パクリ礼賛--アップル対サムスンで考える特許とイノベーション - (page 3)

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パクれる自由

 さて、Allworthのエッセイは突っ込みどころ満載だが、中にはちょっとした宝石も紛れ込んでいる。

 具体的には、Allworthが自説の補強材料に持ち出しているWSJの「コピー(屋)礼賛」というコラムがそれで、「金融からファッション、飲食、スポーツの世界まで、パクリが許されているからこそ、どんどん新しいものが生まれ、それで全体が発展した世界がいつくもあるぞ」という話がわりと事細かに書かれている。

 インデックスファンドでVanguard Groupを最大の投資信託会社にしたJohn Vogel、アパレルのForever 21、それに大ヒットノンフィクション『マネー・ボール』で一躍脚光を浴びることになったOakland Athleticsのゼネラルマネージャー、Billy Beanなど、馴染みのある名前もいくつか出てくるこの記事。これまで常識とされてきた「パクリは創造にとって悪いもの」という考え——つまり「何かを作り出しても他人にパクられてしまうと分かっていたら、そもそも新しいものを生み出そうとする人はいなくなる」「汗をかかない模倣者が利益の大半をせしめてしまう」といった考えが実際にはあてはまらない例もある、というのがその主旨だ。

 このコラムで引用されているThomas Kellerという有名な料理人の考え——「(アイデアを)自由にパクり、それに自分なりのヒネリを加え、さらに改良を加えることができるからこそ、ほどほどに良いものが素晴らしいものに変わることがある。また、その過程で他の人間にインスピレーションを与えたり、本人の手柄を宣伝する役に立ったりもする」というのは、あまりに性善説に過ぎるきらいもあるが、それなりに力を持つものとも感じられる。

 このコラムが良い意味で刺激的だと思えるのは、自分にとって身近なものにあてはめて考えられる点だ。たとえば……

  • もしラーメンの作り方に特許が認められていたらどうなるだろうか
    茹であがった麺の湯切りの回数とかまで、いちいち争点になったりするんだろうか
  • Chicago Bullsを6度の優勝に導いたPhil Jackson(註2)ヘッドコーチは、自分の考案したトライアングル・オフェンスで特許を取得しようとしただろうか
    真似しようとしてうまくいかなかった他のヘッドコーチの例もあるから、たぶん特許権の有無は関係ないだろう

 などと、次から次に想像をめぐらす例が浮かんでくる。そして、アイデアの占有を示す特許とイノベーションという問題全体が、これまでとは少し角度から考えられそうに思えてくる。

 WSJのコラムでは結びに「色んなものが簡単にコピーできる今の世の中で、パクリが害を及ぼす場合があることも事実。だから、それを禁じる——創造(行為の成果)を保護する何らかの規制も必要だろう」とある。現実には、この害の影響や、それに伴って動く金額があまりに大きなものになっているため、たとえばこのコラムの筆者が、いま法廷で戦い続けているAppleやSamsungの関係者と議論しても、話はまったくかみ合わないだろう。

 それでも「パクリが許されることには良い面もある。先行する何かの上に偉大なイノベーションが生み出されることも珍しくはない——そうした偉大なイノベーションが生み出されるためには、パクれる自由が必要」という考えには、1ページ目の冒頭に挙げたビデオで語るSteve Jobsの考えと一脈通じるものがあるように思えなくもない。

(敬称略)

註1:通信キャリアが望んだ「iPhoneのような製品」

韓国語から英語に訳されたメモには次のような一節もみられる。

All the carriers tell me, Hey JK! Your phones have great technological prowess and everything's great. But it's hard to sell them as high-end phones. That's because we spent all of our subsidy funds on the iPhone and can't give a penny in subsidy to your phones, so of course your phones will be expensive and then it follows that they won't sell.

I hear things like this: Let's make something like the iPhone.

どのキャリアの人間も私に向かってこう言ってくるんだ。「やあ、JK! あんたのところの電話機は高度な技術が使われていて、すべてが素晴らしい。でも、ハイエンドの製品として売るのは難しいんだ。なぜかというと、端末の販売補助金(=割引販売用予算)をすべてiPhoneに回してしまって、あんたの会社の端末に回す予算がまったくないからだ。無論、あんたのところの製品は高価だから、割引がなければ売れないだろう。

「iPhoneのようなものを何か作ろうぜ」。私が耳にしているのはそういう(キャリアの人間の)セリフだ。

 以上、筆者による意訳だ。無論、「顧客が望むものを作ること」という商売成功の原則を認識することと、製品の実装段階で競合他社から物言いがつくようなパクリをすることの間には、それこそ「天と地」ほどの違いがあると思うのだが。


註2:名将 Phill Jackson

NBA歴代最高の通算勝率を誇る名将。ヘッドコーチとして、シカゴ・ブルズで6度、ロサンゼルス・レイカーズで5度、通算で11回の優勝経験を持つ。Michael Jordanという神様のようなプレーヤーを擁しながら、なかなか優勝に手の届かなかったシカゴが勝てたのは、トライアングル・オフェンス導入のおかげというのがもっぱらの説だ。

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