パナソニックの原口氏は、自身がビジネスで関わっている空港という施設を例に、UX/CXを向上させるための考え方のヒントを披露した。同氏はまず、英国の評価機関である「SKYTRAX」が、全世界の空港の質に関するランキングを発表しており、各国の空港が上位を目指してさまざまな取り組みをしていると紹介した。
数百にもおよぶ調査項目の結果から順位が決定されるが、空港側としては「顧客がスムーズに、素早く回転(目的地へ移動)すること」が重要と考える。その一方で、実際の一般の利用者は「コーヒーの質が良くない」など、単純で細かい点が重要と捉えているという。
また、従来はインフラとオペレーション管理が最も重要なポイントだと考えていたが、最近ではいかに旅客のデータを取得するかにフォーカスしているとも語った。空港間の競争が激しくなる中、いかにハブ空港として使いやすい空港であると顧客に認識してもらい、お土産や食事などの航空外収入を増やしていくかが売上拡大の鍵となる。
SKYTRAXによるランキング上位の空港では、PDCAを回して顧客の求めている空港に近づけていく活動を積極的に行っており、こうした動きは現在の空港のトレンドになっていると原口氏は話した。
以上のように、UX/CXの向上を目指すにあたってデータは重要だ。ただ、どのデータをどのような側面から分析するべきか正しく判断できないと、 いかに質や精度の高いデータを収集したとしても宝の持ち腐れになってしまう。三浦氏は、顧客が何をきっかけに購買行動などに移るのか、いわゆる「コンバージョントリガー」をテクノロジの力で見極め、効果を最大化する将来像を語った。
同氏は、商品販売における1つのケーススタディを示した。大がかりなユーザー調査で得られたデータにより、高い売上につながったのは広告やキャッチコピーが流行したからだと判明したものの、再び同じ内容で広告展開すると売上が伸び悩んだという事例だ。よく調べるとこのケースでは、商品のヘビーユーザーたちの好きな芸能人が、その商品をおすすめしているのをどこか見た、というのが売上向上の最大の理由だったという。
つまりヘビーユーザーにとってのトリガーは、「長い長いカスタマージャーニーのどこかで見たことがある」というものになる。しかし、(潜在)顧客1人1人にマーケターらが張り付いて、カスタマージャーニーの流れを追って適切な商品をおすすめするのは難しい。そのため、最近話題に上ることの多い機械学習や人工知能のようなテクノロジを応用し、「ヘビーユーザーに最も寄与する変数を自動的に見つけ出す」ことを同社では目指しているという。
最後の質問は、どうすればUX/CXおよびデータ分析の重要性を会社全体で意識共有できるか。泉氏は、UX/CXのあり方について、日常的に疑問を持つカルチャーを根付かせる“Embed”について、「案外日本企業の方がやりやすいのでは」と話す。
海外企業は比較的トップダウンで物事が進むが、日本企業は意外にもボトムアップで進みがちだ。そういう意味では現場レベルでUX/CXの大切さを認識するところから、いずれは企業カルチャーとして全社に醸成していくことにもつながる可能性があるのではないか、と泉氏はやや楽観的に構える。
三浦氏は逆に、「これは“経営ごと”であり、血を流すくらいの覚悟で断行しなければいけない」と実現の困難さを強調する。たとえば、元マクドナルド社長の原田氏は、「マクドナルドの顧客価値の1つは、早く料理を提供できることだ」と定義して、60秒以内に注文した商品を受け取れない場合はハンバーガー無料券をプレゼントするキャン ペーンを実施した。つまり、顧客価値の根幹となるコンセプトを「早く提供すること=60秒以内」と規定し、それを軸に批判も覚悟で、全店舗でキャンペーンを行っている。
これを引き合いに、「良し悪しは別として、これをやるんだ、これがお客様にとって最適な満足度の向上につながるんだ、と言い切り、トップダウンで断行したエネルギー、パッション」が、UXを大きく変えていく原動力になると同氏は見ている。
「たとえば企業トップが、“リブランディングのために今後数年間は改革を徹底する”などのような力強いメッセージを、どの場面においても常に発信し続けるくらいじゃないと企業は変われない。もし、企業が 本当にUXを最適化していくのであれば、それを“経営ごと”として捉え、経営陣が血を流す覚悟で、断行しなければならないというのが、僕の1つの結論」と、三浦氏の刺激的な言葉でイベントは幕を下ろした。
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