この連載では、アーティストマネージャーを担当していた自分自身の経験を踏まえ、アーティストを例にして音楽や映像といったコンテンツのマーケティングがどのように変化していくのかをテーマにしていく。初回は、アーティスト自身やマネージャーなどスタッフにとってのソーシャルメディア活用を考えてみたい。
私自身は以前、担当アーティストと海外へライブに行く機会が度々あった。しかし海外でライブでは、ファンとの接点はその場限りの「点」になりがちだという問題を抱えており、それを「線」にしていくためのコミュニケーションツールとして、ソーシャルメディアを活用し始めた。今やアーティストがソーシャルメディアアカウントを持つことは当たり前になっているが、本来の目的はアカウントを持つこと自体ではなく、リアルな場と両軸をなすコミュニケーションメディアとして、これまでできなかったようなファンとのコミュニケーションを図ることである。
また、ソーシャルメディアはコントロールするものではない。音楽業界においてプロモーションに関わってきた方には、メディアをコントロールしようとする意識が少なからずある。これまでのプロモーションにおいては、アーティストのコンテンツをメディアで露出していくことが何より重要だった。そのため、テレビや雑誌、ラジオといったメディアに対する営業力を強め、メディアの枠を確保することが大切であったし、そこで露出されるイメージを自分たちにとって望ましいものにすることも必要なことだった。そのため、メディアでの露出量、見え方、イメージなどをコントロールする、または融通を利かせてもらうという思考が、アーティストサイドの人間には働いてしまいがちだ。
ソーシャルメディアはオープンな場であり、誰もがフラットな関係にあるメディアである。枠を確保するとか、融通を利かせる、イメージをコントロールするという姿勢はそぐわない。
ソーシャルメディアの活用時に具体的に考えるべきポイントは3つある。
メディアの特性は次の2つだ。
そのメディアを通じて、リーチ可能なユーザー像を把握することに関しては旧来のプロモーションと変わらない。そのアーティストがコミュニケーションの対象とするユーザー像と、メディアのユーザー属性が一致しているかを見る。
加えて、多様性を増すソーシャルメディアの各プラットフォームではどのようなコンテンツをアップできるのか、またはどのようなコミュニケーションが可能なのかという点を把握することも大切だ。そのメディアの持つ機能が、文字ベースのコンテンツ表現がメインなのか、音源がメインなのか、もしくはコミュニケーションがメインとなるのか。そういったポイントを把握した上で2のメディアごとの役割分担をしていくことになる。
この部分は当然、アーティストごとに違ってくる。そのアーティストが強みとするポイント、コミュニケーションしたいコンテンツ、コミュニケーション対象によって、注力するメディアは異なる。私が当時担当していたアーティストの場合、コミュニケーション対象が「海外在住」で「ゴシック」という属性だったため、Facebook上で画像を多用したコミュニケーションを始めた。このように、誰とどうつながりたいかによってメディアとコンテンツを選択する必要がある。
メディアの役割分担を行う際には、各メディアを自分なりにマッピングしてみるのがいいだろう。例として、「コンテンツのリッチ度」を縦軸に、「ユーザーの行動」を横軸にマッピングを行ってみる。
縦軸は、文字よりも画像、画像よりも映像といったようにコンテンツのリッチさが下にいくほど増して行く。横軸は閲覧がメインとなるものから、視聴などの体験、そしてコメントなどの参加、さらには継続性ある関係の構築から購買へとユーザーの行動が進んでいくイメージだ。そうして作成したものが下図である。
この図をベースに、ユーザーとより深い関係を築くために体験から参加可能なプラットフォームへ、さらに継続、購買へと導く道筋を考えてみたい。 閲覧ベースのメディアは、その道筋で随時活用していくことになるだろう。
まず考えるべきことは、TwitterやYouTubeといった体験メディアで興味喚起し、参加メディアへ誘導するという流れだ。特にTwitterは「Vine」を通じて6秒の動画が添付できるようになり、これまでのマイクロブログというポジションにとどまらず、よりリッチなコンテンツを発信できるようになっている。ここでは体験してもらうユーザーの間口を広げる必要があるため、投下すべきコンテンツとしては「より多くの人の興味を喚起する」ものである必要がある。
YouTubeの例では、PSYのミュージックビデオや、毎回個性的な映像が売りのOK Goのミュージックビデオ、総再生回数2億回超えを達成したKarminによる有名曲のカバーなどがある。TwitterではVine機能を活用してPaul McCartneyが曲名当てクイズを実施するなどの例が出てきている。いずれにしても、話題性の提供、興味喚起が目的となるため、まだ認知の低いアーティストであれば必ずしもオリジナル曲である必要もなく、それ以上にフックとなるポイントの創出や、簡潔でキャッチーなコンテンツメイクを心掛けるべきだろう。
そこから、USTREAM中継やニコニコ動画の番組など、参加が可能なメディアへ誘引を行う。リアルなライブの場への誘導は非常にハードルが高いが、ライブの中継であれば当然そのハードルは下がる。体験を通じてさらに継続的な関係性を築くためには、Facebookなどのプラットフォームでのコミュニケーションが必要となる。Google+はまだユーザー規模が十分ではないにしろ、AKB48が活用した映像チャット機能“Hangout”は、これまでなかったコミュニケーションツールとして、アーティストとファンのコミュニケーションへ活用できる可能性はある。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果