今朝、いつものように開いたニュースサイトで、Steve Jobs氏の訃報を知った瞬間、私の胸には暗くて冷たくて重たい、鉛のような思いが押し寄せてきました。不思議なことにそれは、過去にどこかで味わったことがある感覚と同じでした。
1980年の12月8日、当時、高校3年生だった私は通学途中のスクールバスで「ジョン・レノンが凶弾に倒れる」のニュースを聞きました。数秒、唖然とした直後に「これから世界はどうなってしまうんだろう」と、言いようのない不安に駆られたのを覚えています。
もちろん、いくら偉大だからといって、1人のミュージシャンが亡くなったくらいで世界は変わりません。でも、ジョン・レノンの存在が自分にとってあまりに大きかったため、あのときは本当に世界の終わりのように思えてしまったのです。
あれから31年が過ぎ、もうすぐ50に手が届く歳になりました。さすがに、いまは世間知らずの青年ではありません。でも、今朝の世界はあのスクールバスの中とまったく同じ「真っ暗闇」に見えてしまいました。体の中からエネルギーが流れ出し、気がつくと「はぁっ」とため息をついています。
でも、しばらくは無気力で過ごすしかなかった17歳の坊やとは違っている点が1つだけありました。「だから、“いま”を大切に生きなきゃいけないんだ」という強烈なメッセージが繰り返し、頭の中を駆け巡るのです。
私にとって、Steve Jobsはたくさんの贈り物をくれた恩人です。まずは彼が命を削って創ってくれた見事な作品たち。iPod、iPhone、iPad、Mac Book AirにOS X Lion。iTunesという新たな音楽メディア。そして、その周辺にあふれる愛すべきアプリや周辺機器。
とくに、2006年ころから、なにに自分の情熱を注ぎ込むかを決めかね、半ば死んだように暮らしていた私にとって、iPhoneとの出会いは奇跡的でした。ITの世界から遠ざかって約5年。もう一度、雑誌を創っていたころのように、この業界で自分のオピニオンを発信してみたいと思わせてくれたのが、あの先進的なデバイスだったのです。
初めてiPhoneを手にした私の耳には、たしかに「ロッキーのテーマ」が鳴り響いていました。すっかりなまった体にムチ打ち始めるシルベスタ・スタローンのように、無我夢中で情報を集めまくったものです。
そして、もう1つのかけがえのない贈り物は「創造への取り組み方」を教えてもらったことです。iPhoneやiPadを触ったときに感じる不思議な感覚。他の製品にはない、圧倒的な質感と完成度。なぜか、「間違いなく自分は大切にされている」という感情を抱かずにはいられません。
一切の妥協なしに、命がけで、大事にだいじに創られたものには、使う人を感動させるエネルギーが宿ること。さらに、その魔法は、その気になればだれにでも使えることを、スティーブ・ジョブズは証明してくれました。
このことを考えるたびに、私はビートルズの名曲「愛こそはすべて」を思い出します。「All You Need Is Love」。自分が創るものに捧げる愛情こそがすべて。
「つまりは、真に愛せるものを創るんだよ」
新しいアップル製品を買うたびに、私はそんなメッセージを受け取ってきました。
バトンはわれわれに渡されたのだと思います。有名なスピーチや、伝説の基調講演で残された名言もたくさんあります。それ以上に、彼が製品に込めて託してくれた伝言をしっかり受け取りたい。
「夢中で創ったものは人をしあわせにするんだよ」
いまという時間を大切に、奇跡が起こせることを信じて、もう一度、本気の創造のために気合いを入れ直したいと思います。どれだけお礼を言っても足りません。本当に、ほんとうに、ありがとうございます。
IT&ソーシャルメディアコンサルタント、執筆家、音楽家。福岡県出身。1962年生まれ。85年から95年まで音楽家として活動。96年に編集者に転身。99年、雑誌『インターネットマガジン』編集長に就任。2002年に独立。2005年、KDDIウェブコミュニケーションズ顧問に就任。著書『iPhone×iPad クリエイティブ仕事術』(インプレスジャパン)『すごいやり方』(扶桑社)。現在は、iPhone、iPad、クラウドサービス、ソーシャルメディアなどをテーマにしたブログ「ZONOSTYLE」を中心に、独自の活動を展開中。Twitterは@zonostyle、ブログはZONOSTYLE
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」