アンダーソン氏はバートランドの「競争市場ではすべての価格は限界費用へと収束する(In a competitive market, price falls to the marginal cost)」という定理を掲げ、新たな情報インフラが十二分に整備された環境下での経済のあり方を前向きに問うべきとしている。アンダーソン氏が『FREE』の多くの「サイドバー(コラム)」の中で議論しているように、ネット上のコンテンツやサービスだけではなく、リアル社会の中での物財やサービス財すらも、情報システムを背景に置くことで「FREE」になっていく可能性を指摘している。
以前のエントリで示したFREEにまつわる議論(WIREDに掲載された記事)では「6つのFREE」を掲げていたアンダーソン氏だが、本書『FREE』では、下記の4種類(下位分類も含めると7種類)にFREEを再整理している(用例などは森の解釈を含む)。
補完しあう二つの製品を組み合わせて一つの機能を実現する際、片方を無料や廉価なものとして、普及と利用を促進する。例: コピー機とトナー、ひげそりのシェーバーと替え刃など
費用の負担者と製品の提供者、そして製品消費者といった三者を組み合わせることで、経済圏を成立させる。例: 広告付きのメディアなど
無料の製品と有料の製品が、提供する機能の範囲などの違いを有したまま同じ市場に両立する。例: 試供品やニコニコ動画の登録会員と会費を支払う会員など
提供者と受益者の間で貨幣ではなく、注意(Attention)や敬意(Reputation)の交換が行われるもの
・贈与経済(Gift economy)例: wikipedia、Linuxなどアンダーソン氏が先の記事での6種類に「海賊版」を加え、中国やブラジルを例に「FREEというビジネスモデルが最も適用しやすい環境」(第14章「FREE WORLD: China and Brazil are frontiers of Free. What can we learn from them」)としたのには、正直驚いた。しかし、現状の違法状態はともかく、そこにおけるコンテンツなどの産業のあり方を考えて行けば、その将来像は消費者による正規品の購入の圧倒的な拡大ではなく、むしろフリービジネスの台頭を創造することの方が容易だろう。
また、これまでの経験則として、FREEがキーワードであっても、ビジネスモデルを成立させるための手法として、下記のものがあるという指摘もアンダーソン氏は行っている(これも、用例は森の解釈を含む)。
CとEに関しては詳細な説明は不要だろう。これらはFREEをマーケティングの、あるいはビジネスモデルの中核的なツールとして採用するというもので、いずれもインターネットの黎明期からなじみの深いものばかりだ。
不動産ですらFirstClassなどのダイアルアップ/TCP/IP上のBBSソフトでのコミュニティ概念として登場していた。ある意味で、これらの素朴な概念道具をより大きなフレームワークで整理し、効果的なビジネスモデルデザインに昇華させるために、FREEというコンセプトは重要性を持っているといってもいいだろう。
すなわち、「価格の限界費用への収束=ゼロ化」という現実を、宿命として受け入れるだけではなく、危機を機会に変える発想法としてFREEを捉えるべきなのだ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
NTT Comのオープンイノベーション
「ExTorch」5年間の軌跡
すべての業務を革新する
NPUを搭載したレノボAIパソコンの実力
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力
日本のインターステラテクノロジズが挑む
「世界初」の衛星通信ビジネス
先端分野に挑み続けるセックが語る
チャレンジする企業風土と人材のつくり方