成長の踊り場を迎えるベンチャー企業--飛躍に向けて求められる「逆算の経営視点」 - (page 2)

今野穣(グロービス・キャピタル・パートナーズ)2009年10月19日 21時24分

1.事業ポートフォリオの再構築

 まず、見失いがちな自分達の「強み」を再認識する。明確なレベルに落ちなければ、事業という枠を取り外して、より具体的な表現になるまで考え抜く。また、ビジネスモデルという観点でも、「対価を誰からどのようにもらうのか」「経営およびキャッシュフローの安定性の観点で、どうしたら継続的成長を担保できるのか」を明確化する。

2.分かり易い方針(KPI)の策定・徹底した繰り返し

 成長を続けるベンチャー企業は、動きが激しい市場に身を置き、一定の強みが持っている。それゆえに、理論上いろいろな事業への参入が可能になったり、研究開発をしてみたくなったりする事が多いため、意外とシンプルな方針を策定するのは簡単ではない。しかしながら、全社員までとは行かないまでも、基幹社員が一枚岩で徹底的にやり抜くためには、一言で表現できる方針を打ち出すことが非常に重要となる。

 具体的には、「○○で日本一になる」「新規獲得会員/クライアントは○人/○社」「販売促進費/研究開発費は○○円内に収める」「トップ○クライアントの○%を獲得する」「月次のキャッシュバーンは○○円以内で経営する」など、いくつかの方針(KPI:Key Performance Indicator)を設定することが重要になる。これにより、少ない資本の中での経営の安定性を担保しつつ、次の成長の種を発掘することを両立させることを目指す必要がある。

3.予算策定の明確化・短サイクルでのローリング

 上記方針を反映した形で予算に反映させていく。特にボラティリティー(変動性)の高い事業の場合は、予め経営資源の投下方針の枠組みを設けることが大事になる。先が読めないような先行投資型事業に関しては、マイルストーンを設定し、撤退基準を決めておくのも重要だろう。

 また、一度策定した予算は、事業の進捗に合わせて、短いサイクルで軌道修正していくことが、策定すること以上に大事である。

4.経営判断に必要な情報インフラの整備

 一方で、必要な情報が整備されていないと正確な意思決定ができなくなる。特に、方針に基づいたKPIに関しては、必ずモニタリングできる環境を早期に整備することが大事です。損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)、キャッシュフロー計算書(C/F)では追いきれない重要な指標に関しては、多少手間が掛かっても、情報を随時モニタリングできるよう情報インフラを整備し、迅速かつ正確な意思決定ができるような環境を整えなければならない。

5.経営チーム・Middle MGRの補強

 資本力の少ないベンチャーでは、大枚をはたいて基幹社員を招へいすることは容易でない。一方で、ベンチャー企業の採用は、基幹社員から行わないと、結果的に現場の人財は路頭に迷ってしまい、適切に成長させることができないケースが散見される。

 一番理想的なケースは、報酬やその他の条件そのもの以上に、その会社の理念や将来性、実現したい価値に共鳴し、現経営陣と同じ想いを共有できる人材に入社してもらうことだ。しかしながら、特にアーリーステージなどの会社では、たとえば最高財務責任者(CFO)のような専門性の高い職種を経営陣のネットワークだけでは十分カバーできない場合がある。こういった場合には、我々のネットワークの中から最適な人物を招く場合もある。

6.大規模クライアントや事業提携先などの紹介・ブリッジ

 事業そのものの運営や技術などの深い知識に関しては、我々より経営陣の方が、専門性が高いことが多い。しかし我々も日々、さまざまなベンチャー企業や大手上場企業のキーマンと接点を持って、情報交換や勉強をし、良質な生態系の中でのネットワーキングに勤めている。その過程で、特にベンチャー企業が接点を持つのが難しい大手企業や、日常経営陣が接点のない産業で有りながら展開可能性の高いチャネルに関しては、適宜経営陣を紹介し、大きなプロジェクト進めたり、事業・資本提携につながるような関係性構築の触媒となったりするような企業間の橋渡しをしている。特に大手企業にとっては、主要株主として我々が名を連ねていることで、間接的な信用補完になっていることは少なくない。また、今後は海外の事業開発能力を我々が補完していくことも、求められると認識している。

 全体に共通する視点として、我々ベンチャーキャピタルの1つの役割は、「『逆算の経営』というような視点で見ること」ではないだろうか。様々な企業の成功・失敗体験から、現在の状況から将来訪れるであろうアラームや機会を読み、早い段階でリスクを潰したり、機会を獲得したりできるよう経営陣とディスカッションを行う。

 そして、当期、当半期、当四半期といった区分に分け、企業が成長するためには何を具体的に達成すべきなのかを将来に渡るストーリーの中で位置付ける。将来上場するにしても、資金調達するにしても、企業成長に関する分かりやすいストーリー性は非常に重要な要素である。

 次回は、私の担当している投資先企業の経営陣とともに、「成長の踊り場」を越えるために行った取り組みなどをより具体的に紹介する。

今野穣

グロービス・キャピタル・パートナーズ

プリンシパル

2006年7月Globis Capital Partners入社。現在同社にて、IT/Mobileセクターを中心に投資をリード。 担当先企業として、インタラクティブブレインズ、ライフネット生命保険、メタキャスト、ビープラッツなどがある。前職は、Arthur Andersen Business Consultingにて、グローバルサプライチェーン戦略立案、Post Merger Integration、営業オペレーション改革、中期経営計画策定などのプロジェクトマネジャーを経験。 東京大学法学部卒。

グロービス・キャピタル・パートナーズは、グロービスグループの持つ経営ノウハウおよびネットワークを駆使し、創業段階および成長段階の起業家・ベンチャー企業に対し、事業資金の提供のみならず、企業成長のために必要となる「ヒト(人材)」「カネ(資金)」「チエ(経営ノウハウ)」を総合的に支援するハンズオン型ベンチャーキャピタル。
設  立:
1996年
運用総額:
約400億円

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