進化した3つのクラウドソリューションの今後--Adobe上級副社長

別井貴志 (編集部)2016年05月30日 07時30分
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 Adobe Systemsは、ソフトウェア販売からサブスクリプションによるビジネスモデルへとほぼ完全に移行し、クリエイティブソリューションの「Adobe Creative Cloud」、マーケティングソリューションの「Adobe Marketing Cloud」、ドキュメントソリューションの「Adobe Document Cloud」と3つのクラウドプラットフォームサービスを事業の柱としている。そして、顧客のニーズをくみ取りつつそれぞれのクラウドサービスを進化させ、企業のさまざまな課題を解決させるためのエコシステム創造に尽力している。

 この3つのクラウドを今後どのように融合させより進化させていくのか。エグゼクティブバイスプレジデント兼デジタルメディア事業部門担当ゼネラルマネージャーであるBryan Lamkin(ブライアン ラムキン)氏に聞いた。

――各ソフトウェアが3つの「クラウド」という形でサブスクリプションモデルにほぼ完全に移行したと思いますが、このビジネスモデル転換は成功しましたか。移行への苦慮も含めて聞かせてください。

Adobe Bryan Lamkin エグゼクティブバイスプレジデント兼デジタルメディア事業部門担当ゼネラルマネージャーであるBryan Lamkin(ブライアン ラムキン)氏

 成功したと思います。ビジネスモデル変革の主要なゴールのひとつは、継続的にイノベーションを提供していくことです。そして、単にデスクトップというだけではなく、モバイルやクラウドへも幅を広げ、製品を利用するというエクスペリエンス(体験)の定義も進化させました。既存ユーザーに製品を使ってもらって満足度を高めることはもちろん、Adobeが提供しているソリューションに対して、さらに新規の顧客を獲得していくこともゴールです。

 ただし、クラウドに移行することで得られる継続的なイノベーションの恩恵を理解してもらうのにしばらく時間がかかりました。しかし、デジタルのワークフローをモバイルやデスクトップ、クラウドという形ですべて統合されることによって得られるメリットを理解してもらったことで、常に製品に対して厳しい目を向ける顧客をも獲得できました。さらに、Creative Cloudについては、大変手頃な価格体系にしているので、毎月何千人もの新規顧客を獲得できている状況です。

――Adobeは「デジタルエクスペリエンス」を重要視し、ユーザー企業が顧客に対してよりよい体験や新たな価値を創造することを支援するビジネスを展開している企業だと思います。その観点から3つのクラウドそれぞれについて力を入れている点を教えてください。

 企業レベルでデジタルエクスペリエンスというと、まず私たちにとっての顧客企業が急速な変化に直面しているということを認識するところから始まります。そして、この変化をAdobeでは「デジタルディスラプション」という呼び方をしています。これは主に私たちが対応している顧客の顧客、つまり顧客の企業と消費者との関係がより対話型になってきていることに起因します。消費者の方がたは、自分のニーズに対応する製品やエクスペリエンスをいつでもどこでもどんなデバイスでも使えるようにしたいと考えています。ですので、アドビ全体のゴールとしては、私たちのコンテンツとデータにおける幅広い経験、そして深いインサイトを組み合わせて活用することで、顧客企業が消費者のニーズに対応できるように、常にパーソナライズされたエクスペリエンスを提供できるようにしていきます。

 デジタルエクスペリエンスを元にした経済の中でも、それぞれのクラウドがそれぞれの役割を担っています。Marketing Cloudは、コンテンツやデータ、インサイトをとりまとめるコアのエンジンとして、そしてこれらをパーソナライズされたエクスペリエンスとしてパッケージ化して運用することにフォーカスしたソリューションです。このエクスペリエンスというのは、ウェブサイトやモバイルアプリだけではなく、小売業における大型サイネージスクリーンのようなエクスペリエンスも含まれています。また、消費者の体験をよりよいものにするためには、クリエイティビティが必須となります。

 これを私たちは「コンテンツベロシティ」と呼んでいますが、高度にパーソナライズされたコンテンツをより速く制作していかなければならないニーズのことです。つまり、あらゆるチャネルから接触してくる消費者に良質な体験をもたらすためには、これまで以上に速くクリエイティブなコンテンツを制作し届けなければなりません。よって、クリエイティブなコンテンツ制作のプロセスをいかに速くマーケティングのプロセスにつなげるかが重要になるわけです。そのため、Creative Cloudのゴールとしては、クリエイティビティというものを再創造し、Marketing Cloudと統合することで、パーソナライズされた体験をいかにシームレスに展開させていけるかにかかっています。

 また、Document Cloudは、デジタルエクスペリエンスの中で、若干異なる点にフォーカスしています。何年も前に発明されたAcrobatとPDFにおいて、私たちの最終的なゴールとしては、「紙を排除する」プラットフォームを目指し構築してきました。紙によってデジタルによるプロセスが分断されるのです。企業が消費者に提供するエクスペリエンスというものをさらに変革させようとプッシュする中で、この紙をデジタル化させていくということが、企業の満足度の向上にもつながりますし、ひいては消費者の満足度向上にもつながっていくでしょう。

 プロセスの95%をデジタル化しても残りの5%のプロセスが紙のまま残っているのであれば、せっかくデジタル化しても、それによって得られたであろう恩恵がすべて吹き飛んでしまいます。ですので、Document Cloudにおけるゴールは、完全に統合されたデジタルドキュメントの体験を実現していくことにあります。フォームや文書の作成や署名、コメントの追記、承認のプロセスなどをすべてパッケージ化して提供することで、すべてのプロセスをデジタル化できると考えています。

