「わたしがいつも思い知ることの1つは、まず顧客の体験をスタート地点として、そこから技術に取り組まなくてはならないということだ。技術から始めて、それを売る場所を探そうとしてはならない。わたしはこの間違いを、おそらくこの部屋にいる誰よりも多く犯しているし、それを証明するだけの傷跡も残っている。そして、これが真実だと学んだ。われわれはAppleの戦略とビジョンを策定しようとするとき、「われわれが顧客に与えられる優れたメリットは何か、どこで顧客を獲得できるか」ということから始めた。「エンジニアと話して、われわれが持っている素晴らしい技術と、それを売る方法を見つけよう」という話はしなかった」
人間中心のテクノロジというこの考え方自体が、コード、キーボードによるコマンド、プログラミング言語といったものを含むコンピュータ業界の基盤を拒絶していることに注意して欲しい。
テクノロジ業界の他のリーダーや企業が、この変化を完全に把握し、内部化し、組織化するには、おそらく20年はかかるだろう。間違って欲しくないのは、彼らはそれを成し遂げるということだ。現在のテクノロジ企業と将来のテクノロジ企業は、現在のテクノロジ業界のデザインが破綻していることへの回答として、また次世代のテクノロジ製品デザインとして、人間中心の製品開発を採用するだろう。多くの企業が、すでにこの方向への第一歩を踏み出している。ASUSやHTC、そして(Windows Phone 7を作った)Microsoftを見てみるといい。
Steve Jobs氏はAppleが良い状態にある時に同社を離れたし、同社はほぼ確実にこの領域のリーダーであり続けるだろうが、Jobs氏が与える影響は、むしろAppleの外部に対しての方が大きいだろう。何百ものテクノロジ企業が、今後数十年にわたってAppleの製品デザインに対するアプローチを模倣し続ける運命にある。20年以内には、すべてのテクノロジ企業が人間中心の製品デザインを採用しているだろうし、何十年後かには、それらの企業はこの考え方を完成したものに仕上げ、Appleの痕跡はほとんど完全に判別できなくなるだろう。今から100年後には、その考え方のルーツがAppleの共同創業者にあることを辿るのは歴史学者の仕事になっているはずだ。
それほど長く待つつもりがなく、今すぐテクノロジにおける人間中心の製品デザインについて考え始め、道筋をつけたいという人には、Jobs氏自身を研究するのにはあまり時間をかけず、今後出てくる彼の人生についてのドキュメンタリーや研究に囚われないようにすることをお勧めする。むしろ、彼がしたことをするべきだろう。学び、成長し、テクノロジ以外の世界の見聞を広めることだ。
実際、Steve Jobs氏のキャリアは、現代のリベラルアーツ教育が上げた最大の成果だと言えるかも知れない。Jobs氏は結局リード大学の課程を修了しなかったが、標準的なコースの履修方法には従わなかったものの、気に入った授業には時間を費やした。例えば、彼はカリグラフィの授業を取ってタイポグラフィに対する興味を深め、その知識を初代Macintoshに採用した優れた画面上のフォントに活かした話は有名だ。これはもちろん、Microsoft Windowsのフォントの使い方にも大きな影響を与えた。
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