連載第1回の「ネギとデジタルマーケティング経営」では、ボトムアップでデジタルマーケティングをスムースに実践する方法としてトヨタ生産方式(TPS)を紹介したが、今回はトップダウンでデジタルマーケティングを行う方法を、Appleのスティーブ・ジョブズのメンターでもあったソニー創業者の盛田昭夫氏の海外講演から学ぶ。
日本人が海外で英語を使い自分の意見を語るとき、日本語の微妙なニュアンス、あるいは日本にいるその発言を気にする人の存在を忘れることが多い。そういう意味では海外で英語で語った方が、ストレートに考えが伝わる場合がある。
2013年に「CD&DVD付 ソニー創業者 盛田昭夫が英語で世界に伝えたこと」という本が出版された。付属のCD&DVDには、Appleのスティーブ・ジョブズも(英語で)参考にした盛田昭夫氏の経営に対する考え方が凝縮されている(ジョブズの商品開発を学ぶなら、そのルーツになった盛田昭夫氏の商品開発を独自の視点で捉えた方が、ジョブズに近づくことができるのではないだろうか)。
盛田昭夫氏の講演を要約すると、
「テクノロジー、プロダクトプランニング、マーケティングの3つの分野で個性の違う人びとが働く場合、マーケティングの人びとはテクノロジーを知らないように、お互いが分かりあえないケースが多い。トップマネジメントはターゲットを設定し、3者の意志の疎通を図り、一致団結していけるようにしなければならない。この3つの分野の人たちはお互いのコミュニケーションが苦手なため、トップマネジメントがコミュニケーションを取れるようにすべきである。」
と、この3者(テクノロジー、プロダクトプランニング、マーケティング)の意思疎通ができるようにするのはトップマネジメントの役割だと語っている。そして、テクノロジーのイノベーションにはクリアーターゲットが必要だと語る。
そのターゲットは、たまに妙なもの(Funny target)もある。例えば、家庭用ビデオの開発の際に、同僚で創業者の井深大さんが、米国の空港でペーパーバックブックを購入し、「このサイズのビデオカセットにしよう」と、クリアなターゲットを設定した。ターゲットがあるからこそエンジニアのグループが一丸となってイノベーションが生まれるからだ、と語っている。
デジタルマーケティングにおいてもクリアなターゲットがあれば、マーケティング部門、IT部門、事業部門の3者が一丸となって進むことができる。
盛田昭夫氏のペアの井深大氏が示したクリアターゲットは、トップダウンで示されたものだが、逆にボトムアップでクリアターゲット(Funny target)を示し、それをトップマネジメントが合意する方法もある。
今回のゴール自分のまな板にトップマネジメントを呼び込むために、デジタルマーケティングのことを知ってもらうというアプローチより、テクノロジーの多くの手段を知るデジタルマーケティングを行う側が、経営のニーズに近づくのが自然だ。デジタルマーケティングと経営を一体として捉えるということは、デジタルマーケティングが経営に役に立つことで評価されるよう、自らが実践することを意味する。
「現代の経営」でドラッカーが明日のマネジャーに、
「最後に、明日のマネジャーは、多様な手法を習得しなければならなくなる。しかも、その多くは彼ら自身が開発する必要がある。彼らは、事業の重要な領域について、自らの仕事ぶりと成果を評価測定するための尺度を必要とする。また、長期の未来について、意味のある意志決定を行うための経済的手法を必要とする。そして意思決定のプロセスにかかわる新しい方法論を身につける必要がある」
と、書き残している。
自分を変えることはできるが、人を変えることは難しいのである。
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