なんとも皮肉な話である。中国のインターネット企業Tencentと製造大手Foxconnが先ごろ、資金調達ラウンドを主導して、インドのメッセージングアプリ「Hike」に1億7500万ドルを出資した理由は、中国企業自体がインドで成し得なかったことを、Hikeが成し遂げられる可能性があるからだ。それは、インドで揺るぎないシェアを誇る米国のメッセージングアプリWhatsAppやFacebookに対抗することだ。
その出資ラウンドによって、Hikeがこれまでに調達した額は2億5000万ドルを突破し、同社の企業価値は14億ドルと評価された。Hikeへの大規模出資は、一見すると青天の霹靂のようにも思える。インドの他のEコマース企業は苦戦を強いられており、人員削減や評価額の引き下げ、ベンチャー資金の枯渇という憂き目に遭ってきたからだ。
Hikeが競合すべての先を行っている理由の1つは、これまでの好調な業績とされている。数字というのは油断ならないものだ。Hikeの創設者であり、インド最大の電気通信企業Bharti Airtelを創設した大富豪の30代の息子でもあるKavin Mittal氏の主張によると、Hikeは登録ユーザー数が1億人以上で、ユーザー1人当たりのエンゲージメントではWhatsAppに次ぐ2位の座にあるという。これに対し、一部では、月間アクティブユーザーは半数にも満たないのではないかと言われている。また、調査会社TNSの評価では、Hikeよりも「Facebook Messenger」が上だ。
しかし、これはつまらない批判でしかない。Hikeが、インドにおける多数の競合メッセージングアプリ(「Viber」など)を押しのけ、真のリーダーたちと競争してきたのは、紛れもない事実だ。世界最大規模とも言われる中国発のメッセージングアプリ「WeChat」の取り組みさえも、軽々と凌駕した。そのWeChatを所有し、新たにHikeに出資したTencentは、潤沢な資金があるにもかかわらず、隣国のインドで未だに足がかりをつかめていない。
確かに、ソフトバンクとBharti(Airtelを所有)の両社が主な出資者であることは、Hikeに有利に働いているはずだ。しかし、HikeとMittal氏はこの血統による恩恵をいつまでも受けられると考えてはおらず、主に若いユーザー層の支持を得ようと努めてきた。Hikeのユーザーベースの90%は30歳以下であり、毎月やりとりされる400億通以上のメッセージの大半は、こうした若年層が送信している。
とはいえ、それだけで、このインド企業と中国企業の予期せぬ協力関係を完全に説明することはできない。今から5年前、WeChat(中国本土では「微信」と呼ばれる)は中国で駆け出しのサービスだった。中国政府がFacebookをはじめとするソーシャルメディアアプリやコミュニケーションアプリの多くを禁止したこともあって、WeChatは急激な成長を遂げ、今ではユーザーベースが7億人を超える。WeChatが大きな話題になったのは、2015年に約18億ドルを稼ぎ出し、推定時価総額が800億ドルに達したからだ。一方、WhatsAppとFacebook Messengerはいずれも、収益化に積極的に乗り出していないか、収益化への道筋を見出せていない。
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