多くのウェアラブル端末が登場する中、本格的なスマートウォッチの大本命として注目を集めたApple Watch。2015年4月24日の発売から、1年を迎えた。日本では賛否両論の意見が出ているが、1年を振り返って時計ジャーナリストはどう見ているのか。
2015年4月10日、筆者はスイス大使館で開かれた時計関係者のセッションに参加した。話題はスマートウォッチ(コネクテッドウォッチ)と機械式時計の未来について。参加者は日本の時計メーカーやサプライヤー各社と、「Swatch」の共同開発者であるエルマー・モック氏、スイスクリエイティブセンターの共同創設者クサビエ・コンテス氏などだった。
セッションは2部制だが、Apple Watchのリリース直前ということもあり、話題はスマートウォッチに終始した。結論は出なかったが、スイスの関係者たちはスマートウォッチ、はっきりいうとApple Watchに脅威を感じていたようだ。「スマートウォッチはクォーツショック(筆者はこの言い方を好まないが)以上のインパクトをもたらすかもしれない」とコンテス氏は述べた。
それから1年。Apple Watchはどのようなインパクトを与えたのか。デジタルではなく、時計の世界からの見方を述べたい。
まずはクオンティティ(量)。某メーカーの人間はこう語った。「2015年Appleは、推測で約600万本のApple Watchを販売した。売れたのは大半が米国市場である。現在米国では時計が売れない。理由はおそらく次のApple Watchを待つ人たちが、買い控えているためだ」。大げさに聞こえるが、米国市場を知る人たちからは、似たような意見を何度か聞いた。と考えれば、米国を拠点とするFossil GroupとMovado Groupが、相次いでスマートウォッチに参入したのも合点がいく。日本やヨーロッパでは、スマートウォッチはほとんど普及していない。ただ米国市場では、どんな時計メーカーであれ、この新しいジャンルを無視できなくなったのである。
名門のTag Heuerも同様である。現CEOのジャン―クロード・ビバー氏は「Apple Watchはセクシーでない」と断言し、ラグジュアリーメディアを沸かせた。しかし彼は一方で、Intel、Googleと共同してスマートウォッチの開発を急がせた。その際、時計らしく作れと指示したのは、Apple Watchとの違いを明確にするためだろう。製品の発表時、Tag Heuerはこう説明した。「時計メーカーの製品であることを示すため、ケースの設計・製造はTag Heuerが監修しました」。
メカニカルウォッチに注力するFrederique Constantも、スマートウォッチを完成させた。同社が発表した「オルロジカル・スマートウォッチ」は「運動量計」を搭載する時計。これをスマートウォッチとみなすのは正直難しいが、同社はあえてそうした。CEOのピーター・スタース氏はTag HeuerがAndroidを載せたのは間違いだった、と述べる。「彼らはAndroid Wear入りの時計を、1400ドルで売った。しかし同じものをLGならば300ドルで買える(中略)。対して、AppleのOSはApple Watchにしか載っていない」。あえて機能を絞ったのは、差別化のためというわけだ。
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