奥成氏:以前から、ゲームセンターのゲームを家庭でも忠実に遊べることに全力をかけてました。ただ、スペースハリアーならこの10年でもPS2やWiiでも出しているという状況で、懐かしさや再現性だけに訴求していくのも限界があると思いました。またWiiのバーチャルコンソールが出た当初から考えると、今は古いゲームを容易に入手できるような時代になっていると思います。映画が映画館でしか見られなかったころから、レンタル屋で借りられるようになり、今はオンデマンドで見られるようになった状況に近いですね。
こういう時代を考えると、そのゲーム一本をただ懐かしむことにお客さんの関心が薄くなり、価値を見いだせなくなっていると感じています。その上で復刻をビジネスで続けていくには興味を引かないといけない。それに向けたアプローチを考えるなかで、PS3とXbox 360向けに展開した「セガエイジスオンライン」ではトライアルモードを収録して、その中には通常のプレイではありえないシチュエーションだったり、ゲームのルールを変えたモードを収録しました。それによって新鮮な感覚でプレイできるという価値を提供する狙いでした。違った遊び方ができるということで興味を持ってもらいたいと考えた施策だったのですけど、反応が乏しかったのは正直なところです。
堀井氏:あれは結構よくできてて、面白かったと思います。
奥成氏:反応が乏しかった理由のひとつには、そのウリとしていた部分がうまく伝わらず、それこそゲームを買っている人でもそのモードに気付かないぐらいに、ほかでやっている移植と同じように思われたからだと考えています。ただ、こういう方向性はこの先もやっていかなければならないだろうと思っていたなかで、3DSでバーチャルコンソールではないアプローチを考えると、3Dだと。タイトルにも「3D スペースハリアー」というように、頭に3Dと付けられて「とにかく3Dなんです」と、ストレートに価値を印象づけられます。お客さんから見ても、3Dだとどういう風に見えるかがはっきりと想像できず、ワクワク感というものを生み出せるのではないかと考えたんです。
もちろん3DSでは必ずしも立体視で遊ばないプレイヤーの方もいます。最初だけ立体視を体験して驚いてもらっても、やりこむほどに立体視を切ってしまう方も少なくないです。なので単なる3D化だけではなく、なにかしらの追加要素を入れて3D化だけにはとどまらない何かがあると、期待してもらえるようなシリーズにしようという2本軸で展開しようとしました。
堀井氏:いろんなことを話し合いましたが、この方針には特に何の異論もなかったです。制作についても、放っておいても勝手に作業を進めていろんな仕様や付加価値を付けてしまうスタッフが作ってます。例えば、スタッフクレジットも3DSならではの遊びを満載にした立体劇場のような演出にしています。最初に背中を押したりはしましたが、スタッフが自発的に対応してくれました。買ったお客さんが「次は何をやってくるんだろう」と思ってもらえるようなことは常に意識しています。
奥成氏:すこしずれた話かもしれませんが、復刻ゲーム制作には昔のゲームを作ったり解析することの蓄積が必要だと思っています。マスターシステムやメガドライブのゲーム開発なり、アーケードゲームではシステム基板などを学んでいって、ゲームハード自体を自分のものにしていくということを、エムツーさんが10年学習しているわけです。また、ベースが2Dで作られていたゲームを3DSの立体視に対応するということは、もうひとつ別のゲームソフトが入っているようなものです。その作業が大変なのはわかっていましたから、その上で決められた期間や予算などを検討した結果が、今のラインナップですね。
最初に作った8本は過去のハードで移植実績があってゲームは解析済み。ある程度スケジュールが読めるものを選びました。その8本の経験や成功をもとに、まだ移植実績がないタイトルやより大きな追加要素に挑戦したのが、後半に出した5本ですね。
堀井氏:うそ絵というと語弊があるかもしれませんが、本来現実ではこうならないはずという絵が、2Dだと表現できているというのはよくありました。例えばベルトタイプの格闘アクションのベアナックルの背景は、かなりとんちを効かせた立体視になっています。元の絵はゆがみがあっても立体視で表現できていて、見ている方にも見応えがあると思います。ただ、当初グラフィッカーとプログラマーからは「無理です」と大反対を受けましたね。
奥成氏:ゲームの絵というのは、必ずしも一枚絵とは限りません。それでいて昔のゲームですとブロックに描かれた絵をタイル上に貼って表現をしているものもありました。当時のグラフィッカーが3Dっぽく立体的に感じてくれるといいなと思って描いたグラフィックを、エムツーさんがこういう意図を持って立体感を出したであろうという解釈によって立体をつけています。
堀井氏:グラフィッカーが頭の中に描いた空間を再現するタイプと、空間がゆがんでいると思っていても、2Dの表現としてはありでゲームとしても破綻しないのでそのまま採用した場合があります。前者の場合はその人になりきって作業を進めていけばいいのですけど、後者の場合は無理ですという意見が出てきますね。
