米国では、2000年のITバブル崩壊後、IT企業のエグジットはIPOよりも買収されることが主流となった。前回説明したような状況により、昔ならとっくにIPOをしていたような企業が非上場のまま資金調達を繰り返し、企業価値がどんどん膨らんでいる。企業価値10億ドルに達するスタートアップは「ユニコーン」と呼ばれるが、それは伝説上の幻の存在だからだ。GoogleやAmazonでも株式公開前に10億ドルの企業価値はなかった。それが、2014年だけで38社がユニコーンとなり、今では計80社以上にのぼっている。
企業向けコラボレーションツール開発のSlackにいたっては、わずか8カ月で企業価値10億ドルに達している。
「The 38 Companies that Joined the Billion Dollar Valuation Club in 2014」参照幻の存在であるはずの「ユニコーン」(角1本)が増えすぎたため、企業価値100億ドルのスタートアップ企業に対し「デカコーン」(角10本)という呼称も生まれている。Uber、Airbnb、Dropbox、Pinterest、Snapchat、Flipcartなどすでに6社がデカコーンだ。Uberの企業価値は400億ドルに達しており、VCの支援を受けた企業としては世界でXiomiについで第2である。なお、PinterestとSnapchatは、利益どころか、売上もゼロである。
こうした莫大な企業価値に対し、最近、ITバブルを警告する有名ベンチャーキャピタル(VC)やファンドマネジャーも増えてきた。「2015年には多くのユニコーンが消える」というVCや「死ぬ可能性があるユニコーンは61社」と具体的な数字を挙げている調査会社もある。
「シリコンバレーで赤字の企業で働く社員数は過去最高。これはITバブルでなくリスクバブル」「EtsyのIPOで後期投資家は儲けたからバブルではない」などというVCもいるが、それは「バブル」の定義が違うだけの話だ。「バブルは非上場市場で起こっているので、バブルではない」という専門家もいるが、後期投資には、ヘッジファンドだけでなく、ミューチュアルファンド(投資信託)も参加している。
401K(確定拠出年金)加入者は、知らないうちに“非上場バブル”に参加しているかもしれないのだ。つまり、本来ならIPO後に公開市場で買う株を投資信託などが、非上場市場で買っているということだ。大きな違いは、IPOをするには法遵守のために数々の条件をクリアしなければならないが、非上場の場合、それは必要ない。なお、非上場の私募に参加できる個人投資家は、損をしても困らないであろうと考えられる適格投資家(Accredited Investor)のみだ。
「ITバブルは聞き飽きた」と「バブルではない」に10万ドルの賭けをしたY CombinatorのCEOも、「企業価値が10万ドル以上というのはゼロ金利の環境では妥当だと思うが、最近、月に100万ドル使うスタートアップが増えているのは問題だ」と発言している。100万ドルどころか、月に200~300万ドルを使い続けているスタートアップもある。
実のところ、すでに破綻したユニコーンもある。2011年に創業したデザイン重視のショッピングサイト、Fab.comは、計3億ドル以上を調達し(アシュトン・カッチャーも投資)、2013年にユニコーンとなった。当時、ニューヨークで最大の資金調達を受け、ユーザ数も売上も順調に伸び、「世界で最速で伸びる企業」と言われていた。しかし、2年で2億ドルを費やしながら、維持可能なビジネスモデルを見出せず、今年、1500万ドルで叩き売ることになった。
実は、イケイケムードの大人たちに釘を刺した若者がいる。SnapchatのCEOだ。2014年、ソニー・ピクチャーズがサイバー攻撃に遭って流出したメールに、Snapchatの取締役を務める同社のCEOとのやりとりもあった。
そこで、若干23歳のSnapchatのCEOが、米連銀(FRB)の施策によって異常な(資金)市場が生まれていること、IT株が高騰しすぎていること、そのうち株式市場は下落し、IT株への熱が冷めればFacebookの時価総額が暴落するであろうことなどを理由に、Snapchatは早急に売上を上げなければならないと説いている。
証券訴訟専門の弁護士である父親のアドバイスを受けたとしても、さっさと売上を上げなければ、Snapchatが消えるデカコーンとなるという危機感を抱いているのは、いつまでも資金を調達できると錯覚している大人たちより称賛に値する。
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