「Instagram」企業活用術

“恋人感”で女性を引きつける--ANAの「Instagram」活用の狙い

小林洋祐、山崎稚葉(メンバーズ)2015年05月18日 08時00分

 企業のInstagram活用方法をご紹介する本連載。これまで海外企業の事例やハッシュタグの使用例などをお伝えしてきましたが、連載の最後となる今回ご紹介するのは、国内の事例です。

  • ANA公式Instagramアカウント

 全日本空輸(ANA)は3月、公式Instagramアカウント(ana.japan)をスタートさせました。メンバーズが立ち上げと運用の支援を担当したため、開設の背景や活用方法をANAのソーシャルメディア担当者に聞くことができました。

 日本国内で開設されている企業の公式Instagramアカウントは、アパレルや化粧品ブランドのものが多いですが、ANAがInstagramの運用開始を決めたのには、どのような背景があったのでしょうか。

 同社マーケットコミュニケーション部でソーシャルメディアの企画運用を担当する野崎仁美氏は、「若年層の女性たちがFacebookから距離を置いているような印象があり、逆にInstagramは彼女たちに一番近いSNSになっているのではないかと感じていました。この新しいプラットフォームにおいてANAを身近に感じてもらえるコンセプトを検討しました」と説明しています。

コンセプトは“恋人感”

 旅先の過ごし方を重視する若い女性の心を動かし、「私にも関係があるブランドだ」という気付きを引き起こすにはどうすればいいのか。ANAがInstagramで表現すると決めた世界観は“恋人感”です。

 友人と旅するときの飛行機にはこだわらなくても、恋人との旅行では話が別。特別な時間を過ごしたいという憧れも見え隠れすることがわかりました。空港に到着するまで、搭乗手続きの前後、機内の移動時間、旅先、そして帰ってくるまで……。消費者が憧れるブランドとしてANAを意識してもらうことを狙いました。

3つの投稿コンテンツテーマを設定

 “恋人感”を表現するコンテンツテーマとして、「恋人同士の時間(ヒト)」「恋人感ある空港・機内・旅先(シーン)」「飛行機をかわいらしく(モノ)」の3つを設定。若い女性に「特別で素敵な旅」「憧れ」「かわいらしい」という印象を持たれるコンテンツを企画しました。

 これら複数テーマのコンテンツはどのように表現できるか、シリーズ化は可能かなど、その後の展開もイメージします。このように、統一感とバラエティ(ボリューム)を両立するコミュニケーション方針を明確化することで、継続的な運用プランを立てることができます。


若い女性が見ていて楽しい“写真集”を実現できるようなコンテンツテーマを設定

ハッシュタグは“恋人感”とすでに多くあるものの組み合わせで

 ANAはターゲット層とのコミュニケーションを加速させるため、キーハッシュタグ「#ana_jp」を設定したほか、各投稿コンテンツテーマに合わせたユーザー目線のハッシュタグ利用方針も決めました。

 たとえば、シーンをテーマにしたコンテンツには、Instagram上ですでに多く投稿されている「#旅行」「#空港」や「#○○○○○(旅先の国名や地名)」、かわいらしさを訴求する写真には「#ハート」「#かわいい」など、若い女性が好むタグをセレクト。恋人感を表現するタグと投稿数の多いタグを組み合わせることで、若い女性に投稿コンテンツを見つけてもらえるように設計しています。

コンテンツ制作の裏側--撮影から写真加工まで

 コミュニケーション方針を策定した後は、統一されたコンセプトを表現する投稿コンテンツを撮影、加工していきます。


投稿する写真を撮影

  • 写真加工例

 空港での撮影では、かわいらしさを演出する工夫として、「フォトプロップス」も利用。

 フォトプロップスは写真にアクセントを加えるツールで、竹ひごなどの棒にヒゲやメガネ、吹き出しなどの型紙を貼りつけることで簡単に作成可能。今回の撮影では、若い女性の間で人気のヒゲを機体に合わせてANAの資産をかわいらしく見せています。

 結婚式などのイベントで手づくりのフォトプロップスを利用する人が増加傾向にあるなど、国内でも既に注目されはじめています。“Instagramナイズ”されたコンテンツを手軽に作れたり、ユーザー参加型のキャンペーンなどでは写真投稿のモチベーションを上げる効果が期待できるでしょう。

1つのフィルタで統一感を

 投稿に統一感をもたせるため、数多くある加工フィルタのなかから1つを選定。“恋人感”を演出し、若い女性が好感を抱くコンテンツとするため、暖かみが出るオレンジ色が淡く入った「Rise」を選びました。

スタート時の「9枚」が鍵

  • 最初の9枚の印象が重要

 開設時には、あらかじめ9枚の写真配置を検討することが必要です。この9枚の印象が、開設時の獲得フォロワー数に直結する重要なコンテンツとなります。

 Instagramユーザーの行動には、気になるハッシュタグをたどって好みの写真を見つけると、アカウントの顔であるホーム画面の雰囲気を見てフォローするか否かを決める傾向があります。つまり、最初の9枚の投稿でブランドの世界観を演出し、ターゲット層の心をつかむことが重要なのです。

 ANAのホーム画面では、2人の手でハートを作っている1枚の写真を3枚に分割し配置。ファーストビューでの訴求をインパクトあるものとしています。なお、ホーム画面を埋める最低枚数は6枚ですが、スマートフォンでスクロールする動きを見越して9枚用意するのが望ましいです。

最初の集客はLINEとTwitterで

 今回ANAは、若い女性のユーザーが比較的多いLINEとTwitterで告知を行い、フォロワーを獲得しました。今後の集客施策として、あらゆるオウンドメディアでの告知とユーザー参加型のキャンペーンやオフラインイベントを予定しています。

  • LINEでの告知リッチメッセージ

  • Twitterでの告知ツイート

ハッシュタグでターゲット層に見つけてもらう

 Instagram投稿で注目を集めるには、ハッシュタグが大事であることは先の海外事例でもご説明しました。フォロワー数を増やす上でも、Instgaramのハッシュタグ文化を理解することが重要となります。

 先にも述べたとおり、Instagramのユーザー行動には、自分好みの写真やアカウントを探すためにハッシュタグを検索したり、自分が利用するタグにはどのような投稿があるかを見る傾向があります。ANAは今回、国内の若い女性に投稿を見つけてもらうため、英語ではなく日本語のタグをメインに設定しているほか、ヒゲのフォトプロップスを利用した写真に「#ヒゲ」を付けるなどして、若い女性との距離を縮めていく方針です。

最後に

 ANAは若い女性とコミュニケーションをとる場所の一つとしてInstagramというプラットフォームを選びました。「『ANAは自分に関係のあるブランドである』と身近に感じてもらえるようなコンテンツを展開していく」としています。

 新たに開設を検討する企業やブランドは、Instagram活用の目的や位置づけを明確にすることが重要です。

◇連載を振り返る
「Instagram」企業活用術

小林洋祐

メンバーズ

アカウントサービス第5ディビジョン所属
大手企業のソーシャルメディアマーケティング支援を担当

山崎稚葉

メンバーズ

アカウントサービス第8ディビジョン所属

監修:メンバーズ エンゲージメントラボ
エンゲージメントラボとは・・・
メンバーズが蓄積した知見・ノウハウとエンゲージメント向上に特化した事例を集約・研究し、顧客企業へのより一層の効果的なFacebookマーケティングサービスの提供や新たなサービス開発を推進します。
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