全社横断的なマーケティングに必要な3つの筋力--日本マイクロソフトCMO 藤本氏

井口裕右 別井貴志 (編集部)2014年12月26日 14時57分
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 日本マイクロソフトのCMOにあたるセントラルマーケティング本部 業務執行役員 本部長に藤本恭史氏が9月1日付けで就任した。マイクロソフトは主力商品であるWindowsやOfficeに加え、ハードウェアのSurface、One DriveやOffice 365といったクラウドサービス、家庭用ゲーム機Xbox、法人向けソリューションなど多岐にわたる製品やサービスを、多種多様なビジネスモデルで幅広く展開しているが、藤本氏はCMOの立場としてマイクロソフトの価値をどのように世の中に打ち出そうとしているのか。就任から3カ月余りが経ち、マーケティング活動の課題や今後の方向性について、話を聞いた。

--9月1日付で日本マイクロソフトのセントラルマーケティング本部本部長に就任されましたが、改めて現在のマイクロソフトのマーケティング組織の体系やセントラルマーケティング本部のミッションをお聞かせください。

  • 日本マイクロソフトのCMOにあたるセントラルマーケティング本部 業務執行役員 本部長の藤本恭史氏

藤本:大きく分けてマイクロソフトには3つのマーケティング機能があります。1つは、各製品ごとのプロダクトマーケティングで、私がかつて在職していた部門。WindowsやOfficeなど製品のマーケティングを行う、これまでのマイクロソフトの“顔”とも言える部門です。2つめは、大企業向け、中小企業向け、教育機関向けなどお客様のセグメント別のオーディエンスマーケティング。そしてもう1つは、私が所属するセントラルマーケティングで、これは会社を横断的に行うマーケティングをミッションにしています。

 セントラルマーケティングは、大きく3つの部門に分かれています。インテグレーテッドマーケティング(IMC)を担当する部門では、個人向け、法人向けに分かれて広告、GTM(Go to Market施策)、キャンペーンなどを企画・展開していきます。もう1つはソーシャルメディアやオウンドメディアを運営するデジタルマーケティングとフラッグシップイベント(Microsoft Conference)を展開する部門。そしてマーケティングアナリティクス部門は、マイクロソフトが保有する膨大なカスタマープロファイルとコンタクトデータを整理し、そこからインサイトを分析したり、各部門が行う施策のROIを分析したり、コンタクトデータを基にプロダクトセールスのためのプロセスを分析したりなどを展開しています。

 マイクロソフトには従来から“広告宣伝部”のような部門はあり、そこから生まれる膨大なデータを解析するアナリティクス部門ができたり、デジタルマーケティングへの移行に伴いソーシャルメディアやオウンドメディアを展開するグループができたりなど派生してきたのですが、こうした流れを汲んでセントラルマーケティング本部は特定の製品に依存することなくマイクロソフトの横断的なマーケティングコミュニケーションを展開していく部門だということです。

--9月に就任されて以来、どのように取り組んでいらっしゃいますか。

藤本:今年に入り米国マイクロソフトのCEOにSatya Nadella(サトヤ・ナデラ)氏が就任し、会社の戦略やステートメントが大きく変わり、その後にはかつては競合と言われた企業とのパートナーシップ締結をはじめ、マイクロソフトにめまぐるしく変化が生まれてきています。

 今の戦略や製品の形態は非常に複雑ですよね。それぞれの製品でリリースの方法、ユーザーのご利用方法、ロイヤリティやビジネスモデルがどんどん変わってきており、パートナーとの共同アナウンスメントもどんどん出てきています。そうした中で、「結局マイクロソフトはどこに向かっているのか?どういう戦略なのか?」ということをきちんとお客様に説明しなければ、お客様に混乱を与えてしまうのではないかと思うのです。

 そこで、私たちセントラルマーケティング本部が自分たちのビジョンや戦略を説明し、その上でそれぞれの製品やソリューションの位置づけなどをきちんと整理してお伝えしなければならないと思うのです。私が就任した9月からは、会社の戦略やクロスプロダクト、クロスプラットフォームによる製品・サービスの価値を訴求していこうという姿勢を積極的に打ち出しています。

 例えば、WindowsのチームはiOSについて語ることはできないけれど、一方でOfficeチームはiOSについても積極的に語っていきたい。そうするとチーム同士のコミュニケーションに限界が生まれてしまうのです。そういったところをカバーしていくことも重要ではないかと思います。

--マイクロソフトのビジョン、戦略で最も重視して訴求している部分はどのようなところでしょうか。

藤本:米国本社のCEOがSatya Nadellaになり、「モバイルファースト、クラウドファーストの時代に我々はプラットフォームとプロダクティビティに重きを置いて事業を展開していく」というメッセージを掲げていますが、英語でシンプルなキーワードで語られたり、日本マイクロソフト代表の樋口をはじめ、日本の経営陣が各所で同じメッセージを打ち出しても、例えば「プロダクティビティ」という言葉は製造業における「生産性」をイメージする人が多いですよね。しかし、マイクロソフトが本当に伝えたい「プロダクティビティ」は、そういう生産性だけではなく、個人も企業もIT・デジタルの力によって私たちの能力がサポートされ、仕事やライフスタイルがもっとよりよく便利になることを意味しています。

