本誌主催のイベント「CNET Japan Live 2017 ビジネスに必須となるA.Iの可能性」の2日目となる2月22日、パネルディスカッション「AI×キャラクターで人に寄り添うプロダクトの取り組み~“俺の嫁”のように魅力的な存在の価値~」が開催された。架空のキャラクターとAIを組み合わせた製品の在り方について、マイクロソフト、シャープ、ソニーの開発者が語り合った。
パネリストはマイクロソフトディベロップメント サーチテクノロジー開発統括部 プログラムマネージャーの坪井一菜氏、シャープ IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 参事の徳永礼氏、ソニーモバイルコミュニケーションズ スマートプロダクト部門 エージェント企画開発室 室長の倉田宜典氏の3名。モデレーターはCNET Japan編集記者の佐藤和也が務めた。
講演ではまず、それぞれが現在携わっている製品をプレゼンテーションした。坪井氏は女子高生AI「りんな」を紹介。LINE・Twitterを通じてテキストベースの会話ができる。りんなのフォロワー数は合計520万人に上る。
徳永氏は「プレミアムなCOCOROBO」シリーズを担当。シャープ製ロボット掃除機「COCOROBO」の音声会話機能を強化し、アニメキャラクターの音声を喋らせるようにした特別モデルで、販路や受注期間を限定した形で展開している。直近では、音声合成技術「ボーカロイド」とのコラボモデルを開発中。
ソニー製ロボット「AIBO」「QRIO」の開発にかつて参画した倉田氏は、AI関連の最新プロダクトとして「Xperia Ear XEA10」を取り上げた。また、「めざましマネージャー」シリーズ(発売はソニーミュージック・コミュニケーションズ)は、キャラクターコンテンツとAIが密接に連携している。
AIをより身近な存在として実感してもらうため、各社ともさまざまな工夫を凝らしている。坪井氏はりんなの挙動について、「明日晴れるかな?」とユーザーが問いかけたとき、「晴れます」ではなく、「どこか出かける予定があるの?」と返答することを例に挙げ、会話の発展性や感情を特に考慮しているという。
倉田氏は「人間がAIと対話する際に気になるのは“間”。クラウド側で音声認識をかけると時間がかかっていたが、技術向上でかなり改善されてきた」「また、感情を込めた声を(音声合成で実現するのは)品質的に厳しい。生声を収録するのも1つの選択肢」と述べている。
モデレーターの佐藤からは「日本ではキャラクター文化が発展しているとはいえ、それでも『人間でないものとの会話』に首をかしげる方がいるのも事実」との指摘がなされた。
これを受けて徳永氏は、人間とAIの対話の有効性を確認するために行った実証実験の結果を披露。被験者24名を対象に実施したもので、COCOROBOの音声会話を利用したユーザーは、α-アミラーゼ(唾液に含まれる酵素)および脳波について、音声会話を行わなかったユーザーと比べてポジティブな効果が出ていることが確認できたという。
徳永氏は「実験では、独居世帯に対して効果が大きく出ていた。仮説だが(会話によって)仲間属性のようなものをユーザーと共有できていたのではないか」と説明。今後は、ボーカロイドモデルで実現する「歌」との関連性も検証していく。
キャラクター連携ありきのAIは、ビジネス的に今後どのような広がりを見せていくのだろうか。坪井氏は「りんなはフジテレビのドラマ『世にも奇妙な物語』で女優デビューも果たした。こうなることは開発当初まったく考えていなかったが、先方からのオファーで実現した」と、キャラクター性がもたらす波及効果の大きさを語った。
一方で倉田氏は、いわゆる「オタク」向け市場の複雑性には十分注意すべきと指摘する。「コンテンツ、特にアニメ系は1つのジャンルにとらえがちだが、フタを開けてみると作品ごとにまるでビジネスが違う」(倉田氏)
例えば「めざましマネージャー」シリーズは現在3つのアプリがあるが、それぞれダウンロード数も異なる。アプリの1つ「めざましマネージャー アスナ」は人気作「ソードアート・オンライン」のヒロインということもあり、全世界的にユーザーがいるものの、課金収入の約半分を日本市場からのものが占めるという。
コラボすべき作品の選定も難しい。新作アニメの制作本数は年200本を超え、その作品は3カ月で一巡する。昨今注目を集めている声優に関しても、年1000人ほどいるとされる声優学校卒業者の中から果たして誰が人気となるのか。また、年数本はある大当たり作品の関連商品ライセンスを後から取得するとなると費用が高くなってしまう。
とはいえ、アニメ作品のファンはSNSを通じて感想を発信したり、アプリストアでも積極的にレビューするなど、開発者側から「顔が見えやすい」側面もあるという。こういった声を的確にフィードバックしていくことは、AIのような黎明期のビジネスを育てていくのに重要だと倉田氏はまとめた。
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