普通に見積もりをするとそうなります。特にデザインとラッピング作業の人件費がかかるみたいです。なのでデザインは私と協力してくださる皆様で担当しました。印刷も十数件まわってみんな断られたんですけど、1件だけ趣旨に賛同してくれて引き受けてくれた職人さんに頼んで、ラッピング作業はその方と2人でやりました。なので費用は十数万ぐらいにまで押さえられました。
もう1年経験して十数台を手がけているので、クオリティにも自信があります。また最初こそ弊社で費用を負担しましたが、それ以降のものに関してはクライアントから材料費という形での実費をいただいています。でも、それ以外の広告費用や版権料のやりとりは行わない形にしています。
それもあります。もっとも外から見たら広告かそうじゃないかが区別が付きにくくて、話題になった直後は札幌市からも問い合わせがありました。ただ、今では検討委員会というものに一連のアートカーを申請して、それぞれに承諾を得て運行しています。でもそれが狙いではありません。単純に広告費をもらっても、乗務員に還元する方法がないんです。
そうですね。たとえばお小遣いみたいな形で渡しても不公平感が出るでしょうし、実際に痛タクシーに抵抗感を示す乗務員もいます。であるなら、それでも手を挙げて運行してくれる乗務員に報酬がまわる形にしようと。実際に売り上げも稼働率も高いですから。これもフルラッピングにしてインパクトを出して話題になったからであって、中途半端に広告費をもらってステッカー程度の大きさだけだったら話題にもならなかったと思います。
稼働率が上がったという結果だから言えることでもありますが、こうすることによってクライアントとしては安価な実費で話題作りができた。こちらは安価で車体にラッピングをして、印刷をしてくれる職人さんにはお金がまわった。コンテンツに興味のあるお客様にはタクシーを呼んで乗って楽しんでもらう。そして乗務員は報酬が上がる。結局誰も損をしない形になったと考えています。
本音を言えば、最初は炎上するぐらい非難を浴びるのではないかと思ってました。話題になるためには、逆に炎上するぐらいじゃないとダメかなという気持ちもあったのですけど、思いの外、好意的な反響でしたね。そもそも北海道以外の方が、札幌のタクシー会社の名前を知る機会ってそうそういないと思いますし、ここまで話題になってもタクシー会社としての宣伝をしているわけでもないですし。
「このタクシーに乗りたいから指名する」というのはあまりないと思うんです。ましてや、タクシーの車体を写真に撮ろうとする人もまずいないでしょう。それは熱心な方も興味本意の方もいるでしょうし、なかには子供に見せたいという親子連れの方もいらっしゃいます。特に外国の方は目にすると、それだけで喜んで乗ろうと思う方が多いようです。日本の文化としてアニメを好む人も多いですし、むしろ安心するみたいですね。言葉のいらないコミュニケーションツールにもなっています。
話をしても最初は社内でも社外でもなかなか理解してもらえなかったんです。ただ社長には理解していただいていました。長栄交通はタクシー規制緩和以降にできた新しい会社かつ80台程度の小規模でやっているので、業界の旧態依然とした考え方ではやっていけないですし、逆にしがらみもない。痛タクシーもやるなら徹底してやれと言われました。ネットでの反響もそうですが、無線配車などで稼働率が上がると見る目も変わってきました。今では率先して乗りたいという乗務員もいます。また、単に会社が知れ渡ることや稼働率の向上だけではないメリットもありました。
まず車内トラブルやクレームの低減ですね。そのコンテンツが好きだからこそとても大切に乗車してくださってますし、踏み倒しをしようとする方もいないです。接触事故についても、やはり周りが気をつかって少し間隔を空けてくれるのか、標識無視で当てられてしまった自社の責任ではない出来事が一例だけありますが、極めて少ないです。でも、なにより大きいのは“見られていることの意識”だと考えています。
