テクノロジのシンボルであるその人物は、聴衆の前に立ち、コンピューティングの未来についての自らの構想を具現化した1台のプロトタイプを手にしている。それはタッチスクリーン型タブレットで、雑誌よりも薄く、バッテリは1日持ち、価格は800ドルを切る。
しかし、この人物はSteve Jobs氏ではなく、このタブレットも「iPad」ではなかった。それはBill Gates氏で、2005年にシアトルで、「Windows」のハードウェアメーカーの人々を前に語っていた。Gates氏は、このようなデバイスを実現するテクノロジの登場はまだ数年先だが、その構想に向けた取り組みを始める時期だと述べた。
その1年後、Microsoftは「Origami Project」の詳細を明らかにした。これは、「Windows XP」にタッチインターフェースを加えることで、Gates氏の構想を商品化しようという取り組みだ。しかし、テクノロジはまだGates氏の構想に追いついていなかった。
サムスンの「Q1」など、最終的に商品化されたデバイスもあったが、そうした製品は失敗だった。バッテリ寿命は短く、価格は1000ドル以上した。1年もしないうちに、Microsoftとパートナー企業は取り組みをおおかた断念してしまった。
その4年後、Gates氏のタブレット構想は現実となったが、それはAppleによるものだった。Windowsベースのタブレットを販売しようと10年にわたって取り組み、iPadのようなデバイスを実現できるハードウェアの動向を予見しておきながら、Microsoftは今までチャンスを逃してきた。
iPadはおそらく、新しいコンシューマー向けガジェットとしては、完全に流れを変えた「iPhone」以来、最も評判がいい製品だろう。一方で、Origami Projectへの注目度は低く、モバイル市場で相次ぐたくさんの失敗の1つにすぎなかった。PC市場は今も急速に成長し続け、Microsoftの独占が続くが、モバイル市場における同社の失敗はWindowsの長期的な将来を脅かしている。
スマートフォンやタブレットなど、コンピューティングの新しいフォームファクタで苦戦が続くMicrosoftは、Origami Projectを振り返ってみるのがいいのかもしれない。Microsoftは未来を正確に把握していながらチャンスを逃してきたが、これはどういうことなのだろうか。
第一に、Origami Projectは時期尚早だった。Gates氏はコンピュータのバッテリ寿命が1日になる時代の到来を予測できていたが、当時の小型Windowsマシンは、まだ数時間のバッテリ寿命があれば幸運という程度だった。そして、マルチタッチがAppleのiPhoneとMicrosoftの「Surface」で実現するのはさらに数年後の話だった。
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