内部ストレージの次に心配なのが表示品質だ。縦書き、ルビ、禁則など、日本語の文章のレイアウト(組版)は、欧米から見れば特異な部類に属する。
日本国内でこれまでリリースされてきた電子書籍のビューワも、品質は様々。特に文字ものに関しては、最大手のシャープやボイジャーのビューワも、10年以上の長期間にわたって改善を重ねてきて、やっと今日のレベルに到達した、というのが実情だ。それでも、紙の書籍で実現されている組版がそのままデバイス上で再現できている、という水準にまでは至っていない。それほど日本の書籍の組版は複雑なことをやっている、ということでもある。
Kindleは文字ものコンテンツに対してはAZWという専用のフォーマットを採用している(他にMOBI、TOPAZなどがある)。ビューワの開発をすべて自社で手がけているのか、それとも一部でも外部に発注しているのかは明らかではないが、もし全部自社開発だとすると、日本の出版事情をすべて勘案して、ある水準以上の組版品質を達成するのは、かなり難易度の高いタスクだと考えられる。逆に言えば、ビューワの出来は、Amazonがどれだけ日本市場を真剣にとらえているかを判断する試金石でもあるだろう。
Amazonは7月、Kindle上での組版・表示をパソコン上でシミュレーションできるアプリ「Kindle Previewer」を日本語に対応させた(写真2)。Kindle Previewerは、EPUBのほか、MOBI、HTMLなどからファイルを変換することもできる。ファイルを読み込み、「デバイス」メニューから機器名を選択すると、選択したデバイス上での表示がエミュレートされる(写真3)。また「フォントフェース」メニューからフォントを「ゴシック」か「明朝」に変更することもできる。
Kindleの自己出版プラットフォーム「Kindle Digital Publishing」とKoboの「Writing Life」でデビュー作を自己出版、Koboでは複数ジャンルの売り上げ1位になった藤井太洋氏の「Gene Mapper」を読み込み、変換させてみた。
現在のところ、日本語の縦書きに対応しているのは「Kindle Touch」だけのようだ。写真4のように、パッと見では、まあままのレベルに達しているように見えるが、よく見るといくつかの問題点がある。
まず、文字の縦横がそろっていない。「く」「り」は中心線から左にずれているし、「ら」「し」「で」などもよく見ると不自然だ。半角1字分開けることが一般的な行頭の「」(カギカッコ)が、空白なしで詰められている。
デバイスを「Touch」同様日本市場への投入が予想されている「Kindle Fire」に切り替えると、さらに不自然さは増す(写真5)。
縦書きにならないのは前述の通り。さらに行の終わりがそろっておらず、禁則もおかしい。「、」「。」だけでなく、「っ」「ょ」などの「小字」までもが禁則の対象になっているようだ。
Kindle for Mac、Kindle Cloud Reader(ブラウザーベースのビューワ)でも試してみたが、いずれも同じような表示だった(写真6、写真7)。
このように、現状手に入る材料で判断する限り、Kindleの日本語表示は日本で一般的に売られている紙の書籍にはもちろん、電子書籍にも及ばない品質であると予想されるのだ。
なお、筆者は10月8日、Kindle Paperwhiteを入手した。セットアップで「日本語」が選択できるようになっており、「日本語」を選ぶと、UIやメッセージなどがすべて日本語になった。ここから考えると、日本で提供する機種のうちにKindle Paperwhiteが含まれていることは間違いないと思われる(写真は、Kindle PaperwhiteでGene Mapperを表示したところ)。
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