決して乗務員を見ているわけではないと思うんです。もっとも、ほぼ専属で乗ってる60歳近くの乗務員がいるんですが、家がグッズであふれかえっているぐらいのまどマギファンなんです。彼が乗車していただいた方のブログで話題にされたこともありましたけど(笑)。車を見られているということは、当然交通ルールやマナーを守らなくてはいけないという意識が強くなりますし、特に痛タクシーに乗るお客様はTwitterなどで情報発信する方が多いので、車内の会話や対応もしっかりとしなくてはいけない。いいことも悪いこともすぐに書かれますし、こちらもすぐわかってしまうんですね。悪いことはできないですし、より一層気をつけるようになります。
恥ずかしいというのは正直な気持ちとしていいと思うんです。ただ、アニメやゲームの好きな方を否定したり、奇異の目で見ることはやめようと話をしています。気をつけなくてはいけないことが一層多くなりますが、その分の見返りは稼働率の高さ、つまり報酬となって帰ってくるという形になってます。そうなると、そのコンテンツを知ろうとする乗務員も出てきますし、レクチャーをすることもあります。
車が身近なものであるのでなかなか気づきにくいですが、お客様の命を預かって、目的地まで送り届けお金をいただくことはタクシーでも飛行機でも変わりがありません。そのうえで気分良く乗車していただくのがタクシーですから、業務に対する意識向上にも役立っているのかなと思うことはあります。
やはりエヴァンゲリオンとまどマギは特に大きいです。エヴァンゲリオンのときはキャラクター別に5台制作しましたけど、キャラクターの車で指名が来るんですよね。5台並べての撮影会もしたんですけど、多くの方が集まってくださいました。
まどマギも実施したかったコンテンツで、主題歌を担当したClariSさんのアートタクシーを事前に実施することで、よりファンの方の注目を集められたと思います。予約も受け付けていますが、東北や関東はもとより、九州からタクシーに乗りに来たという方もいらっしゃいましたし、劇場版公開の10月26日を中心に予約がかなり入りました。比較的女性の方も多いですし、2~3時間チャーターしたいという方も結構いらっしゃいます。タクシーですから深夜でも対応可能ですし、ナイト観光に出かける方もいます。複製原画展が開催されているときは、会場となるノベルサと映画館のあるサッポロファクトリーや札幌駅を巡回するかのように運行しそうですね。
わざわざ新千歳空港から札幌への移動に利用するという方もいます。だいたい1万数千円ぐらいするのですが、複数人で乗車いただけばその分1人当たりの支払いは抑えられます。こういうタクシーの乗り方を覚えてもらうというだけでも大きいのかなと。また、ただ単に移動するだけではなく、チャーターにして羊ヶ丘などの観光地に寄りつつ、映画館に向かうということを考えられている方もいらっしゃいます。これも観光コンテンツのひとつの形かもしれません。タクシーはあくまで箱でしかありませんが、それをきっかけに各地をまわってもらうという、観光コンテンツとの融合もできているかと思います。
いろんなアニメ、ゲーム系の会社さんが注目していただいているようで、お話をいただく機会が信じられないぐらいに増えました。初期の頃からもこちらからいろんなお話をさせていただいたんですが、そのなかで感じていたのは、決して北海道の市場を軽視しているわけではないけれど、さらに何かをするということに対しては消極的なんですよね。イベントをやるにも東名阪が優先されますし、物販などで回収できないといった現実的な反応もありました。
逆に北海道側もあまり外側を見ないようにする気質もあるし、現実的にお堅く考えたり体力がない企業も多い。でも徐々に面白いことをしようとしつつある有志や団体も増えてきています。この痛タクシーは北海道から、そしてなかなか意識しないタクシーからネットを通じて情報発信ができるメディアとしての可能性を提示できたんじゃないかなと、反響を見ていて思います。
いろんな会社さんから打診もありましたし、広告代理店からのアプローチもありました。ただ、あくまで面白いことをやっていこうというスタンスでいきたいんです。
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