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広告と戦略PRの「嘘と誠」

本田哲也(ブルーカレント・ジャパン代表取締役)2013年11月30日 11時19分
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 ここ最近、ある変化を感じている。企業が消費者向けに作成するコンテンツやコミュニケーション表現における「嘘と誠のバランス」だ。

 多くのコンテンツは、その成り立ちから「フィクション(架空や創作の作品)」と「ノンフィクション(史実や記録に基づいた作品)」という2つに大別できる。子供のころ、お気に入りのテレビドラマの最後には必ず「この作品はフィクションであり、実在の人物・団体とは・・・」というテロップが現われた。

 最初は意味がわからず、やがて「ああ、そういうことだよな」と妙に世を知った気分になった。

 「フィクション」という言葉を知ったのも、その頃だったのではないか。そして今、このフィクションとノンフィクションのバランスに変化が見えるのだ

 例えば、最近よく目にする某社の電子書籍端末のCM。美術館前で、一般の人々が同機の使用感について感想を述べていくものだが、放映開始するや「イラッとする。違和感を持つ」という声がソーシャル上で拡散し始めた。

 なぜ、ウザがられるのか。僕はここに「フィクションとノンフィクションのひずみ」が起こっているような気がする。

 このような表現自体は「テスティモニアル(推奨広告)」といって昔からあるものだ。

 スキンクリームなどで一般の女性が画面に登場し「使い出したら違いにびっくりして・・(個人の感想です)」という例のあれだ。

 形式自体はむしろ王道であり、おそらく広告主としては「リアルな人たちの声」が商品をいま最も訴求できるコンテンツだと考えたのだろう。

 そこまではいいが、問題は画面の端に出る「隠しカメラで撮影しています」ではないか。

 「いまどきの消費者はかしこい」とはもはや言い飽きた感があるが、この場合は、「周知のフィクションを過剰にノンフィクションとして演出してしまった」ことのバランスの悪さではないか。

 いっぽう、フィクションとノンフィクションのバランスを既知の領域から変化させることで、新たなタイプのコンテンツも生み出されるようになってきた。

 たとえば最近、ボルボトラックの一連の広告コンテンツが評判だ。主にボルボトラックのステアリング性能が訴求されるのだが、「ハムスターと砕石場篇」「瞑想するヴァンダム篇」など、とにかくスリリングで拡散性も高い(ムービーを観てもらうのが一番早い)。

 ここに感じる可能性は、「ノンフィクションぽく見えるフィクション」から「フィクションぽく見えるノンフィクション」への発想転換だ(少なくとも視聴者にはそう見える)。

 アジア最大の広告祭「スパイクスアジア」で2013年のPR部門グランプリを受賞した「DrivingDogs」のキャンペーンも発想は同じだ。

 「シェルタードッグ(収容保護犬)は知能が低いわけではない」ということを訴えたかったニュージーランドのNPOは、動物トレーニングの専門家を雇って、なんと8週間でワンちゃんにクルマを運転させるという挑戦を行う。

 あくまでも「実際に事をおこす」ことを中心に、それを上手に演出するというノンフィクションベースのクリエイティビティなのだ。

 広告と戦略PRは融合していくと言われる。それは例えばペイドメディアとアーンドメディアの組み合わせなどのメディアありきの話ではなく、コンテンツのあり方で考えるのが本質だろう。

 広告とはフィクションであり、PRとはノンフィクションである――それもいずれ古い考えになっていくだろう。

 ノンフィクションやトゥルーストーリー(実話)が持つ迫力や説得力。フィクションの持つ自由自在なストーリーテリングや共感力。

 大事なことは人を動かすために必要なパワーの見極めと、その表現をどうするか、その「さじ加減」が問われていくのではないか。

◇ライタープロフィール
本田 哲也(ほんだ てつや)
1970年生まれ。ブルーカレント・ジャパン株式会社代表取締役。戦略PRプランナー。米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。セガの海外事業部を経て、1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、スピンオフのかたちでブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。P&G、花王、ユニリーバ、アディダス、サントリー、トヨタ、資生堂など国内外の大手顧客に、戦略PRの実績多数。戦略PR/マーケティング関連の著作、講演実績多数。著書に「その1人が30万人を動かす!」(東洋経済新報社)、「新版 戦略PR」(アスキーメディアワークス)など。最新刊「ソーシャルインフルエンス」(アスキーメディアワークス)を2012年6月に上梓。ブルーカレント・ジャパンは「2012年PRアワード ソーシャルコミュニケーション部門」最優秀賞を受賞。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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