「(Googleブック検索のために設立された)版権レジストリ(Book Rights Registry)は、いわば世界規模のJASRAC(社団法人日本音楽著作権協会)だ。音楽でも著作権は国ごとに管理され、各国の団体が相互連携しているのに、版権レジストリは世界中の書籍の権利情報を一元管理し、本拠地は米国ニューヨーク、理事も米国の出版社と作家、というのは、個人的にひっかかる。このことにもう少し注目してもいいのではないか」――著作権問題に詳しい弁護士の福井健策氏は、Googleブック検索をめぐる問題について、このように提言する。
これは4月23日に東京都内で開催された、ワイアードビジョン、アスキー総合研究所、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の共催によるセミナー「コミュニケーションデザインの未来 第2回 米国Googleの権利覇権と情報流通革命」において語ったものだ。福井氏はこの問題の論点を整理するとともに、日本の作家や出版社が今後どう対応すべきかについても語った。
Googleブック検索とは、書籍をGoogleがスキャンして、オンラインで検索、閲覧できるようにしたサービス。現在は著作権保護期間を過ぎた書籍や、許諾を受けたものを全文表示し、そのほかの書籍については書誌情報や抜粋部分のみを表示している。Googleはすでに700万冊以上をデジタル化しているといい、これは国会図書館の所蔵和漢書(約650万冊)よりも多い。
このサービスをめぐって、米国の作家協会や全米出版社協会が、書籍のスキャン自体が著作権侵害にあたると提訴していた。Googleはフェアユースにあたるとして自社の正当性を訴えていたが、2008年10月に和解することで合意した。この訴訟が、米国特有の「クラスアクション」という制度を利用していたため、和解内容が米国で著作権を持つすべての権利者に適用されることが、議論を呼んでいるのだ。
日本や米国はベルヌ条約に加盟しているため、日本の著作権者も米国内で著作権を持っている。このことから、日本の作家や出版社も、今回の和解に含まれるとみなされ、所定の意思表示をしない場合は、自動的に和解したことになってしまう。
クラスアクションは公害問題や薬害問題など、利害関係者がたくさんいて1人では裁判を起こしにくいケースでよく採られている手法だという。ただ、福井氏によれば「公害問題など、利害関係者が米国内に限られ、規模も数千人程度が普通。著作権でクラスアクションを起こしたという例はあまり聞かない。利害関係者が世界中に何千万人といて、地理的にも非常に離れている点を考えると、原告側の利害が本当に一致しているのかという疑問は残る」と語る。
なお、国内では詩人や童話作家などが参加する権利者団体「社団法人日本ビジュアル著作権協会」の会員が和解から離脱することを表明している。また、Googleは権利者からの反発を受けて、和解表明期限を当初予定の5月5日から9月4日に延期すると発表している。
和解内容は次のとおり。まず、2009年1月9日までに出版された書籍について、Googleは自由にスキャンし、以下の4つに利用できる。なお、和解対象となるサービス地域は米国のみで、海外からは利用できない。
Googleは、米国で市販、流通されているものについては、権利者が許可した場合のみこれらの方法で利用するとしている。逆に言えば、米国で市販されていないものについては、著作権者が拒否しない限り、これらの方法に使うということだ。日本の書籍は漫画なども含めて米国内で流通していないものも多く、出版関係者の中にはこの扱いにとまどう人も多い。
福井氏がGoogleに確認したところ、「日本で流通していて、米国でもオンラインで入手可能なものについては、対象から除かれるように検討している」とのコメントが得られたという。現在、Googleのデータベースでは日本の多くの書籍が米国で絶版扱いされているが、この点については今後変わる可能性があるとのことだ。
冒頭の福井氏の発言で登場した「版権レジストリ」とは、GoogleがGoogleブック検索で得た収入の一部を著作権者に還元するために設立される団体だ。非営利法人で、作家と出版社から同数の人が理事として参加するという。Googleは設立と和解管理のために、3450万ドル(邦貨換算で約34億円)を拠出する予定だ。
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