日本進出が間近と報じられているAmazonの電子書籍サービス「Kindle」。報道が現実になれば、2010年12月のSonyの「Reader」、2012年7月の楽天「kobo」とあわせて、電子書籍のグローバルなプレイヤーが、ようやく日本に出そろうことになる(8月英国に進出したBarnes & Nobleを除く)。米国民が当たり前に享受している電子読書環境が、やっと日本でも手に入るわけで、「電子書籍元年」と言われた2010年から、いやそれ以前から、この日を待ち望んでいた人は少なくないだろう。筆者もその一人である。
その一方、様々な報道やAmazon自身の動きから、いくつかの不安要素が感じられることも事実。Kindleが日本で発売される「Xデイ」を前に、心配される要素をまとめてみた。
本論に入る前に、「Kindleとは何か」を簡単にまとめておこう。
英語の「e-book」が「本」としての電子書籍だけでなく、「電子書籍端末」や「電子書籍ビジネス」全体を指す言葉としても使われることがあるのと同じように、「Kindle」にも、大きく分けると、「端末」「ビューワ(閲覧環境)」「サービス(エコシステム)」の3つの意味がある。
まずは、「端末」としての「Kindle」。2007年11月、Amazonは初代「Kindle」を発売した。ディスプレイに電子ペーパーを使った専用端末であり、現在でも後継機(最新モデルは通称第五世代=写真1=)が販売されている。Kindleといえば、狭義にはこの「無印」の専用端末を指す。
端末としてのKindleにはその後、画面サイズの大きな「DX」、液晶画面の「Kindle Fire」など、仲間が増えた。9月6日、Amazonはカリフォルニア州サンタモニカで開いたメディアイベントで新しい「Kindle」ファミリを発表した。下記は最新モデルの一覧である(表1)。
ビューワとしてのKindle。Amazonは専用端末の他に、PC、Mac、スマートフォンおよびタブレット(iOS/Android)、ブラウザなど、考えられるあらゆる環境(端末)用にビューワを用意しており、使い勝手や機能もほぼ統一されている。これらも「Kindle」と呼ばれる。
「サービス」としてのKindleは、上記の二要素(「端末」と「ビューワ」)にAmazonの高度なクラウド基盤を組み合わせて、電子書籍ならではの「読書体験」をユーザーに提供する仕組みを指す。Kindleのユーザーは、しおりやメモ、アンダーラインや「最後に読んだ場所(last page read)」をデバイス間で同期する「Whispersync」により、朝はスマホ、昼はPC、夜は専用端末で--とデバイスをまたいだシームレスな読書体験を、特別な操作なしに楽しむことができる。
3つの要素をまとめてみたのが図1だ。Kindle事業において、こうした「体験」こそが最も重視されていることは、専用端末内に収録されているジェフ・ベゾスCEOの手紙(ウェルカムレター)で知ることができる。この手紙は、Kindleが目指すサービスのあり方を端的に述べたもので、「Dear, Tomohiko(ユーザーの名前)」という呼びかけで始まる。
「キンドルは革命的な読書端末です……(中略)キンドルをデザインするにあたって最も重視したのは、キンドルがあなたの手の中で消え去り(disappear)、あなたの邪魔をしないこと、その結果あなたに読書を楽しんでもらうことです。私たちはあなたに、先進的な無線端末で読書をしていることを速やかに忘れ、本読みが愛する、あの精神の王国(mental realm)に飛び込んでいってほしいと願っています。そこでは外界は消え去り、著者の語る物語、言葉、思いだけが残るのです。ありがとう、そしてどうか楽しい読書を!……ジェフ・ベゾス Amazon.com 創設者&CEO」
「電子書籍」の話題になると、どうしても個々の端末、個々の機能に注目が集まりがちだが、ベゾスの関心はそこにないことは明らかだ(9/6のイベントでも「人々はもうガジェットを求めていない。求めているのはよいサービスだ」と述べている)。
「端末」「機能」ではなく「体験」の革新を目指したサービス、それがKindleという電子書籍サービスの特徴だ。となると、日本に住む我々として気になるのは、日本でのサービスがどれだけよい「体験」をもたらしてくれるのか、という点。実はこれまで得られた情報から判断すると、いくつかの不安材料が浮上する。以下、そのうち3つについて見てみよう。
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