 例えば、何か同僚に相談したいときに、かつてはその同僚の席まで歩いて行って、いなければ電話をして、といったことが起きていたのが、今ではソーシャルを活用して席にいながら同僚と会話ができ、そこでのフィードバックから生まれたアイデアが新しいビジネスの原石になるかもしれない。そういった一連の流れもひとつのプロダクティビティだと思うのです。そのような広義のプロダクティビティをもっと世の中に伝えていく必要があると思います。そして、私たちが提供するプラットフォームやソリューションが24時間あらゆる時間を切り取っても、多くの方々のプロダクティビティを支えることができるのではないだろうか、ということをもっとわかりやすく伝えていく必要があり、それを多くの方々に実感していただけるようなマーケティングコミュニケーションを展開していかなければならないと考えています。

--企業規模も大きく、プロダクトマーケティング部門もあります。その中で横断的なマーケティングをやるということはとても難しいのではないかと思います。課題と今後のチャレンジについてはいかがでしょうか。

藤本:会社の戦略が変わったことで、チャレンジしなければならないことはたくさんあります。今、セントラルマーケティング本部では全社的な戦略を伝えるマーケティングを主導していく“縦軸”と、クロスプロダクトでマーケティングを展開して製品を組み合わせることでベネフィットを伝えていく“横軸”で考えています。一方で、どのマーケティング施策を展開する場合でも、3つの“横串”を置いています。

 1つは「デジタルマーケティング」。単なる広告を展開するのではなく、マーケティングによってお客様の気持ちがどのように変化して、そしてそれをデジタルマーケティングでどのようにフォローアップできるのか。行動履歴を分析をすることによって適切なターゲットに、最適なメッセージを伝えていく仕組みを生み出していきます。そういうデジタルマーケティングの“筋力”を鍛えることで、様々なマーケティング施策をサポートしていけるのではないかと考えています。

 2つめは、顧客情報を正しく管理していく「マーケティングエンジン」です。いま、企業における製品・ソリューションの導入決定者はとても複雑化しており、誰にリーチすればいいのかという導入決定者の判断を加えて適切なターゲティングができるエンジンにしなければなりません。また、クラウドプロダクツでは体験版を導入していただき、気に入っていただいたら本契約に移行して、サブスクリプションで毎月使い続けていただくためのフォローアップをする、といったマーケティング・オートメーションのフレームワークを整理することで、各プロダクト部門の製品をクロスセルができるような仕組みを生み出していくことも重要ではないかと考えています。お客様に対して多角的なアプローチをしていくためのエンジンを作っていくことが重要なのです。

 そして、デジタルマーケティングとマーケティングエンジンを洗練させていくことによって、データ分析能力が高まっていくことになると思いますので、自分たちが伝えたいお客様に適切なタイミングで、適切な内容を伝えていくことができるための「マーケティング・サイエンス」を最大化させることも重要だと考えています。この3つが日本マイクロソフトが全社的なマーケティングを展開していくための重要な“筋力”だと考え、推進していきたいと考えています。

--マーケティングエンジンやマーケティングサイエンスを推進していくということは、社内でも「Microsoft Dynamics CRM」を積極活用しているということですか?

藤本:Microsoft Dynamicsは社内でもどんどん導入を進めています。私たちがお客様に提供する製品やソリューションを社内でしっかり活用していこうというのが基本的な方針であり、社内のIT部門と私たちのチームが協力しあって社内導入を進めるということもしています。

--CNET Japanでは「全社員マーケター時代」というメッセージを打ち出していますが、マイクロソフトのマーケティング課題に照らしてどう感じますか。

  • 「社員1人ひとりが共通の理解をすることが重要」と藤本氏

藤本:ひとつ思うのは、お客様とコンタクトする営業担当者は非常に重要なマーケティングコミュニケーションだということです。マイクロソフトでも、セールスの会話だけではなく、これからの戦略やビジョン、向かおうとしている方向性についても伝えていくことができるように取り組んでいきたいと考えており、いまその準備を進めています。言葉の解釈が異なってしまうと、マイクロソフトがどういう世界でどのようなポジションを目指しているのかをお客様に理解していただけないので、社員一人ひとりが共通の理解をする必要があります。マイクロソフトは製品のポートフォリオが非常に幅広いので、XBoxの営業担当もAzureの営業担当も、同じビジョンや戦略をそれぞれの事業の“言語”で語れるようになることが重要なのです。

――最後に、藤本さんにとってマーケティングとは何でしょう。

藤本:お客様に製品や企業の正しい情報を伝え、それが私たちの製品・サービス・ソリューションに対する興味喚起の一環になればと考えています。私たちの製品やサービスがお客様のライフタイムバリューを高めなければならないので、マーケティングが導入からフォローアップまでお客様をケアして導いていくファンクションにならなければなりません。そして、お客様には製品・サービスを正しく理解していただき、正しく使っていただき、そして満足していただきたいと考えています。

 マイクロソフトでは、製品・サービスが多様化し、お客様のライフスタイル、ワークスタイルがどんどん変わっていくなかで、1つの製品・サービスのブランディングや付加価値だけを訴求するのではなく、もっと横断的にマイクロソフトが提供する価値を理解していただく必要が増えていくのではないかと考えています。マーケティングがインフルエンスできるエリアは非常に広く、例えばフリーミアムが拡大する中では、製品にもマーケティング要素をどんどん盛り込んでユーザーとのエンゲージメントを構築したり、ユーザーに使い続けたいと思ってもらい課金ユーザーになるよう導いたりしていかなくてはなりません。

 そういう意味では、組織の様々な役割の中でマーケティング要素が活かされる部分は大きくなっているのではないでしょうか。それを各部門がバラバラの理解で行うのではなく、CMOというポジションが企業としての方向性を統率していくことによって、世の中に会社の姿勢を理解してもらうことが重要なのではないでしょうか。そしてそれが企業の競争力を高めていくと思うのです。

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