物件リアルタイム査定「IESHIL」、参入から1年で感じた不動産業界の変化 - (page 2)

 実際、企業の中からは「(当社が保有する)成約価格データを開示してもいい」という声さえ聞かれます。本来であれば、そこをクローズにしてこそのビジネスだったのが、変革をし始めているということは、大きなことではないかと思います。そうした企業とコミュニケーションを取りながら、私たちは不動産業界の動きに合わせたビジネス展開をしていきたいと考えています。国内のリアルエステートテックへの動きは、この1年で最初の一歩を歩み始めたように思えます。

芳賀氏
この1年で感じたビジネスの手ごたえを語る芳賀氏

トレジャーデータの技術はどのように貢献したのか

――今回は、IESHILの技術的なバックボーンについても伺います。まずは、IESHILとトレジャーデータの関わりについて教えてください。

堀内氏:トレジャーデータでは、IESHILが収集している中古物件の流通価格情報や価格相場情報などのデータをクラウド型データマネージメントプラットフォーム(DMP)に蓄積して、独自の機械学習ライブラリ(Hivemall)を活用することで、流通していない物件の価格情報を推定できるという点が、当社でも今までにない新しい活用法なのではないかと思います。

 それ以前から、リブセンスにはクラウド型データマネージメントプラットフォームを導入してもらい、ウェブサイトの情報をすべて一元管理して、表示する情報を最適化することでSEO対策やユーザリビティの改善に役立ててもらっていますね。そうして4年ほど活用してもらうと、そこで得られたノウハウや技術的なアセットを基盤とすることで、新しいサービスの立ち上がる速度が上がるわけです。そういう意味では、私たちもリブセンスに育ててもらうことができたのではないかと思います。

 IESHILでもトレジャーデータの技術をフル活用してもらっているのは、こうした長いお付き合いの積み重ねによるものが大きいですね。実際に、トレジャーデータではオープンソースも数多く提供しているのですが、データをクラウド上に格納するためのプラグインをリブセンスの社内で独自に開発してもらったりしていて、当社のリソースのほぼすべてを使いこなしてもらっていると思います。そういえば、IESHILでは物件情報のページに掲載する説明文なども自動的に生成していましたよね。

堀内氏
トレジャーデータとリブセンスの関係について語る堀内氏

芳賀氏:そうですね。IESHILはSEOに非常に強みを持っていて、その裏ではテキスト自動生成という技術が動いています。約27万件あるIESHILの物件情報について、Hivemallと自然言語処理エンジンを組み合わせることで、説明文などを自動的に生成してページを作っていますね。文章の更新も自動的に行っています。

――トレジャーデータとリブセンスでは日常的にどのようなやりとりが生まれているのでしょうか。

堀内氏:私から1つ申し上げると、実はリブセンス側では、トレジャーデータを“使っている”という意識が全くないというのが答えなのです。トレジャーデータはあくまでもデータを蓄積・解析する基盤ですので、芳賀さんとしては、その正体が何者かを知らなくてもいいわけですよね。そのような存在が私たちの理想でもあるのです。ビジネスを推進する立場の方にとっては、外注・内製を問わず、ある一定の投資に対して新しいサービスを作るという結果を生み出せればいいわけです。

 データ基盤や計算(解析)の環境をすばやく整えて新しいサービスの立ち上げを実現して、実はそれがトレジャーデータのおかげだったということに後で気が付く……くらいの存在感が理想的だと思います。本当ならば、選ばれるためにはもっと存在感を出さなければなりませんが(笑)。

芳賀氏:ビジネスを推進する立場からすれば、アウトプットされたデータが本当に市場価格の相場に適合しているか、差異がないかをチェックするわけです。大きな差異があった場合にはエンジニアとなぜその差異が生まれたのかを検証して、その中でトレジャーデータの機械学習がどのような判断をしているのかを確認し、必要があれば修正します。また最近では、アクセス解析やビジネスダッシュボードもトレジャーデータに蓄積された情報を可視化して確認し、ユーザーの動向判断に活用しています。

芳賀氏
リブセンス社内で開発したダッシュボードを紹介する芳賀氏

堀内氏:こうしたダッシュボードはイエシルのエンジニアの方が開発したのですが、こうしたことができるのが、リブセンスとトレジャーデータの関係の強みではないかと思います。データ蓄積やデータ分析の環境基盤を内製すると労力も時間も掛かりますが、そこをトレジャーデータに任せてもらうことで、リブセンスはユーザーインターフェースやダッシュボードといった、“うわもの”の開発や改善に集中することができるわけです。

 誰でもできる面倒な作業はトレジャーデータに任せて、自分たちは自社でしかできないことに集中する。こうした分業が成り立つことで、ビジネスの立ち上げスピードは格段に上がるのではないかと思います。

 データの可視化というのはビジネスにとってなくてはならないものですが、トレジャーデータはあえてそこを自社で用意するという選択肢を捨てているのです。代わりにデータ連携ができるポテンシャルを高くすることで他のデータ可視化ツールとの連携を簡単にすることができます。既存のデータ環境をトレジャーデータに置き換えるのは簡単ではありませんが、新しいビジネスを生み出す基盤に活用してもらい素早い垂直立ち上げを実現するという点は強みを発揮できるのではないかと思います。

蓄積されていくデータから、サービスの利便性を生み出す

――最後に、今後の展開について教えてください。

芳賀氏:ウェブサイトの改善は今後も断続的に行っていく予定です。たとえば、11月7日にはコンテンツを追加し、エリア(駅)ごとに築年数経過によるマンションの資産価値の値下がり率や今後の価格推移予測、間取り別・築年数別のマンション数の割合を比較できるようにしたほか、交通アクセスや医療機関等の公共機関情報、出産・育児制度など、生活に密着した周辺環境情報を提供するようになりました。

 将来的には、ビジュアル化する情報をさらに増やしたり、住環境データを駅だけでなく市区町村や大字レベルでも閲覧できるたりするように情報を拡充していきたいと思います。また、治安や地盤といった環境情報の量も増やしていければいいですね。

 データはすべてトレジャーデータに蓄積されているので、そのデータをどのように加工して情報としてユーザーに提供するかを考えることが、さらなる利便性に繋がるのではないでしょうか。

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