「不動産業界は負の側面が多く、特に仲介はひどい。ユーザーが置き去りにされ、情報の非対称性を利用して飯を食っている人ばかり。ここにITを持ち込めば、イノベーションが起きる余地がある」――そう語るのは、オンライン接客型の賃貸仲介サービス「ietty」を運営するietty代表取締役の小川泰平氏だ。
家を引っ越す際、多くの人は街の不動産屋に足を運ぶと思うが、そこで勧められた物件が本当に自分の満足する物件なのか、また入居時に支払う高額な初期費用が適切な金額なのかを知ることは難しく、疑問を持ったまま契約してしまったという人もいるだろう。
実際、すでにない物件をウェブサイトに掲載し、来店者には「先ほど決まってしまった」と伝えて、別の物件を案内する“ある呼び”という業界用語は日常的に使われている。また、管理会社や大家から広告料(AD)が入る物件もあり、できるだけAD物件から先に入居させたいと考えている不動産屋もいる。
住友不動産に約5年間務めていた小川氏は、こうした不動産の“負の側面”を目の当たりにし、ITによって旧態依然の業界を変えるために、2012年にiettyを創業したという。主力事業は、希望の条件を登録するだけで、おすすめの部屋を探して次々と提案してくれるお部屋“探され”サイト「ietty」だ。
iettyアプリをインストールしておくと、スマートフォンに希望に沿った物件情報がプッシュ通知で届き、チャット形式で閲覧したり、コメントしたりできる。気になる物件があればお気に入りに入れ、そのまま内見の依頼もできる。興味のない物件は「内見しない」を選び、その理由をコメントで残しておくと次回以降はその意向を反映した物件を案内してくれる。
こうした、本来は不動産屋の店舗でしか受けられなかった“接客”をオンラインで実現していることがiettyの強みだ。仕事などが忙しく、なかなか来店する時間を作れない人でも、場所を気にせず隙間時間に部屋探しができる。また、LINEやFacebookメッセンジャーなどを日常的に使う人にとって、チャットという慣れ親しんだUIで気軽にやりとりできる点もうれしい。
一方、ietty側も実は接客の9割以上を人工知能を用いた自動レコメンドシステムで運用しており、必要な時だけオペレーターが対応するため、人件費を大幅に減らすことに成功している。また、3月など繁忙期のみ、オペレーターの人員を増やすといった柔軟な対応が可能。営業マンなどの固定費がかからないため、そこで浮いた費用をユーザーに還元できるとしている。
iettyの会員数は2016年4月時点で6万世帯を超え、3月には単月黒字化も達成した。また同社では、法人向けのオフィス仲介や社宅代行を請け負うサービス「ietty BIZ」も提供している。すでに大手企業を始め170社と契約し、収益の大きな柱になっているそうだ。
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