成長の踊り場を迎えるベンチャー企業--飛躍に向けて求められる「逆算の経営視点」

今野穣(グロービス・キャピタル・パートナーズ)2009年10月19日 21時24分

 2008年から続く不況の中、ベンチャー企業が成長し続けるためにどういった経営戦略や成長戦略をとる必要があるのだろうか。この連載では、経営支援(ハンズオン)型の投資でこれまでに多くの企業の成長を導いてきたグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)が投資の実経験をもとに、そのノウハウを解説していく。

 今回は第1回目の連載ということもあるので、本題に入る前にGCPの投資について、少し概括的な話から始めたい。

新規投資の考え方

 不況下と言われる現在も、我々は依然として積極的な新規投資を継続している。現在約400億円弱のファンドを運用しており、あらゆる業種・ステージの会社が投資対象とし、「日本発(初)世界初」「30年、50年、100年続く会社」の創出を目指している。

 キャピタリストの要件としては、事業・産業への理解・洞察を重要なCapabilityとして認識している。1社あたりの平均投資金額は3〜4億円、投資実行後は、キャピタリスト自身が投資先の経営メンバーの一員として参画し、資金調達にとどまらず、売上成長、利益・キャッシュフロー増大、経営管理システムの構築、IPO・アライアンス支援など、経営陣と共に日々汗をかいている。

 我々は投資する際、「市場性」「競争優位性」「経営チーム」の3点を重要視している。もちろん業種・業界によって異なる部分もあるので一般化するのは難しい部分があるが、具体的なポイントを列挙したい。

  • 市場性
    市場規模が大きい、もしくは濃い。そして成長している市場であること(市場のとらえ方が大事) 現状、顧客に明確に「痛み」や「不便さ」があること。
    「あったら便利」ではなく、「必要不可欠」な技術・製品・サービスであること。
  • 競争優位性
    技術やノウハウ、製品のパフォーマンスなど、何かしらの要素が業界で「1番」があること、もしくは「1番」になり得ること。
    大きい市場や成長している市場に身を置き、明確な強みを維持しつつも、汎用性高く、面としてカバーできる可能性があること。
    技術的な差別化要素やコストアドバンテージなどのコンセプトに止まらず、その優位性を確実にするオペレーションの質の高さや仕組みが存在すること(実行力が大事)。
  • 経営チーム
    「人好き」であり、社内外に積極的にコミュニケーションをとれること。
    1人の経営者による経営ではなく、強みや弱みを補完し合う、経営「チーム」が組成されていること。
    経営チームとして、「私の利益」ではなく「公の利益(実現したい世界観)」に対して強い思い入れがあること。

 上記のポイントは一般的なことかもしれないが、成長している分野や市場における技術・製品・サービスの栄枯盛衰のスピードは速く、また、人を人が評価するなどということは極めて困難な要素であるので、機械的に「○」や「×」を付けて投資の判断をするわけではない。

 最終的には、各キャピタリストが上記のポイントに留意しながら、「経営チームを人として信頼・共感し、自分自身が彼らを大好きかどうか」「経営陣・会社に何かがあっても、自分自身が経営陣として代わりを務めたい、務められると思うか」--というような点で最終的に意思決定していたりする側面もある。

“成長の踊り場”からの飛躍

 さて、前述のポイントを加味しながら、本題に入りたい。ほとんどの企業が、我々の投資以前・投資後にかかわらず、「成長の踊り場」に直面するはずだ。もしかすると経営者は日々会社をどのように成長させていくかを1番の悩みとして、思案しているのかも知れない。

 しかしながら、私自身それを解決する方法として、何か特効薬があるとは思っていない。有り体に言えば、「ヒト・モノ・カネ・情報の(常時)最適配分」という陳腐な表現になってしまう。もう少し柔らかい表現をすれば次のとおりとなる。

  • 常に、実現したい、すべきと考える世界観のイメージを見失わない。
  • 当たり前のことを当たり前のこととして取り組む。
  • 好機を自ら呼び込む受け皿として体勢やポジションを常に整えておく。
  • 好機が訪れたら、徹底してそれをやり遂げる。

 こういったことがポイントではないかと思っている。あるカンファレンスで、我々の投資先でもあるグリー代表取締役の田中良和氏が「現在価値の最大化は将来価値の最小化につながりかねない」という話をしていたが、現状でなく将来を見据えるべきという考えは、とても示唆に富んだ発言だと思う。

 こうして見ると、「結局成長は外的要因に依存しているのか?」という指摘を受けるかもしれないが、上記に挙げた4点は、どれも簡単なようで、とても難しい。しかし、難しいこと、他人がやりたがらないことを当たり前のようにやることこそに価値、差別化要因が生まれるのではないかと考える。次項からは“成長の踊り場”からの飛躍に向け、私が実際の投資先企業で行った取り組みをご紹介したい。

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