パクリ礼賛--アップル対サムスンで考える特許とイノベーション - (page 2)

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イノベーションの良し悪しを判断するのは「誰」か

 Allworthのコラムには、それ以外にもいただけないところがある。「競合する各社に(法廷ではなく)市場で決着をつけさせることが、裁判よりもすぐれた解決策」という主張だ。この主張自体が間違っているとは言えないが、背景への考察などが文章に表れていないのだ。

 「市場でなら、どの会社のイノベーションが良いかについて消費者が判断を下す」「コピー行為に対抗する最大の防御は、法的手段に訴えることではなく、競争相手が真似できないようなスピードでイノベーションを作り出していくこと」など、威勢のいい言葉が並ぶ。しかし、「自分にはそのようなものが理想的な状況——消費者にも、また本物のイノベーターにとっても理想的な状況に思える」という結論はナイーブに過ぎる。

 周知の通り、消費者は優れた選択肢の中から、常に最も良いと思える製品を選ぶとは限らない。別な言い方をすると、商品の善し悪しを判断するのは顧客に違いないのだが、その顧客が必ずしもエンドユーザー=消費者とは限らないというのは、ごくごく当たり前の話だろう。

 一時は大きな期待を集めながら、結局はHewlett-Packard(HP)に身売りすることになったPalmの例はその典型だ。Verizon Wireless(以下、Verizonと略す)が大量発注の約束を反故にしてPalmに引導を渡す結果になった。Palmの幕引きをしたのが、Appleから移ったJon Rubinstein——そう、Steve Jobsの長年の戦友だったというのは何かの偶然だとしても、だ。

 また、iPhoneを独り占めにしていたAT&Tに「対抗できるタマ」を探していたVerizonに、うまく「Droid」を売り込み、これが往年のフィーチャーフォン「Razr」以来の大ヒットとなったことで、いったんは再生に成功するかに見えたMotorolaの例も思い浮かぶ。Verizonの寵愛がSamsungに移ったのとほぼ同時に、Motorolaは再び赤字に転じ、未だにその状態から抜け出せていないことも周知の通りだ。さらに、MotorolaとVerizonに救われる形でGoogleのAndroidが息を吹き返したことも、キングメーカーとしてのVerizonの影響力の大きさを物語っている。

いじらしいほど顧客を見るサムスン

 審理中の裁判では、証拠として「デザインの危機」のメモが提出された。Samsungで携帯端末事業を仕切るJK Shinが、デザイン部門の管理職にハッパをかけた際の記録(部下がメモして、後に部門内で回覧)のことだ。これに目を通すと、Samsungは徹底的に直接の顧客である通信キャリアの要望に応える製品作りをしようとしてきた跡がはっきりと伺える。

 このメモには、「オレたちが差し出した製品(プロトタイプ)のデザインに対して、キャリアの人間から何か注文が付いたら、オレたちはそれを一言漏らさず書き留めておいて、何度も何度も修正を繰り返して……」という、ちょっといじらしい一節なども含まれている(それが事実だったかどうかは確かめる術もないが)。

 いずれにせよ、Samsungにとって最も大事だったのは、Allworthが言うような「消費者に選ばれるイノベーション」の創出ではなく、目の前にいる通信キャリアの人間に買ってもらえる製品を作ることだったのだ。

 「何を今更そんな当たり前のことを……」と感じる方もいるだろうが、そういう当たり前のことをすっ飛ばして、イノベーションを云々するのは全くのナンセンス、とそう思って改めて記してみた次第である。

 なお、この記事にはすでに300件を超えるコメントが付いていることから、読者の間では大きな反響があったと思える。一方で筆者が普段から目にしているテクノロジ系ニュースサイトやブログでは、ほとんど相手にされていないようにも見える。ただし、Kara SwisherTim O'Reilly、それにMG Sieglerあたりは反応している。このタイミングで「卓袱台(ちゃぶだい)をひっくり返すような話」と思われたのかも知れない。

 話の焦点が特許侵害からだいぶずれてしまったので、この話はここでいったん打ち止めにして(註1)、もう少し論を進めてみたい。

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