テクノロジの世界でもっとも大事な仕事をしているのは誰だろうか。また、人類にもっとも大きな長期的影響を与える技術は何だろうか。わたしはこの2つの問いに、毎週少しずつ脳の処理能力を割いている。わたしは、「1世紀以上先まで続く波を起こす可能性を持っているのは何か」と考えるのが好きだ。
実際にはテクノロジの世界では、われわれが一喜一憂したり、絶賛したり、激しく議論しあったりしている技術のほとんどは、100年後にはほとんど目に見えないものになっているだろう。過去10年間にこの業界で開発された数多くの技術でさえ、ほとんどの場合、時間が経つと他の製品へと変化したり、新しい企業に吸収されたり、単に未来の世代の革新者たちが得る卓越した新発想の小さな種になったりする。それが自然の理だ。
わたしが探し求めているのは、例外だ。そして、常に例外はある。
Steve Jobs氏はその例外の1つだ。
彼が2011年8月24日にAppleの最高経営責任者(CEO)を退き、10月5日にこの世を去ってから、Jobs氏がいかにパーソナルコンピュータ時代を先導し、4つの異なる業界--PC業界、携帯電話業界、音楽業界、アニメーション映画業界--を変えたかを説明し、いかにAppleを経済的に忘れ去られた存在から引き戻し、地球上で時価総額がもっとも大きい企業にまで押し上げたかを語る、出来のよい回顧録が数多く書かれてきた。
それらの業績はみな魅力的で意義深いことであり、今後も長年の間話題に上るだろう。しかしわたしは、将来認められるJobs氏の究極の遺産は、まったく違ったものになるはずだと断言する。
それは金銭的なことではない。有名な「現実歪曲フィールド」のことでもない。また、マーケッターとしての優秀さでもない。Apple製品のことでさえないだろう。少なくとも、1つの特定の製品のことではない。
将来、Steve Jobs氏のもっとも重要な貢献は、彼がテクノロジのためのテクノロジではなく、人のためのテクノロジを作ったことだ、と捉えられるようになるだろう。彼はそのキャリア全体を通じて、機械の使い方を習得するために再トレーニングを強いるものではなく、人々の考え方や働き方に適応する、人に役立つツールを作り続けてきた。
ほかのテクノロジリーダーも(特にAppleが最近の成功を果たしてからの10年間は)このような考え方に対してリップサービスをしているが、このコンセプトを企業とその企業が作るすべての製品の隅々まで吹き込んだのはJobs氏だけだった。
わたしが見つけた一番いい例は、Macworld Expo 1997の質疑応答セッションでJobs氏自身が述べた、技術の人間化についての話だ。
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