奥成氏:やはりスペースハリアーですね。セガから立体視対応のゲームが出たことに対する反響と、3DS本体の発売からは当時2年ほど経過していたので、ようやく出たという反響の両方がありました。もともと任天堂さんが3DSをリリースするときに、立体視をアピールしていたのにあわせて、「3Dクラシックス」という昔のファミコンゲームが立体視で遊べるとうたったものがありました。そのなかにはバンダイナムコゲームスさんの「ゼビウス」といったものもあって、「あのゲームが3Dになったらどうだろう」という期待を持ったと思います。
スペースハリアーは2Dですけど疑似3Dゲームですから、立体視で出して欲しいという意見が、3DSが発表されたのと同時にたくさん舞い込んできました。何より、僕が見たいと思ってましたから(笑)。
堀井氏:僕もそうでした。スペースハリアーをやらない理由はないと。
奥成氏:「これが30年前に遊んだスペースハリアーと同じですか?」と聞かれたら「同じです。でも違います」という矛盾した両方の答えを持ってますね。
堀井氏:本当に同じなんです。でも同じまま再現しただけでは懐かしさはあっても、当時初めてスペースハリアーを見て感じたインパクトまで同じにはならないのです。そのインパクトも味わうための立体視といっていいです。立体視でプレイしていただくと「当時はこんな感じだった」と思っていただけます。そう感じていただくために労力を注ぎ込むことについては、なんのためらいもありません。
奥成氏:ただ、一番最初に触ってほしいのはスペースハリアーになるのですけど、一番オススメとなるのは後の方に出たタイトルとも言えます。それは一本一本の蓄積をもとに開発しているからです。
堀井氏:立体視のゲームは数十年前にプチブームが起きたものの、みなさんがさわったり体験しているわけではないので、まだまだ何ができるのかがわからない部分もたくさんあります。なので毎回のようにノウハウが蓄積していきます。タイトルを出すたびに進化していく感じでした。
奥成氏:いくつもあるのですけど、例えばサウンドエフェクトでイコライザーを入れたこともそうですね。エムツーさんのアイデアなんですけど、普通にゲームを遊んで聞く音はサントラで聴くようなクリアな音質で音楽が再生されます。でもゲームセンターで聞くゲームの音は低音ばかり響いて音楽が聴きにくく、効果音ばかりが強調されて耳に入ってくるんですよね。その環境に近づけるような設定を入れました。ある意味では音を劣化させて作曲者の意図とは違う音になるのですが、ゲームセンターのようなこもった感じの音で鳴らすことができるようにしてあります。
堀井氏:一般の有志の方には、綺麗な音をあえて劣化させてメガドライブのような音をだせるアンプを作った方もいるぐらい、ゲームの音に関してもこだわりや思い入れのある方も多いです。そういうことはソフトウェアでもやれますし、そうすることで当時らしさを感じてもらえたらと思って入れました。
奥成氏:ほかにもムービング筐体モードというのがあります。画面の中に小さい画面があって、周りの額縁に当時のコックピットの筐体の絵を入れて、左右に動かすと画面の中の筐体も当時のイメージで左右に揺れるというものです。エムツーさんのアイデアなんですけど、最初に聞いたときは「何を考えているんだろう」と思いました(笑)。ゲームを遊びにくくする要素ですし、そもそも椅子はテレビと一緒に動くので、画面が傾くのはおかしいと思ったんです。でもやってみると面白い。当時の雰囲気がちょっと味わえるんですね。
30年ぐらい前に都心のゲームセンターならどこにもあった筐体が、今では日本で現存するのは数台程度しかありません。あの筐体が本物ですしそれが最高なのはみんな知ってますけど、現実的に遊べないじゃないですか。このモードは、当時の感覚を味わってもらうアプローチとしてはいいと感じたんです。なので、スペースハリアーやアウトランなどコックピットに乗り込むような体感ゲームをうたっていたシリーズについては、ムービング筐体モードを入れています。
ただ、これもすごく手間なんです。ソフトウェアのデータはあっても、筐体のデータは実際に見ないとわからないですから。数もないので見に行くというのも手間ですし。あとは音のこだわりで、モーターがきしむ音を録音してゲームに連動して鳴るようにするとか、カチカチとするボタン音も同じですね。とにかく当時の思い出を再現して疑似体験できるようにするというのも、第3の軸としてあります。これはテレビだったり携帯ゲーム機の小さな画面で遊ぶことの絶対的な差を少しでも埋めたいからですね。
堀井氏:たぶん「好きだから」の一言に集約されると思うのですけど、復刻ゲームのコンセプトとして当時の記憶をもう一度呼び起こす、ノスタルジックなところをくすぐるというのがあります。それをつつけばつつくほど過去にさかのぼれるんです。このシリーズを作っているときに、自分が中学生時代にどんな暮らしをしていたかとか、通学路の様子を思い出したりしました。ゲームとは全く関係のないことですけど、それが面白いんです。きっと遊んでいる方も同じような経験があるんじゃないかと思っているので、ここは手を抜かない方が、驚きや愛着を持ってもらえるという信念みたいなものを持っています。なので思いついたことは時間の許す限り全部やろうとしています。
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