ともあれApple Watchの出現は、多くの時計メーカーを刺激した。米国市場を重視するメーカーはなおさらだ。600万本という年産数(推定値)は、デジタルの世界では決して大きくない。しかし時計メーカーとして考えるなら、ずば抜けて巨大だ。その年産数は、カシオの約4500万本は例外として、Rolexの80万本、Omegaの60万本とは比較にならない(本数はすべて推定値)。ちなみにTag HeuerのConnectedは、ビバー氏が胸を張るほどの大ヒット作だが、初回の受注量は10万本。Frederique Constantも、スタース氏のコメントによると、生産数は4万本に過ぎない。先述の関係者が「いきなり世界最大級の時計メーカーが出現した」と述べたはずである。
もっともApple Watchの「量」を福音とみなす関係者もいる。「独立時計師の神様」フィリップ・デュフォー氏はその一人だ。彼が手作業で作る高級時計は、機能も価格もシリコンバレー製のハイテクウォッチとは対極にある。しかしデュフォー氏は「Apple Watchは、人々が再び時計を腕にするきっかけになるかもしれない」と好意的にとらえている。「日本に来て感じたのは、若い人たちが腕に時計を着けていないことだった。しかしApple Watchを入り口に、彼らは時計を使うかもしれない。そのうちのいくらかは、伝統的な時計にも目を向けてくれるだろう」。
Piaget CEOのフィリップ・レオポルド=メッツガー氏も、彼独特の物言いでApple Watchを肯定した。「もし君が会議に出たとしよう。君も、隣の人間も、またその隣の人間もApple Watchを着けているに違いない。君はすぐ時計屋に出向いて、彼らとは違う時計を買うだろう。つまりはPiagetが売れるということだ」。Apple Watchを買った人が、Piagetのような超高級時計に興味を持つかは疑わしいが、メッツガー氏のような人物も、Apple Watchに期待を抱いているとは意外だった。
量以上にインパクトをもたらしたものとは──。後編は5月2日に掲載予定だ。
時計ジャーナリスト。
時計専門誌『クロノス日本版』主筆。サラリーマンを経て現職。クロノス日本版をはじめ、『LowBEAT』『日経ビジネス』などに執筆多数。共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン』(日刊工業新聞社)『アイコニックピースの肖像 名機30』(シムサム・メディア)など。ドイツの時計賞「ウォッチスターズ」審査員。
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