WWDC解説:「グーグル包囲網」を形成するアップルの施策 - (page 2)

 パートナー関連で一番大きな発表だったのは、Facebookとの提携だ。

 しかし、同サービスとの共有機能の「ディープインテグレーション」については、5月末のD10カンファレンスでCEOのTim Cook氏が仄めかし、それに続く形でTechCrunchなどが報じていたから、その分だけ新鮮味が失われたというのは間違いない。

 ただし、それと同時に、似たような分野で競争する複数のプレーヤーのうち、立ち場の弱いほうを先に自社の影響下に取り込み、後でそれを梃子に強いほうも味方に引き入れる(自分の条件で手を組む)のは、ある意味でAppleの常套手段といえる。

 昨今のソーシャルメディアでの動き——まずはTwitter、その後でFacebook——というのは、その前のiPhoneに関する米携帯キャリアとの組み方——2007年にまずAT&T、そして昨年1月にVerizon Wirelessという流れ——を彷彿とさせる。さらに、Facebookに対しても一方的に「アクセス経路」を開けてあげるだけでなく、すでに実装している「Photo Stream」機能に他のユーザーとの共有機能を付加することで、しっかりと牽制材料を用意している。いやはや、まったく隙がない、と舌を巻いてしまった。

アップルが浮沈の鍵を握るサービスが増える

 ところで。この基調講演の最中に「iOSとの連携が発表されたYelpとOpenTableの株価が上がった」というアラートがCNBC(のiPadアプリ)から流れてきた。iOS 5でのディープインテグレーションが決まって以来、トラフィック流入の増加、大型増資、さらに最近では「2年後に売上10億ドル」の見通しが報じられたTwitterなど、Apple(のiOS端末)が浮沈の鍵を握るサービスが目立ってきている。

 そこで当面、注目の的となるのはやはりFacebookへの影響だろう。今回発表された統合が形になる秋のiOS 6投入以降、どんな変化が生じるのか。同社の場合、とくに「モバイル分野の取り組みで後手に回っている」と指摘されつづけ、さらにここに来て米市場でのユーザー数と利用時間数の延びも鈍化してきたという報告も上がってきていることから、Appleとの連携に期待するところも大きいはずだが、Twitterと同様に、モバイルトラフィックのマネタイズ方法を見つけ出すところまで達することができるのかどうか。その点が、おそらく大きな注目をあつめることになりそうだ。

 さて。

 ここまでは、今回の発表についてどちらかというと消極的なことを書いてきた。すでにゲームの主導権を手中に収めたAppleには、「ゲームのルールを変更」する必要などないことが判っていながら、長年の習性のせいで、常に「ゲームチェンジャー」となるようなものの発表を期待してしまう。そうしたところから生じる物足りなさのようなものが、この消極的評価の源泉にあるのだと思う(SDKのリリースなど何らかの発表を期待していたApple TV関連で、結局なにも出てこなかったことも理由のひとつかもしれない)。

 だが、そうした個別の内容から一歩後ろに下がって全体を見直してみると、今回の発表からはかなり面白い「メッセージ」が見えてくる。

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