そして最後に挙げたのが、Perfectly Rejecting PerfectionとInner Childという考え方をベースにした「Next Stage Creative(次世代クリエイティブ)」という考え方です。つまり、クリエイティブが多くの人のコピー(二次創作)によって広がっていくということであり、この点で日本はとても進んでいると思います。日本のクリエイターは、Perfectly Rejecting Perfectionの発想で生み出されたオリジナルを二次創作で完全にコピーするのではなく、ここにも少し「ゆるさ」を持たせたり、Inner Childの発想で二次創作に「遊び」を持たせたりしています。さまざまな領域の歴史を見ても、文化の拡散や発展はこの二次創作から生まれているのではないでしょうか。ただオリジナルをコピーするのではなく、そこにPerfectly Rejecting PerfectionやInner Childの発想で味付けをして独創性を持たせたり価値を再構築したりする、こういった「リバースエンジニアリング」は日本人の得意なテクニックだと思うのです。
このように日本のクリエイティブの本質を紹介させてもらいましたが、最後に私が言いたかったのは、新しいクリエイティブが新しい時代を生み出していくのは、これからの世代のためだということであり、Cannes Lionsに集まっている世界中のクリエイティブな人びとはこれからの時代をより良いものにするためにチャレンジしていかなければならないということです。そのためには、日本のクリエイティブの本質を世界のクリエイターに理解してもらいながら、グローバルで新しいクリエイティブを共創していきたいというメッセージを伝えました。
--会場の反響はどうでしたか。またCannes Lionsを通じて感じたことは?
本田氏:プレゼンテーションはけっこう緊張しましたが、会場は立ち見が出るほど盛況で、集まった世界中の人たちが「日本のクリエイティブって何だろう」ということに強い関心を寄せていると強く感じました。最近、カンヌをはじめとする世界各国の広告やクリエイティブのアワードで日本からの作品や事例が多くの賞を獲得していて、グローバルで日本のクリエイティブがムーブメントを起こしているのではないでしょうか。今回このテーマで登壇が決定したのも、そういった背景があるのだろうと思います。最近、国が力を入れて「クールジャパン」と銘打って日本のアニメーションやコンテンツを世界に発信して人気を獲得しています。それはそれでとてもいいことだと思うのですが、少し表面的な部分もあるのではないかと思うのです。「日本のクリエイティブのどこがクールなのか」という点について、実はそのクリエイティブに携わっている人たちですら、暗黙知化しているのではないかと思います。そういった観点に立って、今回の講演テーマでは日本のクリエイティブの本質的な部分を語ろうとしたのです。
今年のCannes Lionsを通じて感じたことは、世界中の広告主やクリエイターが「どうやって世界をもっと良く変えていけるか」を考えていて、そこでクリエイティブが持つ力に期待しているということです。その中で、日本はただおもしろいクリエイティブを表面的に紹介するだけではいけません。クリエイティブの力で世界を変えようとしているグローバルな潮流の中で日本がその一員となって貢献するには、日本のノウハウを汎用性のある「ナレッジ」としてグローバルで共有していかなければならないと強く思います。
--コミュニケーション戦略の世界でも、2020年の東京オリンピック開催は重要なターゲットになるのではないかと思います。最後に、2020年に向けて、この日本のクリエイティブが持つ「3つのポイント」を踏まえ、どのようなチャンレンジをしていけばいいでしょうか。
本田氏:最近、商品やサービスを世界にPRしていきたいという日本企業からの相談は非常に増えてきていますが、そこで単なるPR手法や情報流通チャネルを考えるのではなく、今回講演したこの3つのポイントをどのような形でアウトプットすれば海外で共感を生み出せるかということが重要になると思います。また逆に、世界で流行した商品やサービスを日本でも流行らせたいと考えたときに、どのように日本に合わせてローカライズすれば良いかという点でも、この3つのポイントは重要になるでしょう。2020年に向けてインバウンド・アウトバウンド双方で需要が高まり、さまざまなプロジェクトが生まれていく中で、今回の講演内容で挙げた「Perfectly Rejecting Perfection」「Inner Child」「Next Stage Creative」という考え方は、コミュニケーション業界全体で活用できるナレッジになれるのではないかと思います。
アドテクノロジーは進化し、Facebookなどに代表される情報流通のプラットフォームも拡大して、戦略PRを進めるための「器」は昔に比べれば整ってきました。そこで重要になってくるのは、その器にどんな情報やコミュニケーションを載せるかということです。特にグローバルなPRを進めるためには、日本人やアジア人、アメリカ人とヨーロッパ人、その他の多様な人びとがお互いの理解がないまま連携しても、何も生まれません。日本のクリエイティブやコミュニケーションの視点を世界中に知ってもらい、また私たちも世界のクリエイティブやコミュニケーションの視点を深め、相互理解のもとに共創していかなければなりません。
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