 もちろんこれを実現するためには、Adobe単体だけではなく、顧客が好むストレージのインフラを管理している主要なパートナーとも連携していきます。2015年にはDropboxとの提携を発表し、彼らのモバイルアプリとクラウドストレージを連携させましたが、MicrosoftのOneDriveとBOXとの連携もできました。これによって、モバイルアプリ、デスクトップアプリ、クラウドストレージ、電子署名という完全なプロセスができあがりました。

――「紙を排除してデジタルプロセス化」というのは、ツールやソリューションの善し悪しと言うよりも、慣習や企業文化による部分も多いと思いますので、デジタル化による恩恵をもっと啓蒙する必要があるのではないかと考えます。

 私たちは電子署名の処理を60億件しています。電子署名ソリューションは「e-Signサービス」から「Adobe Sign」にリブランディングしました。多くの顧客はPDFで単に情報をキャプチャするだけではなく、デジタルクラウドを使ってビジネスの変革を自動化させて事業の実績を上げていこうとしています。大企業の顧客では、Document CloudとMarketing Cloudを統合して、一部顧客対面型の文書プロセスに活用するという動きも見られています。また、こうしたフォームベースのドキュメントプロセスを電子署名と組み合わせた事例は、政府や金融系、ヘルスケア系の企業で、新規顧客を獲得、登録する時に活用されるケースが多く見られます。ですが、おっしゃるとおり、PDFとAdobe Signを活用したデジタルドキュメンテーションによるワークフローの新たな価値をもっともっと伝えていくことは、私たちの責務だと考えます。

――世界的なマーケティングカンファレンスである「Adobe Summit」で、「エクスペリエンスビジネスの源泉はコンテンツだ」と語られました。そのコンテンツを制作するためにCreative Cloudにはさまざまなツール群があります。その中には、競合が激しくなってきているツール、たとえば「Photoshopキラー」と呼ばれるツールもたくさん出てきています。こうした競合のソフトウェア、ツールに対して優位性は?

 クリエイティブというのは、単純に1つのツールではなく、エコシステムだと考えています。Creative Cloudは統合された一連のツール群であり、常にアップデートして新しいイノベーションを提供しています。ワークフローも提供することで、クリエイター自身のクリエイティビティを最大限に発揮でき、生産性も高められるようにしています。これによって、個人の生産性だけでなく、プロジェクトのチームの生産性も高められます。そして、コンテンツはシームレスにMarketing Cloudに流せます。それぞれのツールごとに競合他社のツールはありますが、Creative Cloudをエコシステムと考えれば特に競合はいないと思います。実際に私たちは、コアのテクノロジを共有できるようにSDKの開発にも力を入れているので、サードパーティの方がたにもツールを開発してCreative Cloudのエコシステムに参加できるわけです。ですので、Creative Cloudはクリエイティビティに対するプラットフォームとして、再創造したものであって、イノベーションをより速く進められるのです。

――Flashのテクノロジは今後どうしていきますか。

 Flashはわれわれのエコシステムの中で重要な役割を担っていますが、それと同時に私たちはHTMLについても強いコミットメントを持っています。将来的にFlashの役割もあると思いますが、より多くの新しいコンテンツがHTMLで開発されていくことになるでしょう。

――3つのCloudそれぞれが単純なソフトウェア、ツールではなく進化する中で、まだまだこの3つのCloudが連携されていないように感じます。今後のAdobeの課題は、いかにこの3つのCloudを融合させつつ、新たな価値を創造しユーザーに提供できるかという点だと思いますが、いかがでしょうか。たとえば、Adobe Summitと世界的なクリエイティブカンファレンス「Adobe MAX」を統合して同時開催してもいいのではないかと考えます。マーケターとクリエイターの距離を縮めるという点でも有意義だと思うのですが。

 3つのクラウドの統合については、かなり進んではいますが、まだまだやらなければならないことがたくさんあることは認識しています。そして、これらが密に連携できるようにしていくことには強い意欲を持っています。コンテンツとデータの連係という意味では、3つのクラウドは連携していてそれぞれについて橋渡しの仕組みは作っています。APIについてもできるだけ共通化しています。そして、第三者がエンゲージメントできるようにSDKの強化もしています。

 Creative CloudとMarketing Cloudについては、「Adobe Experience Manager」によってワークフローを管理するためにかなり深い統合ができています。Adobe Experience ManagerとAdobe Signの統合も発表しましたが、そうすることで、Marketing CloudとDocument Cloudの統合もされ、顧客のニーズに対応ができます。そして、今後はすべてのCloudをより密に連携させるための大きな計画はいくつも予定されています。

 カンファレンスの統合開催についてのフィードバックは真摯に受け止めたいと思います(笑)。こうした提案はほかの方からも実は聞いております。

――デジタルエクスペリエンス企業として、第4のCloudが登場する可能性は?

 最終的にCloudがいくつになるかは、あまり気にしていません。やはり顧客の課題を最適なかたちで解決できているかが重要だと思います。現在は3つCloudがありますが、もしかしたら2つでいいのかもしれませんし、7つ必要かもしれません。現在、新しいCloudを発表する予定はありませんし、いまあるCloudはそれぞれ注力する分野で差別化されています。そのため、朝目覚めて急に「さて4つめのCloudを作るぞ!」ということにはなりません。引き続きわれわれは、顧客企業が課題を解決し、最高のエクスペリエンスを消費者に提供していくことに尽力していきます。

Adobe Bryan Lamkin 第4のCloudの登場は?
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