのだそうだ。
「部門間のコミュニケーションを可視化すると、各部門が求められる役割を果たしているかが垣間見えてくるだけでなく、部門や人材によって会議で求められる役割が変化していることといったさまざまなインサイトがわかってくる。会議だけを見ても無意識・無自覚な働き方の傾向や違いが見えてくる。こうしたコミュニケーションを見直すことが働き方改革のひとつになるのではないか」(鹿内氏)
また鹿内氏によると、こうした社内コミュニケーションの中心にいる=コミュニケーションの中心性が高い人ほど、仕事に対するエンゲージメントが高いというインサイトも見えてきているのだそうだ。
「ただ、学術的には、イノベーションのために密なコミュニケーションが必要ではないという論文もある。Evidence-Based HRMを進めるためには、データというエビデンスだけでなく計量社会科学やピープル・アナリティクスでの学術的に精査された知見といった科学的なエビデンスも必要になってくるのではないか」(鹿内氏)
講演の最後に、再び高森氏が現在も研究開発を進めているEvidence-Based HRMが今後目指している目標についてまとめた。
高森氏は、働く個人、マネージャー、経営者という3つの立場がそれぞれ抱える働き方改革に向けた課題を解決することで、個人の多様性と企業の生産性を両立する働き方をリデザインすることを改めて目標として掲げる。
「経営者は労働人口が減少する中で限られた人材を活用したい。従業員はライフステージが変化しても自分の持ち味が生かせる働き方に軽やかにシフトしたい。マネージャーは在宅ワークの普及などにより、働く場所が多様化し社内コミュニケーションが希薄化していく中で適切にマネジメントしなければならない。これらの課題を解決するのがEvidence-Based HRMだ」(高森氏)
その上で高森氏は、会議にとどまらず働く人に関する様々なデータから働き方のインサイトをビジネスインテリジェンス(BI)として可視化し、働く喜びや充実感を生み出しうる最適解を発見するだけでなく、働く個人自身が納得できる「納得解」を導き出し、組織や仕事に価値を感じることができるレベルまで踏み込んで開発を進めていきたいとしている。
「今は十分な量のデータを基に実態を可視化するBIの段階だが、今後は予測や意思決定の支援も可能にするAIの領域にも進んでいきたい」(高森氏)
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